信じている人なんて誰も居なかった。
常に肩を張って、気を張って。
神経を研ぎ澄ませて一日を生きていた。
左手をポケットに入れ、誰にも触らないように。
触ってしまったら自分がどうなるかなんて、小さい頃からよく知っていたから。








『・・・何で俺の考えてること分かんだよ、お前』








不気味なものを見るような目で見られるのはもう、嫌だった。

















































































































似たもの同士の俺たちだから
















































































































チャイムが鳴り響き、授業が終わる。
俺は脇目も振らず、誰にも声をかけずに屋上へと足を進めた。
人が密集している教室から、一人きりになれる屋上へ。
学生生活上、最も気の抜ける場所だ。
ドアの前には立ち入り禁止の札があって、それのおかげで誰かが入ってくることは殆ど無かった。
行く途中で売店のオバチャンから焼きそばパンを買って。
立ち入り禁止になっている立て札を通り越し、ドアの前まで。
錠がかかってるんだけど、俺にはんなもん問題じゃねぇ。
屋上なんて立ち入らない場所の鍵なんか、職員室にわざわざ戻すはずがねぇんだ。
キョロキョロと辺りを確認する。
よし、誰もいねぇな。
ポケットの中から左手を取り出し、力を込めて軽く錠に触れれば。
軽い衝撃と、流れ込んでくる記憶。





「・・・・・・あーハイハイ。ここね」





左手をポケットに戻し、鍵の在り処に手を伸ばしてゲットする。
がちゃり、と手ごたえを感じ、ノブを回せば。
ぶわっと自分に吹き付ける風と、抜けるように広がる青空。
んーいい気持ち。
いつも座っているところに腰を下ろして、手に持っていた焼きそばパンを開封し。
がぶりと齧りつけば、やっと身体から力が抜けた。





ずっとここに居られりゃいいのになぁ。
でも、んなことしてたら卒業伸びちゃうし。
義務教育はきちんと卒業して、恵美を養ってくって決めたんだから。
あっという間に焼きそばパンは無くなり。
育ち盛りの俺にとっては全然足りないんだけど、金が無いんだからしょうがねぇ。
ごろん、と床に背を当てて上を見る。












真っ青な空はずっと変わらないものだから、好きだ。
俺が笑う時も、泣く時も、怒る時も。
この世の中に失望してしまった時でも。
曇りはすれどこの広さはいつも同じもので。
周りの目が変わった時だって、俺はいつも空を見ていた。














今日は雲が少ねぇなぁ。
あ、あれちょっと食パンに似てるし。
くそ、腹減った。
焼きそばパンが後2つくらいあればいいのに。







そう、空を見ていた俺の視線の間に。
ひょっこりと遠慮なく割り込んできた、顔。
うわ。






「・・・・・・目ぇ、細ぇな」
「五月蝿ぇよ」






出会うなり自分の顔にケチを付けられた相手はムッと表情を曇らせ。
そのまま出て行くか喧嘩になるかと思っていたのに、少し離れた場所に座った。
くしゃり、と開けたのは焼きそばパン。
他にもいくつかパンがあって。
ぐぅ、とお腹が鳴った。
その音を聞き逃さなかったのか、ヤツは怪訝そうに俺を見てくる。
「食ってねぇの?」
「・・・食ったけど足りねぇんだよ」
「じゃあ、これ買いすぎたからやるよ」
そう言って、ヤツは俺に向かってパンを一つ放り投げてきた。
キャッチすれば、それはクリームパン。
「・・・いいの?」
「おう。どうせ俺食えないだろうし」
売店で選んでるとどれもこれも欲しくなるんだよな、とヤツは笑いながら焼きそばパンを頬張った。
俺もご好意に甘えて、クリームパンの封を開ける。
ぱくりと口にすればじわりと甘さが広がった。
「美味い?」
「うまーい!」
「そか。よかった」
にぃっと笑った俺に、ヤツも目を線のようにして笑う。
コイツ、いいヤツだな。







「なぁなぁ、名前何てーの?」
「俺?田宮。田宮章吉」
「章吉ちゃんかー。あ、俺ね、俺明日真映児!映児って呼んで!」
「おう。っていうか俺ら同じクラスじゃんそういえば」
「そうだっけ?」
「クラスメイトぐらい覚えとけよ」
「んー・・・俺、人の名前と顔覚えんの苦手なの」
本当はクラスメイトと必要以上に関わりあいたくないだけなんだけど。
んなこと言ったら怪しまれるだけだし。
軽くそう濁せば、ふ、と相手の肩の力が抜ける。
「そっか。お前俺のこと知らねぇんだ」
「・・・・・・何?」
「いや、こっちの話。そっかそっか。よかったわ」
べしりと肩を叩かれて、大袈裟に痛がるリアクションをすれば、また笑った。
いいヤツじゃん。
一緒に居てすっげぇ楽だし。
もっと色んなことを聞き出そうと身を乗り出した時。















































「田宮ァ!!」































突然。
背後から上がった声に、章吉の表情が固まる。
さっきまですっげぇ笑ってたのに、急に無表情になって。
くるり、と返事も無く声のした方に振り向いた。
俺も一緒に目を向ければ、立っていたのは生徒指導の先公で。
つかつかと近づくなり、章吉に睨みを利かす。






「ぁんだよ」
「さっきお前のクラスで盗難事件があったそうだ」
「それと俺に何の関係があんだよ」
「あのクラスで怪しい奴はお前位だろう田宮章吉!」






話している内容が全く理に適っていないことに首を傾げる。
この先公の言い方だと、章吉はかなりの悪党ってことになるじゃん。
でも、さっき少し話しただけだけど、思った。
コイツはそんな奴じゃないって。










「・・・あのー」










恐る恐る口を挟めば、教師の目線が俺に向かう。
「明日真ァ。お前は何でここに居るんだ?!」
「んなこと今関係ないっしょ。っていうかさ、何で章吉が怪しいんだよ?コイツはんな奴じゃ」
「コイツはなぁ、」
「おい、言うんじゃねぇよ!」
章吉の慌てたような声。
何で。
先公は章吉の制止を振り切って、口を開いた。





「コイツは城北レーベルのヘッドなんだよ!!」
























城北レーベル。
俺でも名前の聞いたことがある、この街の二大チームの片割れだ。
そこの、ヘッド・・・?
章吉ちゃんが?
驚いて章吉を見れば、目が合って。
その後酷く傷ついた表情になって、俯いた。





































































どこか見覚えのある、それ。
ふと、考えて。
すぐに小さい頃の記憶が蘇る。
ああ。
力が回りにバレて気味悪がられた時の、俺の顔だ。
それと、そっくりなんだ。










そう、気づいた瞬間。
俺は先公を思いっきり殴りつけていた。


















勢いをつけて吹っ飛んだヤツは壁に頭を打ちつけ、その場に転がり出す。
ビックリした表情の章吉の腕を掴み。
「逃げんぞ」
と、一言言うと、それに対しての了承を待たずして出口に向かって走り出した。



















































































































































































「・・・・・・どういう、つもりだよ・・・っ」
走って走って。
学校の校門を通り抜け、暫く言ったところで足取りを緩めれば。
息絶え絶えになった章吉が俺の手を振り払って抗議の言葉を吐いた。
そういう俺も思いっきり走ったから息が荒い。
懸命に整え、唾を飲み込んで章吉を見返す。
「・・・どういうつもりも何もねぇよ。思わず手が出た。んで逃げた。そんだけ」
「お前、ヘタすりゃ退学だぞ?!」
「大丈夫だって。そしたらまた別な学校探すさ」
気にすんな、と肩を叩けば、章吉はほんの少し泣き出しそうな表情になった。








その、顔。
そんな顔すんのは、俺だけで十分なのに。














































「・・・映児は」





ぽつり、と。
呟くように名前を呼ばれる。





「ん?」
「俺がレーベルのヘッドだって聞いて、どう思った?」
怖いと思ったか?と尋ねられて、考える。
んー。
「怖いっつーより、こんなヤツがヘッドだったんだなーって思った」
「・・・は?」
「目ぇ細ぇし、クリームパンくれるし、笑った顔見てると何だか和むし。そんなヤツがヘッドのチームなら、大して怖くねぇな、って。そう、思った」
思ったままのことを口に出せば。
章吉は細い目をまん丸にして俺を見つめ、ぶはっと吹き出した。
え。








「んだよー」
「あっはっはっは!お前、ホント変わってんなぁ!」
「何ー?俺一般人なんですけどー」
「だって、普通は物凄い目で見てくんだぜ?俺がヘッドだって知ったら、みんな」














章吉のその言葉を聞いて、ハッとする。
さっきコイツの表情を見た時。
自分に似ていると感じたのは間違いじゃなかった。
いや、『似てる』んじゃない。
章吉と俺は『同じ』だったんだ。
だから見てられなくて先公を殴ったんだ俺。
あー、何か、スッキリしたわ。




















「・・・いいじゃねぇか。物凄い目で見られてた方が何かと有利だろヘッドしては」
「ダチが出来ねぇだろ」





まぁな。
怖がって近寄らねぇわな、確かに。
アレ、でも。





「章吉ぃ」
「なんだよ」
「そんじゃ、俺とお前は?」





俺と章吉を交互に指差して首を傾げて見せれば。
章吉はキョトンとして俺を見、あ、と変な声を上げた。









「そういやお前が居たな」
「何その粗雑な扱い」
「あは」
「あ、お前一つ忠告。俺強ぇからレーベル引き連れて脅そうったって無駄だかんな」
「別にレーベルは脅すために作ったんじゃねぇよ」
「そうなの?」
「ああ。カツアゲしてんのはもう一つのチームの方だ」
「それを早く言えよー」
「っていうか俺が誰かを脅す時はレーベル使いません」
「何で?」
「俺も超強ぇから」







言い合って。
俺たちは揃ってにぃっと不敵な笑みを浮かべた。















新しく出来た友達は。
そのまま過程を踏まずして親友になりそうなくらい。
そんな、変わったヤツだった。






でも。
それでも、俺は。
自分の力のことを章吉に言うつもりは無かった。
レーベルのヘッドと、訳が違う。
心の中を読まれることがあるのだと知ったら、誰だって不気味がるだろう。
せっかく出来た友達をこんなことで失いたくない。
そう、思いながら。
俺はポケットの中の左手をぎゅうっと握り締めた。







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まさかサイコメネタで続き物書くとは思っても見ませんでした。
しっかし詳しい設定を知らないのは痛い。
中学校時代のサイコメと考えていただければ嬉しいです。
変な設定はまぁ、オリジナルということでスルーしてください(最悪お前)
2007.6.21