・・・どこからか声がする。
聞き覚えのある声。
忘れるはずない、ちょっと訛りの入った優しい声だ。







『いのっちー』







変な愛称勝手につけて。
細目細目って馬鹿にしまくりで。
マイペースで何に対してもおっとりしてる。
無口な、俺と正反対な天使。






綺麗な顔立ちと金色の髪。
俺の求めていた全てを持っていた、天使。






俺は花に水をやっていた手を止め。
ジョウロを下に置くと、ヤツから離れようと足を進めた。
その後ろを待ってや、なんて言いながら追いかけてくる。







『五月蝿ぇ。ついてくんじゃねぇよ』
『なんで?俺、暇やねん、遊ぼうぜー』
『なら他の天使と遊んでろよ』
『いのっちがええねん』
『どうして俺なんかがいいんだよ』








天使のくせに黒髪で、黒装束で。
口も悪いし乱暴だし。
こんな天使のどこがいいんだよ。
傍にいたらお前まで。
お前まで傷つけるかもしれないのに。








『そういうとこ』
『・・・へ?』
『いのっちは優しいねん』
『どこが・・・』
『自分のことより俺のこと考えてくれとるやろ?』






そうやって言って、にっこり笑う。
この笑顔が憎らしかった。
天使の微笑みっていう言葉がぴったりで。
一緒にいるとどんどん自分がちっぽけになっていく気がしたから。







『お前といると周りが五月蝿ぇんだよ』
『周りって誰や?』
『・・・取り巻きの天使たちだよ。オカダさまの純白が穢れるとか言ってたぜ』
『そんなの関係あらへん』
『あるだろ』
『あらへん!』
『なんでだよっ』
『だって、いのっちはいのっちやもん』
















髪が黒くたって。
格好が白くなくたって。
口が悪くたって。























































































『いのっちには綺麗な翼があるやん』























































俺、大好きやねん。





































そんな優しい言葉に。
つい、泣き出しそうになったこと。
まだアイツには言ってない。

















なぁ、俺さ。
天使でいてよかったって。
お前に出会えて初めて思えたんだぜ。
恥ずかし過ぎるから、絶対言わないけど。


































































****************













































朝、目を覚ますと俺はソファの上にいた。
ご丁寧に毛布までかかってる。
周りを見回してみたら、坂本くんが寝ていた。
机に突っ伏したままで。
あれ。
この人もそんなに飲んでたっけか?







時計を見れば、7時をちょっと過ぎた辺りで。
これって、起こしてあげないと大変なことになるかな。






「さーかもーとくーん」






ゆさゆさ





「うーん」
「7時だよーお仕事、大丈夫ー?」
「・・・ぅ・・・ん・・・」





ぱかり、と目を開けて瞬きを数回。
そしてそれを張り裂けんばかりに広げて俺越しに時計を凝視した。






「ぎゃーー!!遅刻!!」
叫んで勢いよく立ち上がったのはいいんだけど。
坂本くんは頭を押さえて呻き、蹲る。
「二日酔い?」
「・・・そうみたいだ」
加減しないで飲んじゃったらしい。
ってか俺が飲ませちゃったのか。覚えてないけど。
お仕事に差し支えること。
すなわち、それは坂本くんの不幸せで。
俺はおもむろに彼の頭に手を乗せ、力をこめた。






こんなことも俺の力を持ってすれば超簡単。
これがホントの朝飯前。









・・・・ってか、アレ?








「・・・・・ぁえ」
「楽になったでしょ?」
「あー・・・さっきよりは」
「幸せ?幸せ??」
「・・・助かった。サンキュ」







頭を乱暴にくしゃくしゃかき混ぜられて。
坂本くんはバタバタと嵐のように家を出て行った。









あんな夢見たのは。
きっと、坂本くんがアイツと同じ目で俺を見てくれたからだろうな。









『お前みたいな口悪くて酒飲みな天使がいるなんて、ちょっとショックだ俺』








坂本くんの天使のイメージを綺麗に覆しちゃったみたいね、俺。
全く、見かけによらず純情なんだから。
そんなとこ、嫌いじゃないんだけどね。










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