6、切れかけの蛍光灯





(Side S)





ぐだぐだの井ノ原をどうにかしないと、と。
そう理由付けて俺は長野に家に入れてくれるよう頼んだ。
いいよ、とあっさり返事があって驚く。





いや、待てよ。
俺が長野を拒絶したんじゃねぇか。
だから長野は別に俺を拒絶してるわけじゃないわけで。






あーもう。
面倒くさくなってきた。







ぎしぎしと軋む床を歩く。
井ノ原細いけど、重い。
しかも泥酔状態に入ってるから、静かだけど重い。とにかく重い。
「井ノ原置いたらすぐ帰るから」
「はぁ」
「なんだよその返事は」
「いや、何か」
坂本くん変わってないなぁと思って。
長野はそう言ってふわ、と笑った。





「・・・・・お前こそ」
「ん?」
「お前こそ変わってねぇじゃん」






井ノ原が色々言うからちょっとだけ心配してたけど。
思ったより変わってないから、ホッとした。







「心配、してくれてたんだ」
「・・・それはその、お前、言葉のアヤってやつで」
「あ、ここ井ノ原の部屋」
「・・・・・」






俺の弁解に被さるように長野が口を開いた。
ちょっ、俺さっきから格好悪すぎ。











かち、と天井から垂れている紐を引くと電気がつく。
意外と綺麗に使ってんだな。
片付いた部屋に入って、ベッドに奴を降ろした。
むにゃむにゃ唸って幸せそうににへ、と笑う井ノ原を見て。
知らないうちに微笑んでいたらしい。









「和むでしょ、井ノ原」
「・・・・・・」
「素直で真っ直ぐでまるで子どもみたいで」
「・・・・・あぁ」
「頼んでもないのに俺と坂本くんを逢わそうとしてる、馬鹿な子」
「・・・・・長野」
「自分はどうなってもいいんだとにかく坂本くんに会いたいんだって、無理矢理剣士になって戦いを挑んだんだよ」







自分の両親を奪ったからと、近づくのも見るのも嫌がってた剣を自ら手にとって。







長野がしゃがんで井ノ原の頭を撫でる。
とても愛おしそうに見つめながら。
「・・・・この子には何度謝ってもお礼を言っても言い切れない」
「・・・・・・そうか」
「うん。この子が幸せになるためなら何でもするって、決めたから」
言うと、すっと立ち上がって手を差し伸べてきた。
「え?」
「握手して」
「な、なんで」
「いいから、っていうかごちゃごちゃ言わないで右手貸しなさい」
「あ、ハイ」
ドスの利いた言葉に、俺は慌てて右手を差し出すと。
長野はぎゅっとそれを握った。






「・・・どこ行っても何してもいい。傍にいたいなんてもう言わない」
「・・・・・・・長野」
「だけど、絶対ここに戻ってきて。それだけは約束して」





長野の言葉は俺のペースを奪う。
俺がこういう性格だってことを知ってるから、俺が答えやすいようにわざと誘導する。
そういう男だ。





「・・・・・・すまん、長野」
「謝罪の言葉はあの時聞きたかった」
「・・・・すまん」
「どう足掻いても戻れないんだから、謝らないでよ」





その代わり、約束してと。
あくまで強気に俺に言う長野に、頷いてみせると。
彼はホッとしたように息をついて、上を向く。
釣られるようにして見上げれば、チカチカと点いたり消えたりを繰り返す蛍光灯。






きっともうあの夢は見ないだろうなと。
蛍光灯を見ながらふと思った。












































































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(Side N)










坂本くんを見送って、一息つく。
久しぶりに顔を見て気が緩んでしまった。
泣き出しそうになるなんて、俺もまだまだだ。
鈍い坂本くんは気づかなかっただろうけど。





床を軋ませながらよっちゃんの部屋に行く。
ベッドの前に立って、名前を呼んだ。





「・・・・よっちゃん」
「・・・・・・」
「・・・・よっちゃーん」
「・・・・・・」
「起きてるのはわかってんだよ」
「・・・・・・」
「どうしても起きないっていうんだったら仕方ないから鼻にワサビとカラシのチューブ突っ込んで中身押し込んでやろうか」
「おおおおお、起きてます起きてますっ!!」
がばっと勢いよく起き上がって首をぶんぶん横に振るよっちゃんに。
俺は笑ってしゃがみこむと、彼の両頬を抓んで横に引っ張った。
「いだだだだだ!!!」
「酔ってるふりして坂本くんを誘い込むなんて技、どこで習ったの」
「ひゃっれ、ひゃかもふぉふんふぉうれもふぃないろひへふれぁいんふぁぉん」
「何ー?」
「うううぅ〜〜〜はなひれ〜〜〜」
泣きながら懇願するから、離してやると。
頬を擦り擦り俺に抗議的な目線を送ってきた。
「長野くーん」
「あははは。ぶっさいくー」
「それは元々ですぅ!」
ぷーっと頬を膨らませて怒るよっちゃんに。
俺はぶはっと吹きだした。
「あっはっはっは!よっちゃんってばホント可笑しい!」
「今更気づいたのかよー」
「ごめんごめん」
謝っていると、よっちゃんがふっと笑った。






「よかったね」
「うん。よっちゃんのおかげだよ」
「俺はなーんにもしてないよぉ」
「ううん。たくさんたくさん色んなことしてくれた」
「・・・・・・」
「ありがと」





優しく頭を撫でれば、嬉しそうに目を細める。
目の端がほんのり赤くなってて、照れてるんだろう。







「もう、無理して剣握らなくてもいいんだからね」






笑ってそう言えば。
笑顔だったその表情が強張って。
あっという間に細い瞳が潤んで、ぱたっと涙が零れ落ちた。





「ホント?」
「うん」
「もう、いいの?」
「いいよ。あんなもの握るのは坂本くんだけでいい」





よっちゃんはぐしぐしと腕で目元を拭って。
嗚咽を繰り返しながら泣いた。
俺は彼をぎゅうっと抱きしめてやる。
その瞬間、よっちゃんは火がついたように泣き声をあげた。






ごめんね。
無理させて、ごめん。








謝罪の言葉を心の中で繰り返しながら。
俺もよっちゃんにつられるかのように、一緒に泣いた。








END



>どうにか再開。このシリーズはここで一旦終了。お付き合いありがとうございました!
2006.12.14