歌が、大好きだった。












初めて歌ったのは、公園のベンチの上で。
何気なく口ずさむ程度の歌。
ラジオから聞こえてくる曲を耳で覚えて歌う。
その行為が、大好きだった。






















































































































































































俺の住む場所は普通の人間の住む場所とは少し違って、特殊な力を持つ魔物を先祖とする人種の集まりだった。
セイレーン、だっけ。
ハッキリした名前は忘れたんだけど、確かそんな感じの名前。
人間がその歌を耳にすると色んな影響が出てくるらしい。
俺たちは楽しい気分になるんだけど、人間にはそれが強すぎるらしくて。
所謂、一種の麻薬のような作用を引き起こすんだって。
小さい頃、習った。
だから、人間に極力歌を聞かれないよう隔離して住んでいる。
でも俺はその人種と普通の人間の間に生まれた子どもだったから、その効力は薄く。
その所為でいつも馬鹿にされ、友達が居なかった。
学校の授業に歌で人を楽しくすることが出来るかどうか、なんて項目があり。
俺は毎回ビリの方に居て。
歌ってるのは楽しいのに、周りの人からは下手くそだと貶されていた。











――――――――止めたいな、歌。











ふと、そんなことを思う。
止めてしまえば下手くそだって貶されることも無い。
だけど、歌が好きだったから、なかなかその決意も出来ずに。
誰にも聞かれないように離れて、一人きりで小さく口ずさんでいた。
















大好きな歌。
誰かを幸せにしたいなんて、そんなこと望まないから。
下手くそでもいいから、歌わせて。
















すぅっと息を吸い込む。
吐き出す時に声を一緒に乗せて、外へ。
最初は小さい声だったそれも、気分が乗ってくるとだんだんと大きくなり。
いつしか腹の底から絞り出すように、歌っていた。

















































































































































































一番が終わった辺りで、息をついていると。
横の方から手の叩く音がして、振り向く。













「お兄さん、上手いなぁ」














そう言いながら、微笑む。
立っていたのは小さなリュックを背負っている綺麗な顔立ちの少年だった。
茶色の眺めの髪が風に靡いて、ふわふわと揺れている。
言葉の所々に訛りがあるところから、きっと外の人なんだろう。





って。





「どこから入って来たの?!」
地図にもどこにも載ってないこの村を探すのはほぼ不可能に近いのに。
そう言えば、困ったように笑う。
「僕、迷子やねん。現在地が分からなくなって、ふらーっと歩いてたら声が聞こえたんや」
そしたら君が居った、と微笑まれて、困惑する。
俺の歌声がこの人を呼んじゃったんだ。
「ここはどこや?」
「・・・セイレーンの血を引く人の隠れ村、だよ」
言えばああ、と納得した顔になる。
「知ってるの?」
「ぉん。噂でなー聞いたことあんねん」
人間を惑わす歌声を持つ種族の村やろ、と言われてこくんと頷けば。
怖がるかな、と不安になっていた俺の頭をわしわしと撫でてきた。
え。
「な、なに?」
「君の歌のお陰で僕は助かったんよ。だから、お礼」
にっこりと笑いながら言う。
けど、それは俺も同じだった。
「・・・・・・俺も」
「ん?」
「俺もアナタにお礼、しなきゃ」
「なんで?」
「だって、俺の歌、上手いって言ってくれたもん」



































初めてだった。
初めて、褒められた。
お世辞でも何でも構わない。
その言葉がどういう意味を持つものであっても、嬉しかったんだ。










































「・・・・・・キミ、名前は?」
「俺、長瀬智也」
「僕は堂本光一や。そんで、一つお願い」
「?」
「もう一回、歌ってくれへん?」
さっきと同じ曲でええから、と言われ、ぶんと頷く。
今度は最初から大きな声で歌えば、光一は横で楽しそうに俺を見ていた。
















すげー。
俺、今歌で人を楽しませてる。
聞いてる人が楽しそうにしてると、こっちまで楽しくなってきて。
たくさん、たくさん笑いながら歌った。



















うん。
やっぱ俺、歌好きだ。
歌ってる自分が好きだ。
これを捨てたら俺が俺じゃなくなるし。
俺は自分を好きにはなれないだろう。
それを気づかせてくれたのは、光一だった。





























































































































































帰り方も分からないという光一を、俺は自分の家に招待した。
人間の持つ地図があったから、それを手渡して。
でももう暗かったし、明るくなってから旅に出ればいいじゃん、って言って。
無理矢理、家に連れ込んだって言ってもおかしくないかも。
初めて出来た友達だったから、出来る限り長く一緒に居たかった。
それに、光一とはかなり気が合って。
ずっとこの村に住んでくれればいいのになーなんて、思ったりしていた。
ホットミルクを作って差し出せば、食べものや飲みものは一緒なんやな、って笑って。
二人並んで座って、ホットミルクに口をつけた。






光一は相棒を探して旅をしているんだと教えてくれた。
同じ苗字の、ギター弾き。
兄弟なの?と問えば、よく言われるけどちゃうねん、と返される。
「どこに行ったのか分かってんの?」
「知らん。突然ふらーっと出てったから」
そういうヤツやからなぁ、と呆れたように、でもどこか優しげな目で光一はそう言った。
大事な人なんだな、って感じがして。
・・・ちょっと妬けて。
見つからなきゃいいのに、なんて酷いことを思ってしまって、ぶんぶんと首を横に振って邪念を追い払う。
「見つかると、いいね」
一生懸命そう言えば、ありがと、と言葉が返ってきた。











ああ。
俺ってなんて嫌な人間なんだろう。
心と言葉が全然違う。
しょぼくれて項垂れれば、頭に触れるあったかい手。





























































「長瀬にもいつか、そういう人が現れるよ」










































































その言葉に、目を見開く。
まるで心の中を読まれたみたいだった。








「・・・そう、かな」
「ぉん」
「俺、今友達居ないけど、出来るかな?」
「うーん・・・友達とはちょっと、違うねん」
なんて言ったらええかな、と光一はちょっぴり考えて。
「コイツとは多分ずっと一緒に居んねんなぁ、って感じる相手や」
と、言って笑った。









ずっと一緒に居ることを感じる相手。
光一はどうだろう。
考えてみたけど、ずっと一緒には居ないだろうと思った。
だって、光一は旅人で。
俺は、この村の住人だし。
それに、光一にはもうその相手が見つかってる。
横取りとか、そういうのは嫌いだから。










「・・・・・・この村には、居なさそうだなぁ」
知ってる限りの人を頭に挙げてみて、落ち込む。
皆俺の歌を下手だっていう人ばっかりで。
友達にすらなってくれようとする気配すらしない。
そしたら、光一はキョトンとして。
「そんなら、ここから出ればええやん」
と。
平然とした表情で俺にそう言った。
「え、だ、駄目でしょー!」
「なんで?長瀬の歌は普通の住人に比べたら害はないんやろ?」
実際僕は平気やったし、と笑う光一。
「そ、そうだけどさぁ」
「なら決まりや。ここ出て、自分のこと分かってくれる相手、探し」
「でも」
「でももヘチマもあらへんがな。僕と一緒に旅してれば絶対見つかる!それがお前の運命や!」
「・・・・・・光一って、見かけによらずミュージカルな男なんだね」
「なに?!見かけもあっつい男やろ僕は!」
急に語り口調になる光一。
・・・このホットミルク、お酒でも入ってたんだろうか。










だけど、楽しくて。
人と分かり合って話すのが、楽しくて。
俺は始終笑ってた気がする。
同時にこの村を出ることも真剣に考え始めていた。
俺が出て行っても誰も何も言わないだろうし。
光一と一緒に旅が出来るんなら、楽しいに決まってる。









出よう。
この村を出よう。
そして、光一みたいに運命の相手を探すんだ。
俺の歌を好きになってくれて、気兼ねなく笑い合える相手を。
そう、決めて。
未だ熱弁を奮う光一の横で、ぐいっとホットミルクを飲み干した。









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2007.5.12