人間の顔を見つめると。
その行為で俺には人間の寿命が見える。
俺だけじゃなく、天使は全員。
さっき見た、幸せそうに眠る彼の頭の上。
寿命が見えるはずのそこには、何もなかった。
見えないってことは、イコール、死期が近いってことで。
こんなに元気なのに。
人生、頑張ってきてんのに。
悪いこと全然してなくて。
ただ一生懸命生きてきてるのに。
もうすぐ、寿命迎えちゃうのかこの人。
・・・あぁ。
だから俺が見えたのかな。
いのっちー
・・・・・・・・・・・・・・・ん?
「いのっちーどこにいるーん・・・・って、あ。いたー」
「ぎゃーーーーーー!!!!!!!」
ビビった。
夢に見たから、尚更。
がらり、と窓を開けて突然俺の目の前に現れたのは。
白い羽と。
綺麗な金色の髪と。
整った顔立ちの天使。
きっと天使って言えば、人間はこんなのを想像するんだろう。
・・・坂本くんも、きっと。
「な、なんでお前がここに来てんだよ!!」
「えー、いのっち探しに」
のんびりと俺の問いに答えるオカダ。
「探さなくていいっつったろ!それに大天使になるために頑張るんじゃなかったのかよ?!」
「頑張ってる。でも、ヒロシが探してくれ言うてん」
ヒロシ。
その名前を聞いて俺は彼を責めるのを止めた。
「ナガノくんが?なんで??」
「それはやなー・・・」
「よっちゃん放置してたらホームシックで泣いちゃうからだよ☆」
「ぎゃーーーーー!!!」
俺の言葉は、オカダが答える前に横取りされた。
ふわり、と。
漆黒の羽が俺の頬を擽って。
遅れてにっこりと微笑んだナガノくんの姿が俺の目に映る。
この人も変わってるんだよなぁ。
顔は絶対天使なのに。
色白だし、笑顔も可愛いし。
だけど。
「偉そうなこと言っといて、大天使の試験を片っ端から蹴ってるのはどこのどいつかな〜?」
「う、うぐっ」
「そして逃げてる途中に人間に見つかっちゃうお馬鹿さんはどこの誰かな〜?」
「それは、その・・・」
「ヒガシくんから命令受けてせっっっかく見つけた新しいラーメン屋さんに行く予定をひん曲げてまで探しに来たのに、御礼も何もないなんてねー」
「あ、ご・・ぐぁー・・・・アリガトウゴザイマス・・・」
・・・ってな感じで。
性格はとっても悪魔な人。
めちゃめちゃ強いし。
オカダなんか一発で消しちゃうくらい、朝飯前。
そんなナガノくんが笑顔をふっと消して俺を見た。
「ホントに、受けないの?」
「何を?」
「大天使試験。よっちゃんなら一発合格するくらいの力、あるでしょ」
真顔で言われたから、照れちゃって。
俺はぶんぶんと首を横に振って見せた。
「ないよぉ〜ナガノくんってば俺のこと過大評価しすぎー」
「ふざけないの。それに俺は過大評価してるつもりないよ。よっちゃんは俺よりも力持ってるんだから」
「んなわけないっしょ」
「あるよ。だから人間に見えちゃったんだよ」
そう言われて、何も言えなくなる。
確かに、人間に見えてしまうのは力が強いからっていうのも否定できない。
天使を信じてる人間にしか見えないっていうのが一番の理由だけど。
その理由をより強いものにしているのは、天使自身の力。
坂本くんは天使を信じてる人だけど。
そんなに強い意志も持ってない。
昨日起こった出来事が、ナガノくんの言葉の全てが正しいことを物語っていた。
「人間騙して住み着こうとしたりしてるしさーホントに天使?」
「き、聞いてたのナガノくんっ?!」
「居場所はわかってたからね。楽しそうに会話してたから横入りは止めたけど」
「・・・・・・」
坂本くんの話になって。
俺はさっき見えなかった寿命のことを思い出した。
ああなったら残された時間は少ない。
多くても3ヶ月。
癌を宣告されたわけじゃあるまいし、って日数で彼は死んでしまう。
・・・・・・死なせたくないなぁ。
「・・・よっちゃん」
「なに?」
「人間に深入りしたら、ダメだよ」
さすがナガノくん。
付き合いが長い分俺の考えを汲み取る能力も長けている。
けど。
俺だって、誤魔化す術は持ってるんだ。
「深入りって、俺は何も」
「ならいいけど。あの人もうすぐ死んじゃうでしょ」
「・・・うん」
「運命を曲げることは罪だって、よっちゃんもわかってるよね?」
「・・・・・・当たり前じゃん」
知ってる。
人の生死に関わる力を持っている天使が。
掟を破って人間に関わってしまったら、堕天使になってしまうことくらい。
「堕天使になったらその羽、捨てなきゃいけないんだよ?」
指差された俺の羽。
オカダが好きだって言ってくれた。
唯一の、俺の誇りだ。
「・・・ま、堕天使にならないように俺が監視してればいい話なんだけどね」
ため息混じりでナガノくんに言われた言葉に、俺は目を見開いた。
監視って。
「え、ナガノくんもここにいるつもりなの?!」
「そうだけど?」
何か問題ある?って平然と。
決まっていたことのようにナガノくんは言った。
「俺もいるー」
「・・・ずっと黙ってたから帰ったと思ってたぜオカダ・・・」
「ええやろ?ヒロシといのっちと一緒にいたいねん」
片側からはダメ?と子犬みたいに見上げられ。
もう片側からは断れない雰囲気の目線を頂いて。
・・・あー。
ごめん、坂本くん。
俺、まだ消えたくないんだ。
この力が本当に必要になる、その日までは。
「・・・で、この様か」
買い物袋を手に帰ってきた坂本くんは、増えた住人を見て疲れを増した顔をした。
お仕事ご苦労さん。
そして、ごめんなさい。
ナガノくんはソファでくつろいじゃってるし。
オカダは勝手に本棚から本引っ張り出して読んじゃってるし。
イッツマイホーム状態。
「天使が1匹に悪魔が1匹追加かよ・・・」
俺って霊媒体質なのか?なんて肩を落として項垂れる。
「ナガノヒロシですvよろしくvよっちゃんの監視役だから気にしないでv」
「俺、オカダです」
一応礼儀正しくお辞儀はする二人。
それを見て坂本くんは額に手をやり天井を仰いだ。
「坂本くん・・・ごめんねー」
「・・・居ついたもんは仕方ねぇよ。とりあえず飯にする」
彼が腕まくりをして買い物袋をキッチンに運ぼうとすると。
「ご飯何??」
ナガノくんが勢いよく坂本くんに聞いた。
あ。
そうだった、忘れてた。
この人、食事に五月蝿かったんだった。
時々人間界に降り立ってラーメンの食べ歩きしてるくらいだから、相当だ。
俺この前見せてもらったし。
色んな店で貰った名刺。
30センチ定規くらい厚さがあった気がする。
「・・・ハンバーグにでもしようかと思ってるけど」
「ハンバーグかー楽しみだー♪」
にっこにっこしながら雑誌を手に取るナガノくん。
俺は坂本くんにそっと耳打ちをした。
「あのね、ナガノくんに下手なもの出したら消されるから」
「はぁ?!!」
「ナガノくん、自他共に認めるグルメなの。頑張ってね、坂本くん」
ぽんぽんと肩を叩くと。
坂本くんは体の奥底から搾り出すように疲れきったなっがーーーーいため息をついたのだった。
NEXT
2006.11.19