7、ビルの屋上(Side I)





坂本くんと長野くんが顔を合わせた。
元通りってわけじゃないけど、前よりは遥かにいい感じで。
ちょくちょく坂本くんが長野くんちに戻ってくるようになって。
長野くんがたくさん笑う様になった。





俺の役目は終わったんだな、と。
ふと思って。
どこか、寂しくなったのも事実で。
加えて俺の存在価値って何だろうなんてちょっと哲学的になったりもして。
俺は家にいるより外にいることが多くなった。
居場所がなくなったわけじゃない。
けど、あの二人にしかわからない話題とか雰囲気に居心地の悪さを感じてた。











「あーあ・・・長野くん取られちゃったなぁ」
ごろんと硬い床に身体を転がして不意に漏らした本心に、苦笑する。
なんだよ、この年にもなって嫉妬なんか。
お兄ちゃんの友達に妬いてる弟みたい。
まだまだ子どもだな俺も、うん。























「おーい、井ノ原ー!」
名前を呼ばれて。
面倒だからと寝転んだまま適当に返事をすると。
ゴバッと上から急に顔が現れてビックリした。
「うぉっ・・・と何だ、松岡じゃん」
驚かせんなよな、と言えば悪ぃ悪ぃと笑って返される。
「何、しけたツラしちゃって。どうしたのよ?」
「んー」
ぱすっと肩に手を置かれ尋ねられたけど。
余りにも恥ずかしい気持ちなもんだから、言えねぇ。
「・・・・長野くんと坂本くんのよりが戻っちゃって妬いてんの?」
「なっ、何で知ってんだよっ」
松岡のドンピシャの予想に慌てて出た言葉に後悔を覚える。
コイツが知ってるはず・・・








































・・・・・あ。
知ってるはず、あった。























「・・・てめぇ、また人の心読んだなー!」
「だってイノってば素直じゃねぇんだもん。俺が読んでやんねぇとなーんにも言わないし」
溜めてても辛くなるだけよ、とおちゃらけて笑う松岡。






























奴は人の心の中が読める。
物心ついた時から身についていたその能力のせいで人間不信に陥っていたらしい。
俺からすれば人間不信ってとこは絶対嘘だと思うんだけど。
そんな松岡を救ってくれたのが、奴曰くリーダーと兄ぃだという。
その二人の話をしている松岡は本当に幸せそうで、俺まで何故かにやけてくるほどだ。
・・・肝心の彼らの本名は知らないんだけどね。







『気持ち悪いと思うけどむやみやたらに読んだりしねぇから』





松岡は初対面の人にハッキリとそう言うらしい。
らしい、と言うのは、俺がそれを言われたことがないからで。
初対面は「気持ち、顔にそっくり出てるねお前」だった。
俺は心と顔の気持ちの表れが一緒らしい。
確かに、気持ちを隠すのは得意じゃないし。
っていうか松岡としては俺の反応がおかしかったみたいで。
だって全然気づかなかったんだ、心の中を読まれてるなんてこと。
それ以前に松岡と馬が合ってしまって、そんなことどうでもよくなってしまった。






読むなら読め。
喧嘩上等、嘘は嫌いだ。
俺はそう結論付けて腹を括ったのだった。
























「なぁなぁ」
「んー?」
「この前の話、考えたか?」
どかりと俺の隣に腰を下ろして松岡が尋ねた内容に俺は首を捻った。
「・・・この前の話って、何だっけ?」
「お前なー・・・一緒にココ出ようって言ったじゃんよ!」
「あー・・・そういえば」
覚えとけよと口を尖らせる松岡に曖昧な返事を返す。
何か言ったような気もするんだけど、酔っ払ってたからあんまり記憶がない。
外の世界は楽しいんだぞと色んなことを教えてくれた旅人と意気投合して。
いつかは俺も外の世界を見てみたいなんて、そんなことを言ったような言ってないような。
ほら、俺って勢いで生きてるから。
「坂本くんと長野くんがより戻したらね、って言うから待ってたんだぞ?」
「そっか」
よりを戻したから誘いに来たのか。
松岡も大概単純な奴だ。








んーっと伸びをする。
空は快晴。
雨男が二人揃ってるってのにいい気なもんだね。

















「・・・そろそろ潮時、なのかもな」





















別れるにはうってつけのタイミング。
もう、あの人は一人じゃなくなったんだから。
たくさん笑えるようになったんだから、恩返しは済んだはずだ。







「潮時ってか親離れ時って感じじゃないの?」
「一言多いんだよこの馬鹿っ!せっかく俺が格好つけたっつーのに!!」
「どこがだどこが。どこもかしこもぜーんぜん格好ついてねぇよ細目」






楽しそうに笑う松岡の顔を見て、吹っ切れた。
何を迷うことがあるだろう。
俺はもっと外のことを知りたい。
剣を握らずにただ、世界中を見て回りたい。
それだけが俺の好奇心を掻きたてる。







「・・・行こう、松岡」
「あん?」
「外の世界、見に行こうぜ」







お前と一緒なら何とかやっていけそうな気がするよ。







くっさい台詞を心の中で呟いたら。
手をばっしばし打ち鳴らして超くっせー!と松岡に大爆笑された。






ああ、もう。
コイツの力って、ホント面倒臭ぇ。





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>よっちゃん旅立ちの決意。イメージはサイコメコンビ。
2006.12.24