○月○日。
いのっちが風邪引いた。
 
 


どうも、風邪を引いたいのっちです。
岡田の日記、今日は勝手に俺がつけ足しちゃいます。
だってとっても嬉しいことがあったから。
・・・にしても、岡田の日記って超短文なのな。
俺が風邪引いたことしか書いてないぞ。
岡田らしいけど、ね。


























































































































































































「「イーノーハーラーっ!」」
















玄関のドアを挟んだ外から、双子ちゃんの呼ぶ声。
それをぼんやりとした頭でどうにか聞き取る。
岡田が冷えピタを買いに行くっつって、それからの記憶が無い。
どうやらそのまま寝ちゃったみたいだ。
むくりと身体を起こせば、寝る前よりは幾分楽なことに気がつく。
病院で貰った薬って本当によく効くなぁ。












「「イーノーハーラーっ!!」」












剛ちゃんと健ちゃん。
いつものように遊ぼうって来てくれたんだ。
熱ぼったい身体を引きずるようにして、玄関へ。
ドアを開けようとしたんだけど、ちょっと考えた。
俺が今このドアを開けたら、剛ちゃんと健ちゃんに風邪、移っちゃうじゃん。
小さい子なんだから、風邪引いたら大変だ。
だから、今日は遊べないって言わなきゃ。







「剛ちゃーん、健ちゃーん」
「イノハラーいるすつかうなー!」
「あそぼ!イノハラっ」
「ごめんねぇ・・・いのっち、風邪ひいちゃってさー外出れないのよ」
「オカダはー?」
「オカダもかぜー?」
「岡田は今いのっちの冷えピタ買いに行って居ないぜ・・・って、二人とも、いのっちはどうでもいいわけ?」







尋ねてみたけど、返事は無く。
名前を呼んでみても、さっきまでした声は聞こえない。
二人揃っていのっちのことはどうでもいいらしい。
・・・ちょっと、いや、大分ショック。
泣き真似してみても突っ込んでくれる人、誰も居ないし。














玄関に座り込んでたら岡田に怒られるから、もそもそと部屋に這って戻った。
さっきよりは良くなったとはいえ、熱が収まったわけではなく。
もわん、と鈍い感覚の中、布団に包まる。
一度起きちゃったから眠気はどこかに飛んでいってしまった。
しん、と静まる部屋。
元気な二人の声がしなくなって、寂しさが2倍になる。
部屋の時計を見ると、岡田が出て行ってからもう10分が経っていた。











おかしい。
近くのコンビニに行くっつってたのに。
往復10分もしないで帰って来るはずなのに。
・・・まさか、事故?
や、岡田に限ってそんなことは。
でも、全く無いわけじゃない。
行ってきますって言って、帰ってこなかったら?
俺はまた一人になる。













































































































































・・・あれ?
またって、何だ?








































































自分で考えていることに思い当たる節が無くて戸惑う。
また。
俺は前にも誰かを事故で亡くしてるのだろうか?
いや、そんなはずはない。
事故じゃ、ない。
亡くしたことだって、ない。
じゃあ、何?
思い出そうとして、ズキリと頭が鈍く痛む。
違う。
違う、何も無い。
俺には、何も。



































































































































































































がちゃん、と。
鍵の開く音で俺は現実に引き戻された。





























































岡田が帰ってきた安堵感で、頭痛が一気にスッと遠のく。
玄関に向かって思いっきり走ったら、そこにはビックリした顔の岡田が立ってて。
逃げてしまわないように、ぎゅうっと抱きしめた。







「岡田遅いーー!!!」
「どこがや!まだ15分くらいしか経ってへんやろ?!」







ああ、この声。
抱きしめた時のインクの匂い。
どこからどう見ても岡田の准一さんじゃないですか。
何不安がってんだ俺。
帰ってきたじゃん、ちゃんと。
しがみついて何も言わないでいたら、背中をぽんぽんと優しく叩かれた。
子どもをあやすような手つきに、ホッとして少し力が抜ける。








「・・・ただいま、いのっち」
「うー」
「冷えピタ、買って来たから貼って寝り」
「・・・すっげぇさみしかったよー」








剛ちゃんと健ちゃんは俺のこと見捨てて帰っちゃうし。
部屋では一人きりだし。
布団の中では変なこと考えちゃうし。
全部岡田が居なかった所為だ。
・・・なんて。
我侭言っちゃってる俺なのに、岡田が優しい。








「分かった分かった。今日はもう、ずっと家に居るから」
「・・・・・・うん」








言いながら冷えピタの封を切って、俺のおでこに貼ってくれた。
つめてーよ、これ。
だけど、上から当たってる岡田の手はあったかくて。
にへ、と笑って見せたら、一緒に岡田も笑った。


































































































ぴんぽーん
















































インターホンが鳴って、同時に鍵ががちゃっと回る。
あれ?
岡田、鍵開けたよな?
開いたドアに鍵が差し込まれれば、当たり前に鍵がかかるわけで。
ガコッと鈍い音がして、外の人間の進入を阻んだ。







「・・・っおい、井ノ原!鍵開けっ放しで無用心だろうがー!!」







声の主はお隣の坂本くんだった。
え、何で来たの?
岡田が慌ててドアを開けたら、ごっそり荷物を持った彼が居て。
邪魔するぞと言って、ズカズカと家の中に入ってしまい。
俺と岡田が後を追うと、坂本くんはテーブルの上にタッパーを置いているところだった。
いつの間にかコンロにはヤカンと小さい土鍋がセットされていて。
坂本くんは俺を見るなり、俺の首元に手を当ててきた。







「まだ熱あるな。薬は?」
「飲んだよー」
「よし。岡田もこれ、飲んどけ」






そう言って、坂本くんは岡田に四角い箱を手渡した。
使いかけのそれは風邪薬で、既に封が開いている。






「俺、風邪引いてませんて」
「一応だ。お前まで倒れたらどうしようもねぇだろう」
「・・・はい」






坂本くんの言葉の真剣さに、岡田は素直に従った。
俺は彼が持参したタオルケットに巻かれて、椅子に座る。
キッチンでは手際よく物事が進められていて。
沸いたお湯をマグカップに注ぎ、俺の前に差し出した。
ふんわりと香るいい匂い。






「なにこれ?」
「ゆず茶だ。あったまるぞ」






言われるがままに飲んでみると、確かに身体の芯がほこほこする。
ほんのり甘くて、ゆずの香りが口の中いっぱいに広がった。






「うめー」
「それ飲んだら布団に行け。準備出来たら起こしてやるから」






言いながら土鍋の中身をくるりんとかき回す。
その背中が、お母さんで。
こうやって駆けつけてくれた様子が、お父さんで。










「・・・坂本くんって、さぁ」
「何だ?」
「きっとお父さんとお母さんの両方なんだね」





















だって。
お父さんみたいな優しさと、お母さんみたいな手際のよさのどっちもを持ってるから。
いいなぁ剛ちゃんも健ちゃんも。
パパママまーくんが居て。
俺がそう言ったら、坂本くんは照れたように苦笑して。
早く寝ろ、とぶっきら棒に俺の背を押した。
布団にもそりと身体を突っ込んでいたら、枕元に置かれる、何か。
目をやれば、そこにはクリクリな可愛い目のウサギのヌイグルミと、真っ赤なミニカーがある。
見上げて、坂本くんに首を傾げて見せた。








「・・・これ」
「剛と健から。最初ついてくるって聞かなかったんだけど、ダメっつったらこれ、渡してってさ」
「ウサギはけんちゃんので、くるまはごうちゃんの、だね」
「おう。言っとくけどこれ両方あいつらの宝物だかんな。傷つけたり汚したりすんなよ」
「・・・うん、しってる」









ヌイグルミと車をぎゅうっと抱きしめる。
これ、前に遊んだ時に二人が教えてくれた宝物だ。
健ちゃんはこの子が居ないと眠れないんだって言って、大事にしてた。
剛ちゃんだって、触ったらすっげぇ怒ったのに。
二人とも超優しい。
岡田も、坂本くんだって同じ。
みんなの優しさがとっても温かくて、思わず涙が出た。








「・・・うー・・・」
「は?ちょ、お前何泣いてんだよ?!」
「ごーちゃんもけんちゃんもさかもとくんもおかだもやさしいぃぃー・・・」
「おい・・・あーもう、岡田ぁ!井ノ原何とかしてくれー」
「あーあーあー。いのっちどしたん」








てくてくと居間からやってきた岡田と入れ違いに、坂本くんはキッチンに戻っていった。
ぽんぽん頭のてっぺんを優しく叩きながら、岡田はずっと傍に居てくれて。
それに甘えてたら、坂本くんがお粥を運んできて。
家に余ってたからって言って、桃缶まで開けてくれた。
こんな風に色々してくれる大家さんて坂本さんくらいやなぁって岡田が言ったけど、本当にその通りだと思う。
そしたら、坂本くんがすっごく嬉しいことを言ってくれた。


















「俺から見たら、お前も剛や健と一緒のちょっと大きな子どもだよ」





















言い方はぶっきら棒だったけど、その言葉はじわりと染みて。
不覚にも俺はまた泣いてしまった。
風邪引くと涙腺、緩むんだな。
普段そんなに泣かないのに。





































































































岡田にどうにか宥められて布団にもぐり、目を閉じる。
途端、ぶり返す不安。
俺が寝たらきっと、坂本くんは帰って。
岡田もいつもどおり、机の傍に寝るんだろう。
そして俺は一人になる。
やだ、なぁ。








寂しくてぎゅうっとヌイグルミを抱きしめたらぷきゅ、と小さく音がした。
目を合わせれば、くりんとした瞳が俺を見返す。
あは、これ、健ちゃんに似てる。
そう思ったら少し、不安が紛れて。
ふんわりと迫ってくる、眠気。




















・・・あ、今なら眠れるかも。






































ウトウトと夢見心地にそんなことを考えてたら。
ずりずり何かを引きずる音がして、少しの間の後、手が頭を撫でる。
岡田の手。
重い目蓋を一生懸命に開けたら、隣にはもう一つ布団があって。
今日は一緒なって岡田が言ってくれて。
嬉しくてふにゃ、と笑えば、小さく笑われた。







俺、幸せ者だ。
みんながたくさん優しくしてくれて。
早く風邪治さなきゃな。
四人の愛情に包まれるようにして、ふぅっと柔らかく意識が飛んだ。











































































































































































































































次の日。
目を覚ますと、頭が格段にスッキリしていて。
ガバッと起き上がっても、違和感は無い。
治ったのが嬉しくて、横で寝ていた岡田を揺り起こす。






「岡田っ岡田ーっ!」
「・・・うー・・・なんやねん、いのっちー・・・」
「俺、治ったよ!」
「ほぉー・・・よかったなぁ・・・」
「うんっ!ありがとな、岡田!」
「んー・・・」






俺の言葉に受け答えつつ、岡田は再び夢の中へ旅立っていった。
元気になったことへの興奮冷めやらず、俺はパジャマのまま外に飛び出した。
朝日を身体でいっぱい浴びて、伸びをする。
んーっ、すっげぇいい朝。
ちょっと寒いけど、太陽が眩しい。
何度も外の空気を吸ったり吐いたりしてたら、がちゃ、とドアが開く。
振り向けば、出かける支度を整えた双子ちゃんが居て。
俺の顔を見るなり、ぷわっと満面の笑みになった。







「おはようイノハラ!」
「おはよっ!」
「剛ちゃん健ちゃんおっはよー!ヌイグルミと車、サンキューな!」
「イノハラ、げんきになったな」
「まーくんのおかゆのおかげでしょ?」
「うーん、それもあるけど、二人が宝物貸してくれたおかげもある!・・・ちょっと待ってて!」






俺はダッシュで部屋の中に戻り、二人の宝物をそれぞれ持って、再び外に出た。
素直に待っていてくれた二人にそれらを手渡す。






「ホント、ありがとな!健ちゃん、昨日寝れた?」
「うん!ゴウがいっしょだったから、ねれた!」
「こいつさ、おれよりはやくねたんだぜ」
「あは、健ちゃん可愛い〜v」






俺がそう言ってメロメロになっていると、健ちゃんが見上げてきた。
真っ黒なくりくりおめめに見つめられ、へにゃと笑えば。
「あのね、イノハラ、あのね」
と、健ちゃんが背伸びしてるから、屈んでみたら。
俺の耳元に健ちゃんの手が添えられて、所謂ひそひそ話の格好になる。







「んー?」
「おれね、ゴウいるから、だいじょぶだから、これ、イノハラにあげる!」
言って、健ちゃんは俺にウサギさんを押し付けてきた。
「えええ、いいの?」
「うん!イノハラ、これずーっとだっこしてたって、まーくんがいってたから」
「・・・・・・うん」
「これでずっと、さみしくないからね!」











健ちゃんの言葉が、俺の不安にぴったりと重なる。
寂しくなんて無いからと、こんな小さい子が言葉にしてくれた。









「・・・うん、そうだな」
「そうだよ!」










自信満々に言ってのけてくれたその言葉を、噛み締めるように心の中で反復する。
寂しくない。
うん、寂しくないよ。
俺の傍には岡田も、坂本くんも、剛ちゃんも健ちゃんも居るからね。












嬉しくて二人をぎゅむっと抱きしめてた俺が、すぐさま坂本くんにこっ酷く叱られたのは内緒。
風邪の治りかけが一番危ないんだっつって。
でもきっと、剛ちゃんと健ちゃんをだっこしてたのに妬いてたんだと思う。
坂本くんの名誉のために、それは俺の心の中に仕舞っておく。






・・・あ。
岡田にはバレちゃうけど、まぁ、いっか。





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14日にコメントをくださった方のコメント内容にモエて書きました(爆)
「大家さんがお粥作りにくる」を思い浮かべて書いていたのですが、気づけばちょっとあらぬ方向に行ってしまったっていう。
この話、イノさんサイドは当初、書く予定ありませんでした。
でも、今回はきっとイノさんサイドの方がいいんだろうな、と。
ほんのちょっとだけ彼の過去が掠りましたが、まだまだ引っ張ります よ!(こら)
14日にコメントくださった方、お名前分かりませんが、ありがとうございましたー!楽しかったです(笑)
2007.10.15