原稿やらテレビ出演やらありがたいことに忙しい生活の中のオフって大事だな、と思う。
今俺は忙しさ最高潮。
映画のプロモーション活動が引っ切り無しにあったもんで。
だけどそれも昨日で全部終わった。
ホッとして疲れて、そのまま夢の中。
1時間前に起きてからずーっと布団の中でごろごろ格闘してやっと振り払えた眠気。
身体を思いっきり伸ばして、手を天井に突き上げる。
あーよく寝た。
今まで頑張って起きてた分まで貪るようにして寝た気がするな。
これでカーテンを開けて快晴だったりすると最高なんだけど。
生憎、先に音が耳に入ってしまった。
ぽつぽつ、と家の屋根とか壁とかに当たる雨の音。





今日の天気は雨。
午後には落ち着きますが今日一日太陽は見れないかもしれません、と。
自然とつけたテレビの中で気象予報士がそう言って、一礼した。






































































雨上がり、気分は良好





















































































朝から雨なんてこれほど憂鬱なことは無い。
もそもそと起きだして朝ごはんを用意しながら、窓を介して外を見る。
どんより曇った空に雨を止ませる気配はゼロ。
からっと晴れてくれりゃ気分もいいのにな、なんてボヤキながらフライパンを振った。
足元にネルがじゃれ付いてくる。
そういやお前のご飯まだだったなぁ、と一人ごちてドッグフードを取り出した。
カラカラと音を立ててお皿に入れてやれば嬉しそうに食べ始める。
おいお前俺が食うまで待つとかしないのかよ。
ご主人様は寂しいぞ。
泣き真似をしてみたところでそんなの気にしてくれないのわかりきってるんだけどね。







寝ぼけ眼で何とか出来上がったのは目玉焼きにトーストに牛乳。
バランスはどうにせよ一応朝ごはんらしいものが出来上がって、すとんと椅子に腰を下ろす。
足元のネルはとっくに食事を終了して丸くなっていた。
いただきまーす、なんつって一人しかいないんだから寂しさ増すだけだっつの。
突っ込みも自給自足。ああ、空しい。
思いながらパンを齧って。
だけどさして美味しくなくて、皿の上に投げるようにして戻す。





一人って食欲湧かないな。
誰かが一緒にいるか、飯がとびきり美味いかのどっちかじゃないと、ってそりゃ贅沢もんだ。
食べることに対してあんまり執着がないってのが手伝って、基本的に朝昼晩問わずご飯の用意は面倒だったりする。
なかったらないでいいし(って長野くんに言ったら笑み殺されそうになった)
そりゃあれば食べるけどさ。
ご飯誰かに作って欲しいなぁと思って浮かぶのは二人。
我らがリーダーと、悪友の松岡だ。
どっちも料理が上手くて、しかも手際がいい。
家にある残り物だけでぱぱぱっと作っちゃうんだから、凄いもんだ。





ああ、でも。
リーダーは今日ロケがあるっつってたし。
松岡は忙しそうだし。
二人ともダメだ。
長野くん、ヒマじゃないかなー。
美味しい店連れてってくれないかなー。
なんて思いながら色んな人に手当たり次第メールをしようと携帯を開く。
皆来ちゃったらどうしよう、なんて顔を緩ませながら。









『今、ヒマ?』










と、それだけをうって送信した。




















でも。
実際、現実は甘くなくて。
それに加えて、予測不能だ。
速攻で返ってきたメールは、一件。
しかも。











『ヒマ。』










「・・・あれ?」










そのメールは忙しいと思っていた悪友からの簡潔なメールだった。


















メールを続けていくうちにまだヤツは起きたばかりらしいことがわかった。
昼ご飯何か作って、と打ったらあいよーと返ってくる。
普段はよく喋るくせにメールになった途端無口になるから不思議だ。
ただ面倒くさいだけだと本人は言ってたけど。
作ってもらうばっかじゃ悪いから色々買い込んでいく旨をメールすれば、再びあいよーの文字。
しかもご丁寧に絵文字付き。
寝癖のついた髪をがしがしやりながら携帯をもそもそ弄っている悪友の姿を思い浮かべて、吹き出してしまった。
ナルシストで格好つけなアイツの本当の姿を知ったらファンは悲しむな。





さて、おでかけしますか。
立ち上がれば散歩に行くのだと勘違いしたネルが尻尾を振った。
いや、お前はお留守番。
びしょ濡れのわんこ連れてったら迷惑になるだろ。
俺に連れて行く気がないのを素早く悟ったのか、ネルはいじけたようにきゅーんとひと鳴きしてホットカーペットの上で丸くなった。

























































































































































久々に訪ねた松岡の家はさしてお変わりもなく。
インターホンを鳴らせば、鍵は開いてるから入れ、となんとも奴らしくない返事が返ってきた。
遠慮なく入らせていただくけど。
傘を玄関に置いて足を進めれば、居間でジャズと遊んでいる松岡の背中が見える。
俺に気づきもしないもんだから何となくムカついて、でかいそれに買い物袋をぶつけてやった。
「いって!・・・イノぉ」
抗議の視線、プラス、アヒル口。
少しこけた頬に、微妙な感じに出来上がっているモヒカン前の髪型。
この髪型ってきちんと立ててないと変なんだな。
やったことないから知らなかったけど。
あまりにもヘンテコで突っ込もうとして、何故か躊躇う。
突っ込む気が失せたというか。
一瞬、突っ込むって行為を面倒くさく感じた。
普段はそんなことないのに。
松岡相手に遠慮してんのかな、俺。
微妙に突っ込む用意の出来ていた左手を気づかれないようにそっと戻して。
代わりに、買い物袋を持ってた右手を差し出す。
「おーっす。これ、手土産」
「おう」
興味深々に袋の中身を覗く松岡。
あの頭の中では何を作るかっていうレシピがぐるぐる回ってるんだろう。
友達ながら凄い特技だと思う。




「・・・・・・イノちゃーん」
「はい?」
「ちょっと、質問してもいーい?」
「なんなりと」
「この鶏の胸肉とか水菜とかそういうものは比較的理解出来るんだけど一緒に入ってるゴム手袋とか輪ゴムなんつーものはなに?これ使って何か作ってとか言っちゃうんだったら俺にも考えがあるぜ?」
呆れたような口調で言われて袋の中身を覗けば、確かにそんなようなもんが一緒になってた。
あれ、入れた覚えはないんだけど。
俺が欲しかったのかなぁ。
「あー・・・・・・寄付?まぁ安かったんだよ、うん」
とりあえず思いついた言い訳を口にする。
軽く詰まっちゃったから怪しまれたかな、なんて気になって。
でも松岡は怪しむ様子もなく、ただ眉をくいっと上げて俺を見つめた。
「その計画性の無さは相変わらずだなお前。・・・これもだよ。大根一本も買ってどうすんの」
「だってでかい方が安かったんだもん」
「当たり前だっつの、でかいの買って貰った方が儲かるんだから。使い切る前に腐らせちまうのがオチだろこれ」
「・・・・・・そこを何とか」
「馬ぁ鹿野郎ぉ」






ぺしり、と額をひと叩き。
悪友は俺の持ってきた買い物袋を持ってキッチンに消えていった。
妙に楽しそうに鼻歌なんて歌いながら。
後を追ってキッチンを覗く。
早速作業に取り掛かってる松岡に声をかけた。






「なぁ、何でそんな楽しそうなんだよ」
「んー?いやね、お互い忙しい中イノちゃんが訪ねてきてくれたことが嬉しいわけよ俺は」
しゃりしゃりと大根をカツラ剥きしながら松岡が答える。
「仕事立て込むとなかなか遊べないしなー」
「それもあるし、お前からのアプローチが珍しいってのもあるし」
「・・・・・・そうだっけ?」
「そうよーイノちゃんは何故か俺には冷たいのよねー」
「言ってろ馬鹿」
アヒル口でんなこと言われても実感が湧かない。
同じ芸能界にいて、しかも同じ事務所だから会うときは会うし。
仕事がバラバラだと全然会わないけど。
昔はしょっちゅうつるんで、遊んで、いいだけ悪さして。
それに比べたら全然減っちゃったかも、な。
軽く松岡の寂しい気持ちが分かったところで、良い匂いが鼻を擽ってきた。
じわじわと湧き上がる空腹感。
時計を見ればもうすぐ12時。
「腹減ったー!」
「うちの末っ子みたいなこと言うなっつの。もう少しだから待っとけ!」
「へーい」






うん。
ご飯を待ちながら急かすこのやりとりがたまらなく好きだ。
誰かにご飯作ってもらうって、やっぱいいな。






「ほいよっお待たせ!松岡特製水菜と鶏肉のスープパスタに、大根サラダですよー!」
「おー美味そう!」
「美味そう、じゃなくて美味いんだよ!」
「わかったわかった。いっただきまーす!!」





久しぶりに食べる松岡の料理はやっぱり美味しくて。
ああ、やっぱ誰かと食べるっていいもんだな、と一人思って笑ったら。
何キモい顔してんだよと突っ込まれてでこに突っ込みを受けた。
普段なら乱闘に発展しかねない流れだけど、今日はいいんだ。
俺、何気に気分いいから。














































































































「・・・・・・なぁ、イノ」
食事が終わり自然とコーヒーが出てくることに感動していた俺に、松岡の声が降ってくる。
「んー?」
見上げれば、近くに悪友の顔があって。
ビビッて後ずさろうとするも、松岡の手が俺の頬を掴んだのが先で、逃げられなくなった。
っていうか、痛い。
「・・・ぁんらよぉ」
尋ねるも答えはなく、ただ思案顔で俺の頬を摘んだまま上下左右に動かす。
なにこれ。
不思議に思った瞬間左右に思いっきり引っ張られ、離されたかと思いきやバチン!と音が立つくらいに叩かれた。
「いっっっっってーーーーーーーーーー!!!なにすんだよ松岡この野郎ぉ!」
「んーちょっとお顔のマッサージを」
「あのなぁ、こんな痛ぇマッサージなんて聞いたことねぇよ!」
「らしくねぇから強めにやったんだっつの」
アヒル口でさらりとそう言う松岡の言葉にぽかんとする。














らしくない、って。
・・・俺が?


















「・・・・・・?」
理解出来ずに首を傾げれば大袈裟なくらい大きなため息をつかれた。
「わかってないなら重症だ。お前なぁ、ウチに来た時自分がどんな顔してたのか気づいてねぇだろ」
「どんな顔、って」
思い返してみても、何も見当たらない。
だって、俺普通だったし。
あ、買い物袋ぶつけたこと根に持ってるとか?
うーん。
「・・・・・・こんな顔?」
自分を指差してみればべしん、と叩かれる。
「アホ。普段あんだけ馬鹿みたいに笑ってるくせに全然表情なかったんだよ。顔に神経使うのが面倒臭ぇ、ってな感じで」
だから優しい松岡さまがマッサージしてやったんだぞ、って。
言われてついでにがしがしと頭を乱暴に撫でられた。











































え。

























「・・・そうだったの?」
「そーだったの」
「俺、笑ってなかった?」
「んー・・・つーか軽く引きつってた」
「マジで?!」
慌ててぺしぺしと頬を叩いてみれば、もう大丈夫だよ、と呆れた声。
「・・・ホント?」
「おう」
にかっと笑みを浮かべる松岡に釣られて俺も笑う。






ああ、これだ。
いつもの俺ってこんな感じじゃん。
突っ込むタイミングとか。
勘違いしたことへの言い訳とか。
そんなもん気にしないでいられるのが、松岡なんだよ。
どうして忘れてたんだろう。
普通の、至って当たり前のことなのに。














「・・・しっかしよかったなぁ俺の前で」
「何よそれ」
「んな顔そっちのメンバーに見せてみろ。みんな引くぞ」
むに、と再び抓まれて。
満面の笑みを向けられながらむにょむにょしてきたから、ムカついてヤツの腋辺りに蹴り一発。
「ぬごっ!!!」
「むにむにむにむにしつけーんだよ俺はお前のおもちゃじゃないっつーの!!」
「だぁってイノちゃんのほっぺた触り心地いいんだもーんv例えて言うならちょっと空気の抜けた風船、みたいなー?」
「何だよそのしょぼい例えは!しかも分かりづらい!!10点!!!」
「えーーイノちゃんってば採点厳しーい」
「その言い方すっげぇムカつく!!」
「・・・だけどそんな俺が好きだろ?」





オカマキャラから一転、急にニヒルな笑みを浮かべてそんなことを言うロマンチストに。
俺は手加減抜きで回し蹴りをプレゼントしてやった。
よろめきつつゆらり、と立ち上がる松岡。






「ほぉーーーう・・・イノちゃん、さすが腕鈍ってねぇなー」
「当たり前だろ。お前にゃ負けねぇよ」
「相変わらず自信満々だねぇ。惚れちゃうぜ悪友」
「何て言いつつやる気満々だろお前もよ」
「わかっちゃった?久々にやっちゃいますか井ノ原さん」
「やっちゃいましょうよ松岡さん」





お互いの了承を得て。
合図らしい合図もないのに、図ったように同時に拳を繰り出した。



































































































































































「じゃあな松岡、ごっそーさん」
玄関で靴を履いて後ろを振り向けば、やけに男前に磨きがかかった悪友の姿。
よしよし。おでこの痣は帽子で隠れるな。
俺はといえば、口の端が切れて喋りづらい状態だ。
明日は午後からだから、気合で治さないと。
「おう。また来いや」
やけに清々しい松岡の表情。
多分、俺も同じような顔をしているんだろう。
勝敗は付かず仕舞いだったけど。






玄関に立てかけていた傘を手に取り、ドアを開ければ。
快晴、とまではいかないにしろ、雨は上がっていた。
これでからりと晴れていれば格好良く決まるんだけど、雨男が二人揃っていたためか空は曇り空。
ぽかんと二人で上を見れば。
何が可笑しいんだか笑いがこみ上げてきて、またもや同時に笑ってしまった。
























雨上がり、気分は良好。
帰ったら寂しく家で寝てるネルと散歩にでも行こう。
歩きながら携帯を開けば、タイミングよく長野くんからのメールが届いた。
夜は長野くんのお勧め店でディナー決定。
いいんじゃない。
とっても、俺らしくて。










END

思った以上にまとまらなくて意外と難産でしたこの話・・・!
悪友コンビを書くといつも不思議な方向に行ってしまうなぁと思います。何故だ。
サイコメ見た影響で妙にマボやんがはっちゃけちゃった感たっぷり。
midsさま、受け取っていただけると嬉しいですー!


・・・とかいいつつオマケがあったり。
別サイドとして書くつもりが、またちょっと違う感じに。
話は二人の戦いの小休止辺りです。本編では端折った場所。
マボやん一人語りでしかもとっても短いですが、それでもよろしければこちらからどうぞ。
2007.2.19