次に俺が目を覚ました時。
ひっくんの代わりに、小さな頭が二つ。
くりんとした瞳が四つ、俺を覗き込んでいた。
健と、そして、剛だ。
片方は心配そうに。
もう片方は心配しながらも、どこか悲しげに。
ああ。
俺、剛に謝らなきゃ。
思って口を動かすも、言葉は出てこなかった。
代わりに聞こえるのは自分の小さな呻き声だけで、困惑する。
疲れてんのかな、俺。
何で、声、出ないんだろ。
考えようとすると、チリ、と頭に痛みが走った。
なんだ、これ。
剛と健がぱたぱたとどこかに走っていく。
ひっくんの名前を呼びながら。
彼らの頭が無くなって、見えた天井で初めて俺は自分の居所を知った。



























坂本くんちじゃ、ない。
ここ、ひっくんの病院だ。


































































むくり、と身体を起こし所在無げにキョロキョロしていると、ひっくんの声。
あ、ひっくんだ。
俺どうして病院にいるの?
もう、どこも痛くないのに。
俺の唇の動きを見て、何となく言いたいことを悟ってくれたんだろう。
ひっくんは俺の横にある椅子に腰掛け、そっと頭を撫でてくれた。
にこにこ笑顔。
でも、ちょっと辛そうで。
ごめんね、と口を動かしてみるも、やっぱり声は出てこなかった。
・・・・・・なんでだろ。
「よっちゃん、いっぱい寝たねぇ」
昨日の夜に倒れてから、二日間寝っぱなしだったよ、とひっくんは笑う。
その後ろで心配そうな二人がひょっこりと顔を見せる。






「心配、したんだからね」
俯きながら涙目でそう言う健。
うん、ごめんな。
流石に二日間眠りっぱなしじゃ心配するよな。






「・・・・・・いのはら、くん」
探るような剛の瞳。
剛、ごめんな。
俺すっごい酷いこと言ったよな、お前に。
謝りたいってずっと、思ってたんだ。
だけど、声が出ないから。
出るようになったら真っ先に謝るから、ちょっと待ってて。






そう、それぞれに思いを込めて二人の頭をわしわしと頭を撫でれば、ふわりと揃って笑った。
まるで双子みたい。
その様子にひっくんも双子みたいだね、って言って微笑んだ。
優しい笑顔。
見てるとホッとして、また眠たくなってくる。
二日間も寝たっていうのに、変なの。
そんな俺に気づいたのか、ひっくんは俺の身体をゆったりとベッドに倒す。
布団を肩までかけて、ぽんぽん、と二度優しく叩いて。
「満足するまでたくさん寝ていいんだよ」
そう言って、また俺の頭を撫でてくれた。
うん、そうする。
すっげぇ、眠たいから。
あ、でも一つだけ聞きたいんだ。
坂本くん、は?
俺が倒れた時真っ先に駆け寄ってくれたのに。
今、どこにいるの?
一生懸命音の出ない口を動かし続けたけど、ひっくんはそれを見てただ首を横に振るだけで。
考えなくていいよ、って。
ずっとそればっかり俺に言い続けて。
俺は睡魔に勝てずに、それ以上追求する事も無いままとろとろと目を閉じた。


























































































































いのっち。





































































そう、呼ばれた気がして再び目を開ける。
真っ白だった病室は、外の太陽に照らされて真っ赤に染まっていた。
あ、夕方。
何日の夕方なのかはもう分からなかった。
きっとまた、沢山寝たんだろう。
今度覗き込んでいたのは岡田だった。
黒い服に身を包んで、坂本くんと同じ道を辿っている。
そんな彼を、不謹慎にも羨ましく思う。
だって、もし俺が岡田だったら。
こんなことで悩まなくて済んだんだもん。
それに、坂本くんとずっと一緒に居られるだろうし。
いいなぁって、思ったってバチ当たんないでしょ。
何度見ても、真っ黒で大きな瞳。
女の子みたいな綺麗な顔立ち。
こんなヤツが人殺しなんて、どうしてしなきゃいけなかったんだろう。
思えば思うほど、悲しくなる。





「・・・・・・いのっち」





もう一度、岡田は俺の名前を呼んだ。
だから、俺は岡田に目を向ける。
辛そうにため息をついた後、開く口。
「人の心配ばっかで、よぉここまで生きてきたな」
憎まれ口を叩く声が震えてる。
ぎゅうっと拳を握り締めて、何かに耐えるように。
「まーくんの秘密、気づかんフリして楽しかったか」
つかつかと近寄ってきて、胸倉を掴まれる。









え。
楽しかったって、何、が?










「仮にも助けてもらったのに、あんな形でまーくん傷つけなくてもええやろ!!」
ぱたぱたと大きな瞳から大粒の涙が零れる。
首元が絞まって苦しい。
呻き声を上げれば、ハッと我に返って俺の服から手を離した。
「・・・こんなもんが無かったら、まーくんは幸せなままやったのに」
岡田が握り締めていた拳が開いて。
出てきたのは、俺が坂本くんにあげたペンダント。
岡田はそれを地面に向かって思いっきり投げた。
思うように身体が動かなかったから床の上のそれは見えなかったけれど。
変な音がしたから、きっと壊れてしまったんだろう。






















・・・ああ。
岡田の言う通りだ。
俺が、坂本くんにそんなものを送らなければ。
皆ずっと、そのままで居られたのに。


























ごめんな、と口にしても、岡田の目線は俺を見てなかったから、伝わらない。
岡田はぐしぐしと腕で涙を拭うと、どかっと隣に腰を下ろして。
まーくん、とぽつりと呟いた。





坂本、くん。
ねぇ岡田、坂本くんは、どこ?
会いたいんだ。
会わないと、不安なんだ。
ひっくんも剛も健もお前も、顔を見せてくれたのに。
どうして坂本くんはココに来てくれないの?
もしかして、俺のこと嫌いになっちゃったのかな。
会いたくないって。
要らないって、思われたかな。








やだ。
要らないなんて、言わないで。
俺はもう。
誰にも、捨てられたくなんて、ないよ。
ずっと一緒がいい。
ずっと、一緒に居て、笑ってたい。
なのに。
何処、行ったんだよ。
俺を置いて、何処に行ったんだよ。
やだ。
行っちゃ、やだ。
い、やだ。































































































「・・・・・・っぅう・・・っ!」


























































































今までで一番強い痛み。
痛みを堪える為に、米神を押さえて。
でも、消えない。
痛みが、消えない。
それどころか余計に激しくなるそれに、怖くなって。
身体を必死に動かして耐えようとしてベッドから転落する。
背中に呼吸が止まるような衝撃と、岡田の慌てる声。
ばた、と動かした俺の手に何か硬いものが当たり、反射的にぎゅうと握り締めた。
その尖った部分が掌に食い込む痛みでどうにか我を保つ。
そして、俺を制止させようとする手を振り払った。
違う。
俺が欲しいのは、この手じゃ、ない。







































































































『快彦』



































































記憶の中に残るその声が、俺の頭の痛みを和らげ。
ふらふらする身体を何とか立ち上げて、岡田を捜す。
ビックリしたような表情で俺を見ている彼を見つけて、ただ一つだけ。
「・・・さ、かもとくん、は、どこ・・・?」
やっと出た声を使って無理矢理搾り出すようにそう、問えば。
困った顔をして顔を逸らす。
俺は岡田の小さな肩を掴んで揺らし、もう一度同じ問いを繰り返した。
会わなきゃ。
坂本くんに、会わなきゃ。
それだけを思って。
根負けしたのか、ぼそりと呟いた岡田のそれをしっかりと耳に焼き付けて。
俺は椅子にかかっていたジャケットを羽織り、病室を出た。
遠くからひっくんの声がしたけど、無視した。
ごめんね。










































































気づかなくてごめんなさい。
苦しませてごめんなさい。
甘えすぎててごめんなさい。
ごめん、坂本くん。
俺、わかった。
わかったよ。
簡単なことだった。
馬鹿だから、気づくのが遅かった。
気づいてたのかもしれないけど、傷つくのが怖くて避けてたんだと思う。
今の幸せが続く、唯一の方法。
それは、俺だ。






























―――――――――――おれが、いなくなればよかったんだ。









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2007.5.1