最近めっきり寒くなってきた。
店先の木々ももう紅葉を始めている。
こんな明るい街じゃ夜の星は見えないな。
寒い日に見る星空は最高に綺麗なんだけど。
それをコイツに見せられなくてちょっと残念だ。





「ヨシヒコ」
名前を呼んで手を差し伸べると。
ぱたぱたと尻尾を振って、駆け寄ってくる。
あ、おい。
「尻尾と耳はしまっとけっつったろ」
「あーごめんなさいっ」
ヨシヒコはフードの上から耳元を押さえた。
ちょっと不自然な形になってるけど、まぁいいか。
「行くぞ」
「うんっ!」
先に店に向かって歩き出すと、まってーと背中から声がした。
ヨシヒコの公園デビュー。
・・・・もとい、職場デビューか。











































シリアルナンバー4415




































































早めに店に着いたからまだメンバーは揃ってない。
奥に足を進めると、椅子に腰掛けているスーツの後姿が見えた。
「茂くん」
「お、坂本。今日は珍しく早いんやな」
にこやかに迎えてくれたのはこの店のオーナー兼店長を勤めている、茂くんだ。
その姿をヨシヒコが珍しそうに見ている。
ヨシヒコの視線に気づいたのか、それを見てああ、と茂くんは手をポンッと打った。
「隠し子やろ?」
「・・・どうしてそうなるんだよ」
「やって、そんな顔しとるから」
・・・隠し子晒すような深刻な顔してたのか、俺。
「ヨシヒコ」
声をかけるとびしっと姿勢を正した。
「おれ、ヨシヒコです!サカモトくんちにおせわになってます!」
よしよし、教育通り。
撫でてやると嬉しそうに笑う。
茂くんはそんなヨシヒコの前にしゃがみこんだ。
目線を合わせて、にっこり微笑む。
「ヨシヒコくんこんにちは。城島茂言います。よろしゅう」
「よろしゅー?」
「よろしく、って意味やな」
「うん!よろしゅー!」
手をびしゅっと上げて挨拶。






その瞬間。
フードがばさりと音を立てて外れて。
ぴょこん、と。
茶色の耳が外に出てしまった。






「あー!でちゃったー!」
「出ちゃったーじゃねぇよ・・・」




予想外の出来事。
まぁ茂くんには正体ばらしておかないとと思ってた。
確かに思ってたけど。
突然でショックが大きくて倒れた、なんつったら店の存続に関わるし。




「し、茂くん・・・・?」
恐る恐る声をかけてみると。
意外にも彼の反応はあっけらかんとしていて。
しかも。





「坂本も飼いだしたんかー!」
だからこの頃表情柔らかくなったんやね、と勝手に納得されていた。








坂本も、って。













・・・・・・も、って、まさか。































































「実はなー俺も一匹買うたんよ」
「え、ええっ?!」
「何驚いてるん。犬型人間ペットが商品になってるの、知らんかったんか?」





そ、そんなの知らないし!
ってか、違法だってヨシヒコが言ってたから。
処分がどうだって話も新聞で読んだから。
まさかそんな。




茂くんは動揺している俺の姿を見て、楽しそうに笑い。
「ま、見せた方が早いなぁ。おーい、マサヒロー」
「はいはいはーい!」





呼ばれて威勢よく二階の階段から駆け下りてくる子ども。
確かに、その姿はヨシヒコと似ていた。
灰色の耳にふわふわの尻尾。
紫の首輪が映えている。






「あれ、茂くん。他の人がいるのにいいの?」
こてん、と首を傾げたマサヒロに、茂くんはうん、と頷いた。
「ほれ、自己紹介しぃや」
「あ!俺、マサヒロです!」
ぺこり、と頭を下げるなり、マサヒロの目が下にいく。
視線の先には、ヨシヒコがいた。
ひょこひょこと近づいてきて、ふんふん、と匂いを嗅ぐ。







「な、なんだよぉ」
「お前、チビだなぁ」
「なんだとぉ!」






食って掛かるヨシヒコ。
でも体格差がありすぎる。
15センチは離れてるように見えるし。
勝ち目のない喧嘩は無駄なだけだ、と。
俺はヨシヒコの首根っこを掴んで持ち上げた。
「うわー!サカモトくんっはなしてよぉー」
「馬鹿野郎。すぐに喧嘩しようとするんじゃねぇよ」
「マサヒロもやで。謝りぃ」
茂くんの言葉でマサヒロはしょぼん、とした。
そしてヨシヒコを見て。
「ごめん」
と素直に謝ってきた。
きょとん、とそれを見つめるヨシヒコ。
俺はヨシヒコを下に置いて、背中をそっと押してやる。






尻尾が、小さく揺れた。






「・・・おれも、おこっちゃってごめんね」
「許してくれんの?」
「うん!だから、いっしょにあそぼ!」
にかっと笑みを浮かべたヨシヒコにつられて、マサヒロも笑顔になった。
「いいぜ!俺マサヒロ!」
「おれ、ヨシヒコだよー!」
「茂くん!二階で俺たち遊んでもいい?」
「ええで。ただし、暴れるのだけは堪忍な」
「「はーい!」」
元気よく返事をして、ヨシヒコとマサヒロは二階に走っていった。














「・・・茂くんとこの子も、元気だな」
「坂本の方も負けじと元気やん」
「犬型人間ペットって、全部あんな感じなのか?」
「マサヒロは処分セール品やったけど」
「・・・・何で買ったんだよ。金ないわけじゃないのに」
店長とオーナー掛け持ってる茂くん。
確実に遊んで暮らせるくらいのお金は持ってると思うけど。
聞いたらちょっとだけ眉を顰めた。
「他のは皆、俺のご機嫌伺っとったから」
「・・・あー。そういうのすきじゃないもんな」
「ぉん。それにあの子が処分されるのはいややったから」

















































『オジサン!俺のこと買ってよー!』
『オジサンて・・・俺はまだ31や』
『30過ぎたらオジサンだって、兄ぃが言ってたもん!』
『・・・・失礼なやっちゃなぁ』
『俺さ、あと3日で処分されちゃうんだってさ。まだ死にたくないんだよー!』
『・・・・・・』
『お安くなってるし、ひとつどうですかお客さん!』
『・・・自分安く叩き売ってどうすんねん、アホ』
『えーだって実際安いし』
『・・・で、なんで俺なん?』
『んーと、優しそうだったから。俺の兄ちゃんにソックリだし』
『さっきの失礼な兄貴か?』
『違う違う。さっきのは二番目で、今言ったのは一番上の兄ちゃん。俺5人兄弟なの』
『ややこしいなぁ』
『ね、こんな可愛いペットが処分されちゃうの忍びないっしょ?』
『・・・・まぁなぁ』
『ならいいじゃん!決定!ほら、こっち会計だから!』
『引っ張んなや〜って何で買うことになっとんねん・・・』
『あっは。気にしないでよー』
『気にしないわけないやろ・・・』









































「坂本はどこであれ買うたん?」
「あー・・・俺は拾ったんだ」
「拾ったぁ?!」
目を丸くして俺を見る茂くん。
どうやら買ったものだと思われていたようだ。
「マサヒロでも2千万はしたで」
「に、にせんまん?!!」
今度は俺が目をひん剥く番だった。
さっき処分セール品だっつったのに、2千万とは。
きちんとした商品だったらいくらするんだ。
見当もつかない。
「処分品運搬用のトラックから落ちたらしいんだけど」
「じゃあお互いに処分品なんやね・・・」
俺と茂くんは顔を見合わせてしばし沈黙する。
「・・・・・・ま、処分されなくてよかったよな」
「ぉん」
結局、俺たちは情に絆され易いみたいで。
きっと壷とか買っちゃうんだろうな、なんて言い合って笑った。








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2006.11.12