ぱち、と。
視界が開けて、滲む。





またあの夢だ。
薄暗い病院の廊下で何度も謝る傷だらけの坂本くんと、問い詰める俺。
遠くからは誰かの泣く声。
あにぃしんじゃやだ、と喚く松岡。
運ばれていく山口くん。
一つ一つが繋がらないまま、断片断片が俺の頭の中を流れていく。
唯一繋がっているのは坂本くんと俺のやりとりだけ。
真実が分からないから、繋がらない。
問い詰めようにも彼の心情を考えると話すに話せなかった。
山口くんは面会謝絶。
そして不思議なことに、松岡とよっちゃんに至っては揃ってぽっかりと事件の記憶が抜けていた。
尋ねても首を捻ってしらない、と言うだけで。
追求しようとしたら坂本くんと山口くんに止められた。
その後、この話は無かったことにするという暗黙の了解が張られ。
真実はあやふやなまま、記憶の奥底に仕舞われた。






真実を知っている坂本くんと山口くんと。
真実を忘れ去ってしまったよっちゃんと松岡と。
そして、真実の断片を持っている俺。






力になりたいのに、なりきれない。
本当のことを聞こうとしても、聞けない。
まさに宙ぶらりんの状態。






坂本くんの痛みを思ってか。
はたまた自分の無力を呪ってか。
あの夢から覚めた俺はいつも泣いている。






































































































「・・・・・・はぁ」
溜め息をつき、頬の冷たいものを拭って起き上がれば。
コツコツ、と窓ガラスを叩く音がした。
そこで初めて自分が車の中で転寝をしていた事実に気づく。
窓の方を見れば、覗き込んでいる坂本くんの顔。
しかも、度アップ。
「うっおぉ?!」
ビックリした俺の声にビックリする坂本くん。
なんだこのやり取りは。
車の助手席の鍵を開ければ、びっくりしたーと言いながら入ってきた。
もう5月の末になるのにマフラーかよと言えば。
俺は意外と寒がりだし、風邪引くと親に心配されるからつけてんの、とのご返答。
しゅるり、とそのマフラーを外して後ろの席に投げる。
おい。
「俺の車汚くするなよー」
「汚くないじゃん、マフラーだし」
これカシミア100%よぉ?と手にとって頬にまふまふしてきた。
金持ちめ。
「あー気持ちいいー・・・じゃないだろ!」
「おーノリ突っ込み!」
「感動しなくて良いから。車、出すよ」
「おう」
坂本くんがシートベルトを締めたのを確認して、アクセルを踏む。
加速をつけて車の波に乗れば。
何故か横でぎゅうっとシートベルトを掴んで震えている男が、一人。








「なーがのさーん安全運転でよろしくー」
「俺はいつも安全運転ですよー」
「・・・とか言いつつメーターが既に80超えしてますけどー」
「あれ?」
「あれ?じゃねぇーーーーここ50キロ制限ですぅーーーー!!!」
「あっはっはーー」











やっぱ車は改造エンジンじゃないとねー。
坂本くん泣かせませんからねー。
スピード違反なんて見つからなきゃいいんだよ見つからなきゃよー。
俺は今むしゃくしゃしてんだっつーの。
知らないことばっかりで、さぁ。
どうして。
どうして。
なんでだよ。
俺だけ、蚊帳の外で。
聞いたって答えてくれなくて。
わかんないままで、ふらふらしてるだけで。
俺、坂本くんの友達だったんじゃないの?
違うの?
友達っていうのは背負ってるもの分け合うからいるんじゃないの?
ねぇ。
何とかいえーーーーーー
っていうか泣けーーーーーー













全部、心の声。
馬鹿だなぁ、俺。
言っちゃえば楽になるのわかってるのに。
その所為で辛そうに歪む坂本くんの顔は見たくないんだ。






痛みを伴わないと先に進めないのに。
わかってるのに。
それだけが俺の足を止めてる。




























































































「・・・・・・長野ぉ」



































俺を呼ぶ震えた声。
でもその声色は真剣で。
ん、と小さく返事をすれば、わし、と頭を撫でられた。










「なに、泣いてんだよ」





























































































































































なに、泣いてんだよ。
おれのせいなのに、さ。



おまえがなくとこじゃないじゃん。
なんにも、悪くないのよ?






・・・・・・なぁ、ながの。
おれだけなんだ。
おれだけが悪いって。
そうおもえば、楽なんだ。
やまぐちも、まつおかも、よしひこも。
ぜんいん、おれをせめればいい。
そしたら楽なんだ。
みんな楽になるんだ。







・・・だけど、つらいから。
ひとりで抱えるの、すっげぇつらいから。
たまにでいいからさ。
おれの代わりに泣いて。





こんなこと頼んで
ごめんな。
おまえにも背負わせちゃって
ごめんな。





ごめんな、ながの。












































































































・・・・・・ああ。
どうして忘れてたんだろう。
あの時、確かに。
坂本くんは、俺を頼ってくれていた。








記憶は時間が経てば経つほど薄れていく。
本人の良いように変換されながら。
俺は謝っている坂本くんばかり見ていて、いつの間にかその言葉を簡略化してたんだ。
彼なりにたくさん、話していてくれてたっていうのに。






・・・・・・かなり遠回りの言葉ではあったけど。

























































「・・・・・・っう・・・っ」
「さっきも泣いてたくせに」
「・・・っ見てんな・・よっ・・・」






















































夢を見る度、涙を流すのは。
頭では忘れていても、身体が覚えていたからだったんだ。
遠い日に交わした坂本くんとの約束を。




















































「・・・・・・さんきゅーな、長野」







「俺との約束、覚えててくれて」







「でも」







「苦しかったらやめていいからな」








「泣くのって結構辛いことだからさ」




























ぽつりぽつりと途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
俺はがしがし乱暴に流れる涙を拭って、ぶんぶん首を横に振って見せた。







止めてやるもんか。
絶対、止めない。
例え辛くたって、止めない。
だってこれが坂本くんに俺が出来る全て。





友達だろ。
俺たち、友達じゃん。
持っているものを背負えなくたって、それを思って泣くことが出来る。
俺が泣くことで少しでも坂本くんが救われるんだったら。
それだけで、俺は嬉しいんだ。






















「・・・・・・今日は鍋が食いたい。とびっきりの美味いヤツ」
突然そう言えば。
キョトンとした顔になる。
こんな言葉じゃわかるわけないか。
「俺の涙は高いんだから、その分美味しいもの食べさせてくれないと割に合わないだろ?」
鼻を啜りながらそっぽを向く。
ようやく意図が飲み込めたらしい坂本くんはよし、と頷いて。
「今日は俺の特製鶏団子チゲ鍋にしてやるよ」
と、笑った。







そう。
そうやって、笑ってて。
よっちゃんも坂本くんも、ずっと。
そのためだったら何度でも泣いてあげるから。






だから、笑ってて。







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