(Side N)







差し込む光で俺は目を覚ました。
もう朝、か。
開けづらい目蓋をしぱしぱと無理矢理動かして。
霞んでいた視野が輪郭を取り戻していく。
ふと、隣に目を向ければ、眠っているよっちゃんが居て。
その頬に一筋、涙の痕を見つけた。
どうにか峠は越えたみたいだな。
寝癖の付いた髪の毛を優しく何度か撫でれば、ぱかり、と開く瞳。
うー、と変な唸り声を上げ、ころんと寝返り。
手近にあった布団を捲り上げて、中に潜ってしまう。










「朝だよ、よっちゃん」
「・・・・・・うー・・・」










なかなか起きようとしないから無理矢理布団を引っぺがすと、物凄い状態のよっちゃんが出てきた。
これ、ファンの子には見せられない姿だな。
しぱしぱしぱ、と瞬きをして。
くあ、と大きな口を開けて欠伸をする。
前日寝れていない分もたっぷり休めたみたいだった。
やがて、瞬きが普通の早さになって、俺を捕らえ。
いつもより少しだけ大きくなった目でよっちゃんは俺のことを見た。








「長野くん・・・」
「何?よっちゃん」
「おはよう」
「ああ・・・おはよう」
そういえば挨拶まだだったな、と思いながらそれを口にしつつ。
俺はよっちゃんの涙のわけが知りたくて仕方なかった。
どうやら俺たちが泣かしたわけじゃなさそうで。
でも、それなら何が彼をそうさせたんだろう。



























































































































































































































「俺さ」















































ほんの少しだけの間の後、よっちゃんが再び口を開いた。
表情は泣き出しそうに見えるのに、どこか晴れやかで。
子どもみたいに甘えた口調で、呟くように。









「夢ん中で岡田に会ったんだ」









と。
そう、言った。
これまたタイムリーな夢を見たんだな、と思う。
見てもおかしくはない状況。
始終岡田のことを考えていたよっちゃんだからこそ、見た夢なのかもしれない。













けれど。
夢を見ただけでこんなに変わるのだろうか、気持ちが。
怪訝そうな俺の表情を見て何となく思ってたことを悟ったんだろう。
へへ、と小さくよっちゃんが笑う。













「普通はさ、夢だし、信じる対象じゃないと思うんだけど。何か、やけに岡田が普通で」
あのまんまボーっと突っ立ってたから、飛びついて。
でも俺子どもになってたんだけどね、なんて、余計に分からない説明をされて困惑する。
夢の中のよっちゃんは子どもになってたんだろうと勝手に想像して話の続きを促す。








「それで?」
「ええと、それで、誰?って言われた」
「え?」
「小さくなってたからだろうけど、誰?って」
だからとりあえず名乗って。
喋ってたら突然、岡田が半泣きになって。
「いのっち、まーくんと博が居ってよかったなぁ、って言われて」
「・・・それは、どういう意味だろうね」
話の展開が全く読めない状況にますます頭の中が混乱した。








だけど。
話を進めていくうちに、よっちゃんの表情がどんどん色を取り戻していくのだけは分かったから。
分からないなりに話を聞いててあげた方がいいんだな、と思い。
出来るだけ相槌を打つことに努める。
相手はあの岡田だ。
分からないことの方が多いに決まってるもんな。



















































































































「・・・そんでね、岡田に泣いて欲しいって言われちゃった」






































繋がりもなく突然。
俺の欲しかった答えのキッカケを口にして。
すぐに首を傾げてみせる。







「でも、無理っつったらあ、そうなんやみたいな感じでさっさと諦めたのアイツ」
岡田らしいよね、と、よっちゃんはふわ、と笑みを浮かべた。
確かに、岡田らしい。
相手に深く干渉しないところが、特に。
「そんでずーっと俺のこと抱きしめてくれてて。何にも言わないから、こっちから色々喋っちゃった」
「何を?」
「色々。長野くんには教えない」
「・・・何で?」
「言ったら絶対に呆れるから」
キッパリそう言い放つと、よっちゃんはその『色々』にはこれ以上深く触れなかった。
俺としてはその『色々』が気になって仕方なかったのだけれど。
まぁ、お酒の席でいつか酔いに任せて話してくれるだろう。
そう踏んで、さっさと諦めることにした。
















































































































































「・・・・・・そんで、ねぇ」


































































呟くように、言って。
ふふ、と堪えきれず思い出し笑いをして。
しぱしぱ、と何度か瞬きをした。
覗き込めば微かに眼の端が赤くて。
そっと撫でてあげたい衝動に駆られるのを必死に抑える。
俺がそれをしたら、きっとよっちゃんは話すのを止めてしまう気がしたから。
根気強く次の言葉を促すようにうん、と頷いてみせた。













「岡田、楽しかったっつってくれたんだ」











へにゃ、と。
表情がとても嬉しそうに崩れる。
ほんの少しの悲しみを含んだ、笑顔。


























「そんで、また、泣いてくれって言ってさ。泣く気、なかったのに、そのまま消えようとするから、泣けた」






















せっかくアイツの望み通り泣いたっていうのに。
消える直前に、アイツなんて言ったと思う?
尋ねてきたから少し考えて、首を傾げてみれば。




















「俺の泣き顔見て、不細工っつって消えたんだよ」


















言い逃げかっつーの、と。
悪態をつきながらもへにょんと口元が下に向かって弧を描いていた。
震える肩。
優しく何度か叩いてやれば、子どもみたいな迷子の目で見てきたから、抱きしめる。








「よかったねぇ、よっちゃん」








子どもに言い聞かせるようにそう言うと、こくんと首が縦に振れた。
振れてから落ちる、雫。
ぱた、ぱた、ぱたと。
昨日までの我慢が嘘のように、止め処なく。



































































































































よっちゃんに涙を流させられるのは、俺でも、坂本くんでもなかった。
岡田だけだったんだ。







































































抱きしめて、抱きしめられて。
ぽろぽろと子どものように泣いているよっちゃん越しに。
坂本くんの黒い瞳と目が合って、笑う。
ホッとしたような安堵の色が見えた後で、ふいっとそれは逸らされ。
こてん、と寝返りを打つフリをしてそっぽを向いてしまった。
あれ絶対妬いてるな。
そんなもん、寝てる方が悪いんだもんね。







でも。
昨日ついて来てくれたから、借りは返しとかないと、か。








「坂本くん、目覚めてんなら起きなよ」
声をかければむくりと起き上がる。
こちらもよっちゃんに負けずに寝汚い表情。
起き出すなり、よっちゃんの頭をぽんぽんと叩く。
その動作で感極まってしまったのか、よっちゃんは坂本くんと俺をまとめてぎゅむーっと抱きしめてきた。
ずっと、ずっと。
泣き疲れて眠るまで、ずっと。
























































































































































































































































































葬儀の後とはいえ、悲しんでいる暇は無く。
仕事は普通にやってくる。
よっちゃんは午後から、俺と坂本くんは10時からそれぞれロケが入っていた。
身支度をして、簡単な朝食を作り(よっちゃんがこだわりのオムレツを作ってくれた)、それを食べて玄関へ。
もう行っちゃうの?なんて寂しそうに言う様子は、昨日とは真逆で。
靴を履きながら、坂本くんと二人で笑った。















































































































「・・・・・・もう、大丈夫だよ」



























































ぽつり、と。
よっちゃんがそう言って。
続けてごめんね、と。
心配かけてごめんね、と頭を下げた。
いいのに。
弱みを見せてくれて俺たちだって嬉しいんだから。








「気にすんな。お前は元から手がかかるヤツだし」
「何それ何それー!俺、子どもじゃないもん!」
「小さい頃から見てた俺たちにとってはまだまだ子どもだっつの。なぁ、長野」
「そうだねー」








笑って同意すれば、長野くんまで酷いー、とふてくされる始末で。
ああ、もう。
いつものよっちゃんに会えるって、こんなにも。
こんなにも嬉しいことだったなんて、思わなかったな。










「じゃあな」
「後でまた一緒になるから、その時ね」
「うん!ばいばいっ!」








ぶんぶんと大手を振って。
まるで親を見送る子どもみたいに、はしゃいで。
よっちゃんは俺たちに向かって笑った。


























































開いたドア。
空は、快晴で。
昨日だって晴れてたはずなのに、今日の空は格別に眩しい。
まるで雨の後の快晴の空、みたいだ。





















「岡田、だよなぁ」
「だねぇ」





















傍から聞いていて意味不明な会話を坂本くんと交わす。
俺たちが分かっていればいい。
この空は、きっと。
彼が俺たちに、よっちゃんに向けてくれた、最高のプレゼントだ。




















「・・・最後までいい男のまんまだったなぁ、アイツも」


























坂本くんの言葉に頷く。
本当に。
アイツは格好よくて、不器用で、時たま大胆だ。
まるで、この青空みたいに。























ありがとう、岡田。
よっちゃん救ってくれて、ありがとう。
























そう、心の中で呟いて。
俺と坂本くんは揃って、空を見上げていた。








END
終わりましたーーー!!
あの、リクエストでいただいたホームシックになっちゃう岡田くんが居なくなってしまいました・・・!(殴)
あとトニ中心になってしまったのは、管理人の趣味でした(あーあ)
終わりも色々と迷ったのですが、こんな感じで。
死にネタはなかなか書いているのが辛くてうわーっとなりますね。
どうにもこうにもといった感じですが、喜んでもらえたら嬉しいですv
naoさま、リクエストありがとうございました!どうぞもらってやってくださいませー!
2007.5.25