5、素敵な夢は万華鏡の如く(Side S)
夢を見る。
長野と別れた時からずっと、同じ夢を見てる。
彼を切った手ごたえが生々しく残って。
悲しそうに潤んだ瞳が俺を見据えて。
すまん。
すまん長野。
これは俺の我が儘なんだ。
だから。
これ以上、俺を追い詰めないでくれ。
は、と現実に引き戻される感覚に目を開く。
広がるのは宿の天井。
背中に嫌な汗をかいているのを感じ、身体を両腕で抱えるようにして起き上がった。
一日たりとも忘れた日はない。
これまでも、これからも。
あの日の出来事は、俺の身体を蝕んでいく。
今日は時間をずらして酒場に足を運んだ。
アイツには逢いたくない。
弱っている俺を見せたくない。
そう思っていたのに。
居心地悪そうに佇む薄っぺらい背中を見た瞬間、どこかホッとした自分がいた。
「あ!遅いよ坂本くん!俺もう1時間も待っちゃってんだからねー!」
振り向いた顔はしっかり酔っている。
テンション的にも既に酒に飲まれた感じ。
俺は座席に腰を下ろし、いつもの、とマスターに声をかけた。
「・・・井ノ原」
「なぁに?ってかようやく覚えてくれたのね〜快彦嬉しいわvv」
「ハート飛ばすな気持ち悪い」
「うわひっでー」
くっついてきた奴の腕を振り払って言えば、ケラケラと面白そうに笑う。
笑顔が似合う奴だな。
井ノ原に感じた第一印象。
良くも悪くも、笑っている顔が一番いい。
それを見ると俺の荒んだ心が少し癒えていく気さえする。
整った顔つきではないけれど、和み系。
・・・・どっちかって言うと犬系。
マスターおかわり!と元気よく叫ぶ井ノ原。
一時間先に飲んでいたにしてはかなりのハイペースだ。
なんというか、自棄酒に近いっていうか。
「おい、飲みすぎるなよ」
「へーきへーき。俺、結構強いのよー」
自信満々にそう言った井ノ原は。
俺が二杯目に口をつけた時には既にテーブルと仲良くお友達になっていた。
「ねー」
カランカランとグラスの中の氷を鳴らしながらの奴の言葉は、子どもみたいな甘さを含んでいる。
「・・・んだよ」
「おれねぇ、もううごけねぇの」
「・・・・・だから?」
「おくってv」
あは、と。
悪気もなく笑う井ノ原に、眩暈がした。
見事に酔いつぶれた井ノ原を背負い。
酒の代金も全額負担して。
その上家まで送ってやるなんて、俺って何てお人よしなんだろう。
暗い夜道を歩きながら、そう思う。
「さかもとく〜ん・・・」
「人の背中で頬ずり始めんなよ」
「だって、おっきぃんだもんせなかー・・・」
「背中がでかかったら誰でも頬ずり始めんのかよお前は」
「えー?あはは、なにさかもとくんってばおれにほれた?ほれちゃったの?あんしんしてよほおずりするのはさかもとくんのせなかだーけっv」
「・・・落としていいか」
「だーめでーす」
あははーとだらしなく笑って。
こっちを右ねーなんて井ノ原が指差した方向に進む。
っていうか酔っぱらいを信用していいものか、悩むんだけど。
それ以外にコイツの家に行く術を俺は知らないから。
とりあえず、差された方に足を進めた。
たどり着いたのは小さな家。
見た目ボロいけど、確かに人が住んでいる様子がある。
電気ついてるし。
誰かと住んでるのかコイツ。
未成年とは思えないんだけど、両親とか。
「ここか?」
「そうここ〜あは、どうもごめいわくかけましたぁ」
「全くだよ」
井ノ原を捨て置こうと思って奴を支えていた腕を解いたんだけど。
しがみ付かれて困惑する。
「離せよ」
「やだぁーさかもとくんのせなかからはなれたくないー」
「お前はどこの子どもだ?!はーなーせー!!」
ぶんぶんと振り落とそうと身体を動かすも。
「わーいじぇっとこーすたーだー」
井ノ原には全く効き目がなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・勘弁してくれよぉ」
ため息をついて立ち尽くす。
ああもう面倒くさい。
こうなったらコイツの同居人に何とかしてもらおう。
そう思って、ドアを叩いた。
「すいませーん」
「はーい」
がちゃり、とドアを開けた人物を見た瞬間。
俺は生きていた中で最速だと豪語出来るくらいのスピードで後ずさった。
「「うわ」」
えーと。
ちょっと待て。
あれだ。
これは悪夢か?
それとも幸せな夢なのか?
いや、ちょっとおかしい。
頭が真っ白だから混乱してる。
落ち着け俺。
まず、この状況をどうにかしてくれ。
なんで、長野がいんだよ。
ここ、井ノ原の家じゃねぇのか?
えーと、えーと。
「・・・ここは井ノ原さんのお宅じゃありませんかね?」
考え抜いた末に俺の口から零れたのは、なんとも間抜けな言葉だった。
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2006.12.13