埋葬が終わり、メンバーはそれぞれ自分の家に戻ることになって。
皆がバタバタと用意をする中、いのっちはやっぱり一人でぽつんと立っていた。
代わりに博が身支度を整えてくれていて、カバンを渡すも。
それを受け取って、そのまま。
よっちゃん、と声をかけられてありがとう、と返す。
感情の篭らない機械的なお礼の言葉。
さすがに心配になったのか、博はそれからずっといのっちの傍に居て。
座ろう、と促して、何も言わずに一緒に並んでいた。




















「どうした?」
心配そうなまーくんが近づいてきて、尋ねる。
「うん、ちょっとね」
博は曖昧な返事をして、いのっちに目をやった。
相変わらずの空ろな目。
それを見たまーくんが覗き込むようにしていのっちを見る。
「井ノ原?」
「・・・・・・」
「お前、昨日からずっと変だぞ」
どうやらまーくんは昨日からずっといのっちの様子を気にしていたみたいで。
ぺしぺし、と頬を軽く叩きながらそう言った。
けど、いのっちから返ってくる言葉は殆ど無くて。
まーくんの表情がムッとしたものに変わる。
「お前なぁ、岡田が死んだのを認めたくないのは分かる。だけど、」
「・・・しんだの?」











『岡田が死んだ』という部分を聞いた瞬間に、いのっちが顔を上げる。
不安で揺れた瞳。
手は、博の服の端をぎゅうっと掴んでいた。










「ああ」
「・・・うそだ。おかだは、しんでない」
「んな酷い嘘なんか誰がつくかよ。死んだんだ、岡田は」
「嘘だ!!!」













叫んで、立ち上がる。
困ったように曲がった眉。
への字になる口元、掠れた声。



















































「嘘だ!!うそつき!!おかだは、しんでねぇよ!!」
「・・・・・・」
「ほら、あれだろ?ドッキリっつってあの辺からカメラ出てくんだろ??一緒に、おかだも」
「・・・・・・井ノ原」
「坂本くんも長野くんも剛も健も全員知ってて、俺だけハメようとしてんだろ?!んなもんに引っかかってたまるかっ!」
「・・・・・・おい」
「なぁ、もういいじゃん。おれ、こうさんするから、岡田、呼んでよ。やだよこんな酷いの、だれ考えたんだよ。ドッキリにも程があるっつーの」
「井ノ原!!」
「やだ!!やだかんな!!なにが、死んだ、だよ坂本くんのうそつき!!長野くんも、剛も、健もみんなうそつきだ!!」
「・・・馬鹿野郎っ!!」

















バキッ、と。
鈍い音がして、いのっちの身体が後ろに吹っ飛んだ。
倒れたいのっちを慌てて博が抱え起こす。
口の端からは血が一筋垂れていた。
まーくんは鬼みたいな形相で、握りこぶしを作ったまま立ち尽くしてて。
目には、涙が浮いていた。


















「皆信じたくねぇんだよ!!アイツが死んだなんて、まだ、誰も!!でも、真実なんだよ!!だから、誰も何も言わねぇんだろうが!!」
「・・・坂本くん」
博が間に割るようにして入って制すも、まーくんはその手を振り解いた。
物凄い、乱暴な動作で。
「お前一人が悲しいんじゃねぇんだよ!お前一人が信じたくねぇわけじゃねぇんだよ!!こんな、冗談でも言っちゃいけないことをドッキリにするわけねぇだろう!!」
ぱたぱた、と。
言葉を口にする度に、まーくんの目からは涙が零れ落ちた。



















しん、と場の空気が痛いほど静かになる。



































































































































































「・・・・・・ドッキリだったら、よかったのにね」




























































































ぽつり、と。
博が悲しげにそう、口にして。
剛くんも健くんも力なく頷いて、下を向いた。
きらりと光るものが地面に吸い込まれるようにして落ちていく。
声の無い、涙。





けど。
そんな中でも、いのっちは一度も涙を流さなかった。





























































































































































































マネージャーの車に乗り込んだメンバーは、終始無言で。
特にいのっちと坂本くんはお互いに顔を合わそうともしなかった。
きっと、顔を合わせてしまえば一触即発になるのが分かっていたんだろう。
剛くんは涙の止まらない健くんをそっと撫でていて。
博はいのっちの隣でずっと黙っていた。
健くんが降りて、剛くんが降りて。
次は博が降りる番だった。
もそり、と立ち上がった博はいのっちに向けて手をさし伸ばす。
いのっちはきょとんとした表情でそれを見つめ、続けて長野くんの方に目をやった。








「・・・ながの、くん?」
「おいで、よっちゃん」









まるで子どもを呼ぶような口調で。
それ以上は何も言わずに、ただ手を差し伸べて。
博はふんわりと笑っていのっちを見ていた。
「ラーメン、一人じゃ美味しくないんだ」
だからね、と。
博らしい言葉を吐いて、また笑う。
必死に、笑っていた。
この状況で笑えること自体が、凄いことで。
最初渋っていたいのっちも、自然にその手に捕まった。
よたよたと頼りない足並みで車を降りていくいのっちを見ながら。
「・・・坂本くんも、付き合って」
と、さっきより少し緊迫した口調で博が言う。







「・・・俺は」
「井ノ原、あのまま一人にしたら絶対戻ってこなくなる」
断ろうとしたまーくんの言葉に被さるようにして、博は早口で言った。
「・・・・・・」
「泣いてないんだ。昨日も、今日も。我慢してるんじゃなくて、泣けてない」
「・・・知ってる」
「知ってるなら」
「俺はもう、出来ることをしたよ、長野」
言って、まーくんは自分の右手で拳を作り、それを見つめる。
さっきいのっちを殴った手だ。
「・・・俺にはこれくらいしかアイツを泣かせる方法が思いつかなかった。それでも、アイツは泣かなかっただろ」
「・・・・・・うん」
「それに、俺が居たら井ノ原はもっと話さなくなる。変に気ぃ使うやつだから、さ」
だから頼む長野、と。
まーくんはそう言って、下を向いた。
言い出したら梃子でも動かない。
その性格を一番知ってる博は、短く溜息をついて。
何故かまーくんにつかつかと近寄って。




















がしっと、首根っこを捕まえて持ち上げた。
























「・・・っなが、のっ」
「坂本くんが居ないと俺が駄目になった時困るだろ」
「・・・・・・?」
「一杯一杯なんだよ、今でも」
気、緩めると泣きそうになる、と博は震える声でまーくんに訴えた。
首根っこを掴んだ手が緩んでまーくんが解放される。
「井ノ原の分まで笑えてるといいんだけど、ね。アイツの笑顔は皆を癒すから、それが無くなった以上、俺が笑わないと、でしょ」
「・・・・・・ながの」
「・・・ごめん。言うつもり、なかったんだけど」
「・・・馬鹿野郎。言わねぇとわかんねぇだろ」
「・・・・・・ごめん」
「謝んな。いいよ、お前にばっかり背負わせるわけにはいかねぇや」
ぱん、と膝を叩くと、まーくんは立ち上がって、博に向かってにっと笑って見せた。
それを見て博は安堵の表情になる。
「行こ、ラーメン」
「そうだな」
短い会話を交わすと。
二人はいのっちが待っている車の外へと急いで降りていった。





















































足の止まっていたいのっちを両側から挟むようにして。
客の少なくなったラーメン屋に入る。
いらっしゃい、と威勢のいい声が店内に響き。
カウンター席に並んで座った博たちの前にお冷が置かれた。
「何にしましょう?」
「えーと・・・俺が決めていい?」
率先してメニューを持ち、二人に尋ねる博。
まーくんといのっちはほぼ同時に首を縦に振る。
「じゃあ、塩、しょうゆ、味噌一つずつ」
流石グルメな選択や、博。
俺は遠目からそれを見ながら、一人感心していた。






ほかほかと湯気の立っているラーメンを前に。
三人はしばらくそれをじっと見つめていた。
うわ、美味そう。
さすが、博の選んだ店やな。
一人呑気にそう思って見ていたら。
ぱきん、と博が割り箸を割った。
「伸びちゃうから食べよ」
「そ、だな」
博の言葉に、今度はまーくんが割り箸を割る。
残るは、いのっち。
「よっちゃん。食べないと怒るよ?」
覗き込んで、にっこりと。
博が笑ってない笑みを浮かべて言うもんだから、慌てていのっちも箸を割る。
いただきます、と声を上げて。
それぞれがラーメンを啜り出した。
三人が三人とも、無言で。
ただ、ラーメンを食べることだけに集中していた。
テレビは引っ切り無しに俺の死を告げていたけれど。
誰一人気に留めることなく、ズルズルと音を立てて麺を胃の中に収めることだけを考えていた。






























































































































何を言うこともなく、それはあっという間に終わり。
会計を済ませたまーくんは、外に出ていた二人を追う。
そして、ぎゅうっといのっちを挟み込んで、三人で歩く。
いのっちは真ん中で窮屈そうに顔を顰めていたけれど。
二人は気にも留めないで、押し競饅頭をするように身を固めていた。
夜の街中で、男三人何してん。
思わずそう言いたくもなり。
逆に、あの中に俺も入りたいなぁなんて思って。
そっと、博の隣に立って、一緒になって歩いてみた。
肩は触れ合わずにすり抜けて、温もりも何も感じなかったけど。
いのっちはきっと、二人の温もりを嫌になるほど感じていて。
同時に二人が傍に居ることをちゃんと分かってるんやろう、と思う。













『俺も、ここにおるで』















そっと声に出してみた。
聞こえるはずも無いけれど、言いたかった。
いつも笑っていたいのっち。
笑顔が消えて、メンバー全員がきっと動揺しとる。
もちろん、俺も。
どうにかしてあの笑顔を取り戻そうと、必死なん、わかっとるやろ。
なぁ、いのっち。
皆の気持ち、無駄にせんといてや。
そんなん、俺の好きないのっちちゃう。
もしずっとそんなんやったら、祟ってやる。










・・・・・・だから、自分の感情に素直になって。









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2007.5.13