放課後。
坂本番長が帰路につこうと、門から足を踏み出したところで、







「ばーんちょーーうっ!」







と、でかい声で呼ばれ、ついでにパッパーとクラクションを鳴らされたため、坂本番長は驚かそうと企む相手を喜ばすようなリアクションで音のした方へ顔を捻った。
そこには小さくて可愛い赤色の小型自動車があり、その窓からは井ノ原が顔を出して手を振っている。
思いきり手を振っていたためか、かけていたメガネがずり落ちるのを通り越して、地面に向かって落下した。
坂本番長はそれを人間離れした身体能力を駆使してキャッチする。
メガネには傷一つついていない。
番長はホッとして井ノ原にそれを差し出した。







「落とすな馬鹿」
「あは、ありがとう番長っ」







毎回この鈍臭さには呆れるばかりなのだが、お礼を言う井ノ原の笑顔に絆されてつい甘やかしてしまう番長である。








「で、何の用だ」
「あのねー、一緒にウチに来て欲しいの」
「・・・何で」
「じいちゃんが一度番長さんに会ってみたいんだって」






にへ、と笑う井ノ原。
坂本番長は考えた。
この後の予定は特にない。
今日は八百屋の定休日なので、店番もない。
つまり、暇なのである。
暇潰しには丁度いいな、という結論を出し、番長は首を縦に振った。






「いいぞ。暇だし」
「やったー!じゃあ車乗ってよ」






井ノ原がそう言うと、後部側のドアが自動的に開いた。
番長は首を捻ってみる。
お金持ちの家の車って、普通黒いベンツとかじゃねぇのか?と。
目の前のそれはどちらかと言えば女の人が好んで乗るような車である。
運転席を覗き見ると、自分より明らかに年下に見える(番長が年齢より老けているというのもあるが)少年が座っていて、番長は二度驚いた。






「んなっ、何で未成年が運転してんだよっ?!」
「番長、剛は敏腕運転手なんだよー」
番長の質問を井ノ原はきれいにスルーした。
剛はバックミラー越しに坂本番長を見ると、うひょ、と変な声を上げて笑う。
「んだよ」
「快、コイツホントに番長なの?」
「そうだよー超格好いいんだよー」
「クラクションであんだけビビってんのに?見えねぇー」






うひょひょひょ、と馬鹿にしたように笑う剛に、坂本番長は腹を立てて立ち上がろうとして、頭をぶつけた。
コントの様な展開に剛は手を叩いて大爆笑。
坂本番長はぶつけた箇所を押さえてへなへなと座り込んだ。





「・・・っ車が、小さ過ぎんだよ・・・っ」
「番長、剛はこれしか運転出来ないんだよー」
じいちゃんはベンツ運転しろって言ってるんだけど、と井ノ原が言えば。










「だってでけぇと擦んじゃん」





と、剛はしれっと言い返した。
番長はそれのどこが敏腕運転手なんじゃー!と言いたかったが、痛みが勝ったのか無言である。





「ま、いいや。剛、ウチまでよろしくー!」
「任せろ」
頷くと、剛は手に白手袋をはめ、ハンドルを握り、アクセルを踏んだ。

































・・・が、トロトロと進むだけでなかなか規定スピードに乗らない。


























「おい、とれぇぞ」
「煩ぇなぁ。事故ったら大変だろうが」
「剛は安全運転だもんねー」
「規定速度出さねぇと逆に危ねぇんだよ馬鹿!」





のんきな二人相手に一人で突っ込みをし。
それでも変わらずにトロトロと走る車に坂本番長は深く溜め息をついた。










































































































































***********































































































































































「・・・・・・おぉ」





井ノ原の家に着くなり、坂本番長は今度は感嘆の溜め息をつく。
迎えに来た車はハッキリ言って期待外れであったが、住んでいる家は想像以上に大きかった。
無駄に広い庭に、どでかい噴水。
車で走って5分したところに玄関がある。
二人は剛の運転する車から降り、玄関前に降り立った。
井ノ原が斜め上辺りに向かって満面の笑みで手を振ると、自動的に玄関のドアが開き。
「お帰りなさいませ、快彦さま」
黒いスーツを身に纏った岡田が現れ、ぺこりと頭を下げた。
それを見て井ノ原はにぱっとお日様のような笑みを浮かべる。





「岡田、今日もすっげぇ楽しかったよ!」
「そうですか」
楽しそうに報告する井ノ原を見て、岡田もつられるようににっこりと笑った。
岡田は井ノ原のカバンを受け取ってから、はたと坂本の存在に気づく。





「快彦さま、そちらの方は?」
「番長!」
「ば、番長・・・?!」
井ノ原の言葉を聞いて岡田はさぁっと青褪めた。
それを不思議そうな顔で井ノ原と坂本番長が覗き込む。






「どした?岡田」
「ば、番長って、学校を締める頭で来る人来る人に『三千円出せやカンパだカンパ』とか言って金を脅し取ったり鉄の棒を常に所持して気に食わないことがあるとすぐに窓ガラス割ったり先生ぶちのめしたり挙句の果てにバイクに乗って近所迷惑な行為を繰り返しやるアレか?!!」
「どれだよ」






岡田のあまりの歪んだ先入観に変なツッコミを返す番長である。
その横で井ノ原は笑顔のまま。






「岡田相変わらず妄想激しいねー」
「やってこの前読んどった本にそう書いてあったんやもん!」
「また本かよー」
けらけらと笑う井ノ原。
それを見ながら坂本番長は首を捻る。





「・・・どうしてコイツは急にタメ語の関西弁になるんだ?」
「この家の人はほぼ全員タメ語なんだけど、岡田だけどうしても敬語にするって」
「教育係は敬語でビシっとしないといけないでしょう?だから標準語で敬語!快彦さまのお手本として頑張るって決めたんです!」
「・・・ってことはその関西弁が普通なのか」
「タメ語の方が楽だし喋りやすいのにー」
「だーめーやーー!!」
「こんな風に興奮したり困ったりすると関西弁が出るよ」
「成る程」
「・・・・・・二人して俺で遊ばんといてくれる?」
カバンを抱えたままゲッソリとした表情で二人を見る岡田に、井ノ原と番長は顔を見合わせて笑った。













































































































「快彦」




























不意に降ってきた声。
それを敏感に聞き取って、井ノ原の表情が満面の笑みに変わり。
物凄い勢いで声の方向に走っていって、主に抱きついた。






「かっちゃーーーんっ!」
「お帰り。学校、楽しかったか?」
「うん!・・・あ、かっちゃん!今日は番長さん連れてきたよー!」
「ああ」
井ノ原の言葉にかっちゃんと呼ばれた男は、顔を坂本番長の方に向ける。
ぺこり、と礼をされ、慌てて番長も礼を返せば。
「あの方が快彦さまのお祖父さまです」
と、岡田が番長に耳打ちした。
番長は驚いてお祖父さまだと言われた男をまじまじと見つめる。
どう見てもお祖父さまと呼ばれるようには見えないのだ。
はっきり言って、若い。
井ノ原の父親と名乗っても平気で誤魔化せそうなくらいの見た目に、坂本番長の口は塞がらず。
こっち来てよ、と井ノ原に手を引かれて現実に戻ってきた。






「・・・あの人が、お前のじいさん、か?」
「そうだよー」
「植草です、坂本さん」
「や、さ、さんとか付けなくていいですから!年上の方、ですし」
「そう?じゃあ、坂本」





さらりと呼び方を変える植草に、坂本番長はこの人は紛れも無く井ノ原のじいさんだ、と確信した。
纏っている雰囲気といい、笑顔の種類といい、どこか似ているのだ。






「は、はい」
「ちょっと、俺とタイマンで話をしようか」






にっこりと井ノ原と同じような微笑みを浮かべそう言い放った植草の言葉に。
坂本番長は言い知れぬ緊張感と悪寒を感じたのだが。
誰かとそっくりな有無を言わせない笑みには勝てずに、ぎこちなく首を縦に振ったのだった。







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2007.8.26