1、冷えていく指先(Side I)
硬いコンクリートを背に、空を見上げる。
真っ黒な闇の中で星が瞬いて。
俺ははぁ、と息をついた。
無理すんなよって言われたのにな。
言いつけ守らないで無理しちゃいましたよ。
悪い子でごめんなさい、長野くん。
でも、どうしても知りたかった。
長野くんに傷を負わせて、独りになった人のことを。
何てことはなかったよ。
見かけが長野くんと正反対で。
強面のくせに、俺が血流してるとこ見ただけで悲しげな目をしてた。
きっと、長野くんを傷つけたこと、後悔してる。
そんな気が、したんだ。
ヒュ、と喉が鳴る。
あーこれ肺までイっちゃってるかも。
さっきから息苦しいし。
じりじりとした痛みが頬からわき腹辺りにかけて走っている。
物凄い切られ方したな、俺。
腹元にやっていた手を下に降ろしたら、べちゃっと生々しい音がした。
うわーやだ。
見たくねぇ、今の状況。
どんどん冷えてくる指先。
人って死ぬ時は指先から冷えてくるんだな、なんて。
ぼんやりした頭でそう思っていたら。
急に、指先がぬくもりに包まれた。
「・・・・ぁの、く・・・」
名前を呼んだけど、上手く言えない。
その人は霞んだ視野の中でも変わらずに微笑んでいて。
言うならば戦場の天使、みたいな。
あ、でも。
考えてることは意外と腹黒かったりするから、天使の皮を被った悪魔ってやつかもしれないけど。
「死にかけにしては余計なこと考えてるね、よっちゃん」
「・・・・・・・っっっっ!!!!!」
ぐいっと傷部分を押さえ込まれ、息が詰まる。
いででででででで。
ちょ、長野くん、容赦して。
「縫合と、止血。無茶するよ全く」
「へ、へへ・・っ」
「身体と顔の傷、残っちゃうかもしれない」
「いい、よ」
いいんだよ。
傷は男の勲章って言うでしょ。
勝てるわけもない相手に向かっていった、俺の勇気への勲章。
馬鹿って言われてもいい。
俺の心は今晴れ渡る空みたいに、スッキリしてるから。
「ながのく、ん」
「んー?」
治療の手を休めずに長野くんは返事をした。
病院でもないのにその場でやっちゃうとか、乱暴だけど。
腕は確かだから、安心して任せられる。
「さかもと、くん・・って、わるい、ひと・・じゃない・・・ね」
「悪い人なんて言ったっけ?」
「ううん・・でも、ながのく、んを、きずつけた・・ひと、だから」
「・・・よっちゃんって、真っ直ぐだねぇ」
考えなしで馬鹿正直で熱くて短気でまとめて言っちゃえば傍若無人。
なんて、呆れたような口調で。
・・・ねぇ、それってワガママってことを遠まわしに言ってません?
そう突っ込む代わりに口から出たのは鉄の味の液体。
あー・・・マジでヤバイかも。
「・・・肺までイってんの自分でわかってんのに喋るところもよっちゃんらしいよ」
「・・・・・・ぅ」
「はい、終わり。帰るから目、閉じな」
あったかい手で優しく撫でられて。
俺の意識は徐々にフェードアウトしていく。
――――――――そんなよっちゃん、嫌いじゃないけどね。
意識がなくなる寸前に聞こえた長野くんの言葉に。
にへ、と顔がにやけるのを実感しながら、俺は気を失った。
NEXT
>剣士イノとサカにお医者さんヒロスさん。
サカさんは強さゆえに命を狙われることが多いため、ヒロスさんを傷つけて独りになることを選んだ剣士で。
ヒロスはサカさんを許してますが、サカさん自身は自分を許してない、そんな設定です。
2006.12.9