目は少年のようにキラキラ。
ぼっさぼさの髪の毛に無精髭を蓄え、ボタンの掛け違ったスーツを身に纏っている男。
それが妙にしっくり来るので不思議だ。
見た目はちょっと怖そうなのに、口を開けば印象は180度変わる。
お酒も飲むがそれ以上に甘いものが大好きで、イチゴの練乳かけなんつーものを好んで食べている。
でかい身体でにっこにこ、犬みたいに人懐っこい。
それが茂くんが直々にスカウトした新人ホスト、長瀬智也だった。
きみの特技はなんですか?
「ねぇねぇ茂くん!」
仕事の途中、手が空いたところで長瀬は茂くんに近づいて声をかける。
「なん?」
「今日も俺マボ飯食ってっていいっすか?」
にへら、と笑いそう言う長瀬の言葉に茂くんは首を傾げた。
「・・・・マボ?」
「やだなーマサヒロのとこですよ!」
「あぁ、あだ名か」
「はいっ」
にっこにこしながらそう言う長瀬の言葉に今度は俺が首を傾げる。
「マボ飯って何?茂くん」
「マサヒロの作るご飯のことや。美味いんやでーv」
「俺なんか余った分タッパーに入れて持って帰って食べるくらいですからね!」
茂くんの親馬鹿かと思ったけど、長瀬が目をキラキラさせて言うんだから強ち間違いでもなさそうだ。
ってか。
「マサヒロ料理出来んの??」
「ぉん」
「茂くんが教えたとか?」
「ちゃうよ。それがマサヒロの特技らしいねん」
何でも説明書にそう書かれてあったらしい。
食生活(というかもはや生きていく全て)の不精な茂くんにはピッタリな犬人間だったのか、マサヒロよ。
特技。
その言葉に俺は考える。
ヨシヒコにも特技があるんだろうか、と。
別にアイツ出来ることないしなー。
家事もやらせたけど無理だったし。
・・・・・・違法品でしかも処分前だったから仕方ないのか?
「おーい、マサヒロぉ、よっちゃーん」
のんびりした声色で二階に向かって茂くんが名前を呼ぶと、とたとたと足音がして。
競うようにして降りてきたワンコたちはそれぞれの飼い主の足元に嬉しそうにまとわりついてきた。
もちろん、ヨシヒコは俺の足元にじゃれ付いている。
っていうか長野の所為でヨシヒコの呼び名が定着してしまったらしい。
可愛いけど、俺は絶対そんな呼び方出来ねぇ。
恥ずかしすぎる。
「サカモトくーん!」
「おー。いい子にしてたか?」
「うん!マサヒロといっしょにあそんでたんだー!」
にこにこと楽しそうなヨシヒコ。
マサヒロとは結構馬が合うみたいで、喧嘩もするけど大概仲良くやっている。
よいしょ、と持ち上げるとちょっと重くて。
「お前少し大きくなったな」
「ホント?!やったー!」
「・・・・やけに嬉しそうだな」
「だっておれ、サカモトくんとおなじくらいおっきくなるのがゆめなんだもん!」
変な夢を持った飼い犬を見て、想像してみる。
でかい成りをしたワンコ。
同じくらいの身長になると飼い主としての威厳がなくなるじゃねぇか。
絶対ヤダ。
「・・・・・・・・お前はこのままでいいよ」
「えーなんでー?!」
「なんでも」
ヨシヒコを下に降ろして戒めるように言うと、ぷぅっと頬を膨らませる。
お、反抗期かコイツ。
「なぁ、坂本もうちでご飯食べていかへん?」
突然声をかけられて、ビックリした。
見れば茂くんがにこにこして俺とヨシヒコを見ていた。
「俺は構わないけど・・・いいのか?急に」
「全然構わへんよ。なぁ?マサヒロ」
「うん!俺くらいになると急に人数が増えたってどうってことないのよー!」
茂くんに問いかけられ、マサヒロはえっへんとふんぞり返って大きく頷く。
その言葉を聞いてぶはっと長瀬が吹き出した。
「出た、マボお得意の台詞!」
「なんだよ何か文句あんのかトモー!」
「いやいや、それ聞くとああマボだなってホッとするの俺」
言うなりぎゅむーとマサヒロを抱きしめる。
離せオイコラ俺を抱っこしていいのは茂くんだけなんだよ、と口だけは達者だけどマサヒロもどこか嬉しそうで。
その様子を見ている茂くんはもっと嬉しそうにしてた。
「目線がおじいちゃんだよ茂くん」
「ええやんv二人とも微笑ましくてええわぁv」
「・・・親馬鹿っつーかなんつーか」
「ぉんv」
そんな茂くんに目を奪われていた俺は、すぐ傍にいたヨシヒコがいないのに気づく。
あれ、と首を傾げて前を見れば。
「トモーマサヒロばっかずるいよぉ!おれもだっこー!」
てけてけと長瀬に走り寄り、スーツの裾を引っ張っておねだりしていた。
長瀬はそれを見てマサヒロを抱えたまましゃがみ込み、空いている右手を差し出す。
そこにヨシヒコが乗っかるとひょい、と持ち上げられた。
「よっちゃんはマボよか軽いなー!」
「おもいもん!さっきサカモトくんがおもくなったっていってくれたもん!」
「もっと食って俺みたいにならないと!ねっ、坂本くん!」
「・・・・・ぉー」
尋ねられた言葉に適当に相槌を返す。
それよりあれだ。
アイツは抱っこしてくれりゃ誰でもいいのかよ。
愛想振りまきすぎ。
「さーかーもーとー」
「何」
「眉間に皺寄ってるで」
「え、嘘」
眉の間に手をやれば、かみ殺したような笑い声。
「・・・何よ」
「いやー親馬鹿はどっちかなぁ思て」
「・・・俺のどこら辺が親馬鹿?」
「長瀬がよっちゃん抱っこしてるの見てイライラしてるとこ」
「い、イライラしてねぇよ!!」
「ほーぉ」
「なんだよその疑うような視線は」
「別にぃ。素直やないなぁ思ただけやねん」
「素直って・・・っ」
「茂くーん坂本くーん!俺先行っちゃいますよー?」
弁解しようとして長瀬の言葉に邪魔される。
先に行く?!
誰も一緒に飯食うなんつってねぇだろーが。
俺は帰って静かに眠りたいんだよ!
プライベートが欲しいんだっつーの!!
言ってやろうとするも、大きな背中はあっという間に二階に消えていった。
タイミング超悪ぃ。
怒りがすぅっと引いて、ため息一つ。
「どないするん?」
「・・・や、俺はいいや。帰って寝たいから」
「そぉか?」
「ヨシヒコだけ預かってもらってもいい?」
「え、せやけど・・・」
あれ。
さっきまで良いっつってたのに変な反応だな。
「アイツ楽しそうにしてるし。どうせ俺今日もここ来るしさ・・・あ、迷惑?」
「いや、迷惑やあらへんよ!」
ぶんぶんと首を横に振るも、茂くんの表情は曇ったまま。
だけどそれに対応出来る状態の俺ではなかった。
早く帰りたい。
「ならよかった。じゃあね」
軽くお辞儀をしてコートを羽織り、俺は店を出た。
ぽつん、と鼻先に水が当たる。
空を見れば雲行きが怪しい。
傘を持ってきていない俺は濡れるのが嫌だから走ることにした。
無駄な体力は使いたくなかったのだけれど。
早く家に帰りたいんだ。
帰ってこの胸ん中のちょっともやもやしてるものをどうにかしたかった。
家路を急ぎつつ、やっぱり俺は人と交わるのが苦手なんだなぁ、とそう思いながら。
***************
坂本が行ってからすぐ後に雨が降り出した。
この時期には結構酷い雨。
坂本、大丈夫やろか。
窓を見ながらそう、思う。
僕が二階に上がった時、マサヒロは既に調理中で。
長瀬とよっちゃんは楽しそうに話をしてた。
大きな長瀬の手に自分の手をくっつけてまけたーとしょぼくれるよっちゃんを笑う長瀬。
この二人も微笑ましいなぁ。
僕の姿を見つけると、よっちゃんがとてとてと寄って来て、僕の後ろを覗くようにして見る。
「あれ?」
さっきまで笑顔やった子が、急に不安そうな顔になって。
そのままとたとたと階段を降りていく。
よっちゃんを追って僕も階段を降りると。
彼は僕の方に振り返った。
「サカモトくんは?」
「坂本は帰ったで。疲れとるからはよ寝たいんやて」
帰ったという事実を耳にした途端。
よっちゃんの瞳がサァっと曇るのが手に取るようにして分かった。
しょぼん、と効果音をつけたいほど、耳と尻尾が項垂れる。
「おれ、おれ・・・」
目の端に零れそうな涙が見えて。
また後で坂本来るからそれまでここに居り、と言いかけた時。
「おれもかえるっ!!!」
そう言って跳ねるようによっちゃんは走り出した。
犬人間の身体能力は人間より高い。
走ることと音を聞き取ることと匂いを嗅ぐことに関しては、特にずば抜けているから。
慌てて伸ばした僕の手は、見事に空を掴み。
からん、と音を立ててドアを開け、よっちゃんは外に走っていってしまった。
外は大雨。
ドアから身を乗り出した僕は予想外のその強さにビックリする。
あんな小さい子、一人に出来る天候やない・・・!
急いで坂本の携帯に着信するも、まだ家に帰っていないのか留守番サービスに繋がってしまった。
「・・・っ馬鹿坂本・・・っ!」
僕かて分かっとった。
よっちゃんがどれだけ坂本に依存してるかなんて。
だけど、ここまでとは知らんかった。
さっきもっと必死に止めておけばよかった。
でも、そんなこと言ってる場合でもない。
「はよ出ぇ、坂本・・・っ」
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