次に目を開けた時、視界は酷く暗かった。
どこまでも続く闇に、思わず目を何度か開閉する。
なんやこれ。
博もまーくんもいのっちもおらん。
暗い世界に俺が一人ぽつんと立ってる。
きょろきょろと視野を広げてみるも、闇一色のこの世界では全てが同じに見えた。
































































































『・・・・・・だぁ』








































































・・・ん?
今、声がした。
耳を欹ててよくよく聞く体制を取ってみる。




































































































『・・・おかだぁ』
































































































ああ、呼ばれてんの俺やん。
どっかで聞いたことのあるような声。
でもそれは変声期をまだ越えてないような声でもあって。
子どもの知り合いって、居たっけ俺。














































『おかだぁー!』
『うぐっ!』









俺の名前を大絶叫したそれは、俺のわき腹にクリーンヒットした。
い、痛い。
患部を擦ろうと手をやれば、ふにょ、と手ごたえ。
見れば小さな男の子がむぎゅーっと俺に引っ付いている。









『・・・・・・誰?』
『えええ!そういうオチなの?!って、アレ?アレ??』
『どんなオチや』
『おれ、ちっさい!』
『・・・・・・ちっさいくん?』
『ちーがーうー!おれはいのっち!』









あぁ、いのっち。
そうそう、さっきの聞き覚えのある声はいのっちやった。
よくよく見れば細い目は健在で。


















































って、えええ。


























『いのっち?!』
『おそいよはんのうがー!』
『や、やって小さいんやもん!』
『すがたがわかがえっても、おれたちのあいvがあればいっぱつでわかるだろー!』






なんて言いながら、泣き真似が始まる。
何、俺たちの愛って。
そんなもん育んだ覚え、無いんやけどなぁ。
っていうかいやや、こんな子ども。
幼少期からこんなんやったんかいのっち。
どこ道間違えたん。
あ、涙出てきた。






『あーっ!なに、ないてんだよぉおかだー!』
『いのっち・・・まーくんと博が居って本当によかったなぁ』
『うん!・・・って、そんなはなししにでてきたの?』
『いや、別に話無い』
『そうなのー?!』







いちいち反応が子どもやねん。
でっかいリアクション。
まぁいのっちはそんなキャラか。
話。
別に、何もなぁ。





























あ。

























『そうや、そういえば』
『なになになに??』
期待の篭った目で見られると、あれなんだけど。
『俺、いのっちに泣いてもらいたいなぁ思ってた』
そう言って、笑って見せれば。
ふにょんと困ったように曲がる眉と口元。





『あー、それはちょっと、むりかなぁ』
『なんで?』
『ほんにんに、なくきがないから』
『何その言い方。本人やろいのっち』
『うん。でも、むり』
『そっかぁ』






断言されて、納得する。
無理なら、仕方ない。
ぺたん、と暗闇の中に腰を下ろして。
胡坐をかいたら、おいでとも言ってないのにいのっちが乗ってきた。
普段やったら追い返すんやけど、見た目は子どもなわけで。
ぴとーっとくっついて嬉しそうにするから、可愛かった。
























































































『・・・おかだぁ』
『んー?』







俺の名前を呼ぶから、返事をすれば。








『おれ、とくぎえがおじゃん?』
『・・・・・・そうなん?』
『えーそうおもってたの、おれだけー?!』
『まぁ、笑顔がいいって言われてはいたけどなぁ』
『うん。だからさ、なかないの』





































泣いたら。
俺が泣いたら、きっと。
岡田の死をメンバー全員が認めちゃうことになるから。





















































































『さいごのとりでなの、おれ』





































だからむりなんだぁ、と。
小さいいのっちはそう言って、しょぼんと下を見た。











































































最後の砦って。
どれだけ、一人で背負ってんねん。







































































『何で、俺が死んだのを認めたらあかんの?』
『・・・・・・』
『いのっちが必死に俺の死を認めないように頑張っても、俺はもう死んどるんやで』
『・・・いうなよ』
『変なところで意地張ってないで、素直になり?』
『だって!おれ、おかだが、』
『ええねん。いのっちは・・・たくさん頑張ったんやから』




















































多分。
感情表現の素直ないのっちだから。
一番始めに泣き崩れてしまいたかったんだろう。
取り乱したくもあったんだろう。
けど、メンバーが泣いているのを見て。
自分がしっかりしなきゃ、って変に力んで。
泣くタイミングを一人失ってしまっていたのかな、なんて。
そう、思って。
小さい身体を抱きしめて、頭をよしよしと撫でてやる。

































































































































『・・・楽しかったよ』

























































































いのっちと会えて、メンバーと会えて。
経験もなくデビューした俺を、必死にサポートしてくれた。
まーくんも博も剛くんも健くんも、皆に同じだけ感謝したいけれど。
どうしても誰か一人にお礼を言わなければならないのならば。
俺は迷わずいのっちを選ぶだろう。
どれだけこの笑顔に救われたか、分からない。
屈託のない笑顔。
すぐに怒りを向き出しにし、自分のことでもないのにくって掛かっていったり。
メンバーが大好きで大好きで、すぐに感動して泣く。
表情を出すのが苦手な俺の分までたくさん、たくさん。
いのっちは、泣いたり笑ったり怒ったりしてくれた。
人とのコミュニケーションが苦手な俺の手を引いて、一緒に挨拶回りに行ってくれたり。
少しでも変わったことがあったら真っ先に気づいてくれて。
きっと、いのっちが居なかったら俺は今ここに居らんやろうな、なんて、思える。












『後悔がなかったって言ったら嘘になるけど。皆が泣いてくれたら、それが全部消えてなくなる気がするねん』
『・・・・・・』
『みーんな泣いてくれた。後はいのっちだけやで』












そうしたら、ふにょん、と。
さっきの泣き出しそうな表情になった。
もう、少し。












もう少し、なのに。
俺の足元がキラキラと光って崩れていく。
時間が無い。
ビックリしたいのっちの顔。
置いていって、しまうんやな。
このまま、暗闇の中に。








































































『いのっち』

























































































でも。
最後に会えて、よかった。
最後に会えたのがいのっちで、よかった。











































































『いのっち、大好きや』





































































ふわん、と光が立ち上がった俺を包む。
いのっちも一緒に包まれて。
ぱたぱたと。
細い目から溢れ出す、透明な雫。
あれ。
子どもだったいのっちはいつの間にか大人になっていて。
鼻の頭を真っ赤にしながら、ぼたぼた泣いとった。












『何でっ、何で死んだんだよっ岡田の馬鹿野郎っ!!!』











あはは。
最初からそう言えばよかったのになぁ。
予想通りのいのっちの言葉に、顔が綻んでしまう。
しっかし。












『・・・・・・不細工、やなぁ』











ま、そのさつまに似た不細工な感じが好きなんやけどね、俺は。











そう、言って。
最後に言った言葉は多分、届いてなかったと思うけど。
そのまま。
俺の意識はぷっつりと途切れた。









NEXT


2007.5.20