天使ってホントにいるんだな。














や、冗談じゃなく。
現に俺の目の前にいるんだ。
仕事帰りに空気の入れ替えついでに外に目をやったら。
ほら、子どもが見る本とかに書いてあんだろ。
白い羽で頭の上に光る輪が浮いてんの。
全くその通りの奴が、すぐそこに。






ただひとつ。
想像と違ったのは。
その天使が、黒髪で黒い装束を纏っていたこと。
天使って、普通真っ白で髪は金髪とか、そんなだと思ってたから。







































































































きみの背中には羽がある

































































































「お、おーい」
とりあえず声をかけてみる。
そしたら、目が合った。
キョトンと見つめてくるソイツの瞳も、漆黒で。
普通の人のよりも細い。
天使って美形じゃなかったっけ?
アイツよりも俺の方が整ってる自信すら浮かんでくるぞ。





でも羽だけは凄く真っ白。
纏ってる黒に映えて、より白さが増して見える。
それが、ヤツが天使であることを象徴しているんだろう。
奴は自分を指差して首を傾げた。
俺のこと言ってんの?って感じかな。
一生懸命に首を縦に振ると、細い目をぐわっと広げて。
俺の方に向かってかなり速いスピードで飛んできた。







「うわ!」
「ね、アンタ俺のこと見えんの?」
開口一番。
天使とは思えない口調で楽しげに奴は俺にそう尋ねてきた。
ってか、天使じゃねぇんじゃねぇのか。
ただのコスプレ好きな男だったり。
って、普通飛んだり出来ねぇか。
「なぁ、お前人間?」
俺の口から出てきた言葉はヘンテコなもので。
普通だったら頭おかしいんじゃないってリアクションされそうだけど。
その男はあは、と顔に笑みを湛えて頭を掻き。
「そ。俺、天使」
と、あっさり自分の正体を認めたのだった。
























とりあえず外にいると大騒ぎになりそうだから、家の中に招き入れる。
こんな怪しい格好のヤツ、ご近所さまに大迷惑だ。
しかし彼はいやいや、と顔の前で手を振り。
「俺のこと、多分誰も見えないと思うから大丈夫v」
「なんでそんなことわかんだよ」
「だって、普通俺って人間に見えないもんなんだもん」





そりゃそうだ。
天使が日常で見えてたら大混乱だ。























え。






「じゃあなんで俺が見えるんだよ」
「うーん・・・天使を信じてる人には見えることもあるみたいだけど。
 アンタのその顔で天使信じてます、なんて有り得ないしねー」





うぐっ。
人良さそうな顔のくせに、酷いこと言いやがって。
そりゃさ。
天使信じてますなんて照れくさくて言えないけど。
信じてないって言ったら、嘘になる。
神様もいるんだから天使もきっといるんだろうなぁなんて。






「ま、見えたもんはしょうがないなー」
適当に自己完結を迎えたらしいソイツは。
口を尖らせて天井を仰いだ後、にっこりと笑って俺に言った。
「アンタのこと、幸せにしてやるよ」













は?















「・・・幸せ、って」
「そ、幸せ。天使は幸せを運ぶんだって聞いたことない?」
とりあえずお茶を差し出すと、ヤツはどうもどうもとそれを口に運んだ。
「運びそうな気はするけどなぁ」
「でしょ?」
子どものような表情で俺のことを覗きこんでくる。
細いなりにキラキラしている瞳。
純粋って、こんな感じをいうのかな。





「そんじゃ、まずは名前教えてよ」
「なんでだよ」
「だってさーこれからしばらく一緒にいんのに名前わかんないなんて寂しいじゃーん」
「俺は坂本・・・って、はぁ?!なにそれお前ここに居付くつもりなのかよ?!」
「そうだよー」
何か文句ある?と首を傾げる天使。
文句も何も。
「居候するなんて話、聞いてねぇぞ?!」
「幸せにしてあげるって言ったでしょ」
「お、俺はそんな趣味はない!」
「俺だってヤダよ、アンタみたいな怖い顔の人」






でも、見えちゃったんだもん。
見えたらその人に憑いて幸せを運ぶのが天使の役目だって。
ヤツは渋々といった感じで説明し始めた。









ちょ、ちょっと待て。








「ってことはあれか?早い話俺は天使に取り憑かれたってことか?!」
「そーうでーす!頭の回転速いねぇ坂本くん♪」





げ。





「・・・俺、オバケ苦手」
「オバケって失礼な!俺は天使だよ?!」
頬をパンパンに膨らませて怒るヤツの姿に。
俺はため息をつく。
「それって断れねぇの?」
「俺の申し出を?」
「そうそう」
「ええっ?!・・・いいんだけどさ、俺消えなきゃいけないんだよねー」
「はぇ?」
思いもしなかった言葉に俺はアホみたいな声を出してしまった。
ヤツははぁっと大袈裟なほどにため息をつく。
「幸せを運べなかった罪で消されんの」
「はぁ・・・」
「俺まだ若いんだよー?あんなこともこんなこともしてみたいお年頃なのに、坂本くんの一言で消されちゃうんだ・・・」
うるっと。
潤んだ瞳にうっと詰まる。





「な、泣くなよ」
「死の宣告されて泣かないヤツなんかいねぇよぉ」
両手で顔を覆ってしゃくり上げる天使。
話す声も微妙に涙声で。






困る。
非常に、困る。








「・・・お前が憑くことで俺にデメリットはないのか?」
「そんなのないよぉ」
「体ダルくなったりとかしない?」
「だぁから、俺オバケじゃないって言ってるでしょ・・・」





オバケじゃない。
身体に何か起こるわけじゃない。
断ったら消えてしまう、天使。
冷たく出来る人間ならよかったんだけど。
生憎、俺はそういう風には出来てなかった。





「・・・なら、いいぞ」
「ホント?!」
言った途端。
がばっと顔を上げる。
泣き真似かよ、って感じの笑顔を浮かべて。
「・・・・ああ。俺の所為で死んだなんて言って化けて出てこられたらヤダしな」
「その年で言うことかよ」
「五月蝿ぇな。捨てるぞ天使」
「俺は使い捨てじゃありませんっ!」







リアクション面白ぇの。
俺は思わず大きく口を開けて笑った。
そういや、こんなに笑ったのって久しぶりだ。
仕事で疲れて、飯食ったら寝る生活が続いてたからかな。







「・・・お前は?」
「ん?」
「お前の、名前」
「あ、俺?俺ね、イノハラヨシヒコって言うんだ」






よろしくね坂本くん、と。
手を伸ばしてきたイノハラと握手をしながら。
俺は遠くを見てこれからの生活を案じるのだった。









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