気がついたら、宙に浮いててん。
ぷかぷかと、空飛んでるみたいで気持ちよかったんやけど。
はたと気づいた。
アレ、何かおかしないか?
人が飛ぶなんて単純に考えてありえへんやろ。
ここどこや、と、とりあえず下に目を向ければ。
黒い服を着た人たちが仰山集まって下を向いていた。
葬式?
誰が死んだんやろ、と遺影のあるところに身体を飛ばせば。
見覚えある人の写真が目に入った。
誰やっけ、あれ。
すっごく見たことあるんやけど・・・って。
へ。
あれ、俺や。
・・・・・・何で?
セパレーション・オブ・ティアーズ
曖昧な記憶の隅から隅までを探って。
どうやら死んだ理由らしきものを思い出した。
CM撮影の途中のロケバスに、別の車が突っ込んできたんだっけ。
怖さとかそういうのがぶっ飛んで、ああ死ぬんやなぁ、なんて落ち着いてた。
人間、どうしようもない事態まで追い詰められると逆に冷静になる。
そこで意識が途切れて、次の瞬間にはここにいた、と。
ああ、成る程。
合点がいったところで周りを見渡す余裕が出てきて。
メンバーはどこかななんて、探していた。
きっと悲しんでくれるのはメンバーだろうな、とそう思っていたから。
程なくして見知った頭が見えた。
あれは健くんや。
隣に剛くんも居って。
まーくんに博にいのっち・・・皆並んで座っとる。
ふわり、と彼らの傍に降り立ってみた。
それぞれが違う反応をしてて。
健くんは号泣。
剛くんも号泣まではいかんけど、泣いてくれてて。
まーくんは、泣いてなかったんだけど目の端が真っ赤になってて。
博は時々袖で涙を拭いていた。
いのっちは・・・いのっちは、無表情で。
ちょっと拍子抜けした。
だって、いのっちは熱い男やったから、ぼろっぼろに盛大に泣いてくれて。
岡田何で死んだんだよ!!なんつって食ってかかってくるやろうな、なんて思ってたから。
涙も出てなかったし、悲しんでる様子もなくて。
でも、時々目が困ったようにキョロキョロしてて。
まるで迷子の子どもみたいやった。
香をあげる番がやってきたのか、まーくんを筆頭にメンバーがぞろぞろと立ち上がったんやけど。
いのっちは、座ったままで。
気づいた博が戻ってきて背中を叩いて、やっと、のろのろと立ち上がった。
それでも背中を押されないと動けないみたいで。
三歩進んでは止まり、二歩進んではまた、といった具合で。
ようやくたどり着いて香をあげるも、やり方がさっぱり分かってなくて。
おろおろしているのをまーくんが手伝ってた。
どないしたんやろ。
いのっち、葬式には出慣れてるはずやん。
健くんや剛くんやって、きちんと出来てるのに。
結局葬式が全部終わるまでメンバーは居たのだけれど。
いのっちは始終、無表情のままやった。
今日は近くに全員で泊まるみたいで。
メンバーは五人揃ってホテルに足を運んだ。
途中、お酒を目一杯買い込んで。
その間も、いのっちはボケッとメンバーの動きを見ていた。
普段なら率先してアレやコレやと五月蝿いくらいに口出ししとるはずなのに。
一生懸命明るく振舞っているメンバー四人から離れて。
ぽつんと、立っていた。
それに気づいた健くんがどうしたの?と尋ねるも、うん、と一言返ってくるだけで。
不思議に思った博もいのっちに近づいて。
そっと、背中を叩いていたんだけど、変わりが無くて。
行くぞと言ったまーくんの声に急かされるように、いのっちは足を動かした。
それは何だかとても一生懸命で。
どこか、壊れそうな。
いのっちらしくない、そんな動作だった。
皆がアルコールに飲まれてぐったりと眠る頃。
やっぱりぽつん、といのっちはビール缶片手に座っていた。
体育座りで時折もそり、と身じろぐ。
「・・・・・・おかだぁ」
小さな声で俺の名前を呟くように呼ぶ。
それは普段とは違って、子どもが誰かを呼ぶような声だった。
月明かりに照らされた横顔が、妙に映えて。
しぱ、と長い睫毛が瞬く。
「しんじゃったなんて、うそ、だよな」
そう言うとごくり、とビールに口をつける。
しぱ、しぱ、しぱ。
自然にではなく確かめるように瞬き。
「みんながさ、グルんなって、おれのことだまそうとしてるだけ、なんだよな」
かたん。
ビール缶が下に置かれて。
きゅうっと体育座りの姿勢で出来る限り小さくなる。
尖った口先。
ほんの少しだけ火照った頬。
月明かりに眩しそうに目を細めた。
「それか、ゆめだ。ゆめみてんだおれ。ちょう、ふきつな、ゆめ」
言いながら自分の膝付近の手の先に力を込める。
ぎり、と。
食い込んだ先からは、血が滲んだ。
黒い服で見えなかったけど、足を伝って流れる血が見えて、思わず顔を顰める。
何やってん。
痛いやろ、いのっち。
「・・・・・・なんで、痛ぇんだよ」
下を向く。
ぎゅうっと唇を噛んで。
固まった息を外に吐き出す。
涙は、出ていなかった。
眉間に皺。
力いっぱいに閉じられる目。
再び、溜息。
「・・・め、あけたら、おかだがちゃんといますように」
一言言い残して、いのっちは膝元に顔を埋めた。
切実な願い。
多分メンバーも同じことを思ってくれてるんだろうと思う。
だけど、メンバーの中の誰よりも、いのっちはそれを祈っていた。
子どものように、我が儘に。
そう。
メンバーは全員、俺の死を受け入れているのに。
いのっちだけが唯一、俺の死を受け入れられずにいたのだった。
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2007.5.12