背伸びの途中
可愛い弟。
それが、俺が抱く井ノ原のイメージだ。
末っ子だった俺にとって、彼は初めて出来た弟のようで。
何処に行くにも長野くん長野くん、と懐いてくっついてくる可愛い可愛い『おちびちゃん』だった。
今だってそれは余り変わってはいない。
身長は抜かれてしまったけれど、アイツは相変わらずの甘えたで、加えてたまにやきもちを妬く。
それも、食べ物相手に。
「もう長野くんウチのグループ脱退しろよ!」だの「また食べ物かよ!」だの、何かにつけてはぷりぷり怒る。
そのくせ、美味しいものを探す時には俺に頼りっぱなしだったり。
岡田が前に「いのっちは矛盾だらけやね」と俺に言ってきたことがあるけど、まさにその通りだと思う。
「長野くーん、今日飯行こー」
「いいよ。何食べたい?」
「長野くんのオススメでいいよ」
「じゃあラーメンでいい?」
「うん!じゃあ行こうぜー!」
なんて会話を、日常だったり、携帯だったりで交わすことも少なくは無く。
俺の「ラーメン」の部分は日によって変わるんだけど。
今日も今日とて例外ではなく。
井ノ原と一緒に食事をすることにした。
最近忙しくて食べ歩きが出来ていなかった俺にとっては、最高の誘いで。
けれど、今日の俺たちはつくづく運が悪かった。
一軒目は閉店。
二軒目は定休日。
三軒目は繁盛しているはずの時間なのに、誰も入っていなかったから止めた。
何にも食べていないまま、公園のベンチに腰掛ける。
タクシー使っても良かったんだけど、お腹を減らすためにここまでは殆ど歩きで来たから、休憩。
ガックリきた俺の肩に、ぽす、と井ノ原の手が当たる。
覗き込んでくる黒目の多い瞳。
心配そうな色を帯びているそれに、とても申し訳なくなった。
「大丈夫?長野くん」
「うん・・・ごめんねよっちゃん。お腹減ったでしょ」
「俺が減ってるんだから長野くんは尚更だろ?」
「・・・うん、もうペコペコ」
苦笑いを返すと、井ノ原は少し考えた風にして。
何かを閃いたのか、にひ、と笑顔を浮かべて、俺の手を取った。
「・・・・・・?」
「長野くん、ウチ来てよ」
「え・・・?」
「グルメも大事だけど、こういう時はきっと、リラックス出来る場所で食った方が美味いと思うよ」
ほら早く早く、とぐいぐい引っ張ってくるもんだから、立ち上がり後を追う。
元気よくビシッと手を挙げてタクシーを待つ井ノ原。
ヘイタクシー!なんてでかい声で言い出して、周りの人が奇妙なものを見る目線で彼を見ていた。
俺がガックリしてたから気、使ったのかな。
そう思えば恥ずかしいなんて思うはずも無く、気づけば一緒になって笑っていた。
10分くらいでタクシーを捕まえ、二人して乗り込む。
行き先は井ノ原の家。
いい卵が手に入ったのよ、なんて嬉しそうに横から話しかけてきた。
どこの養鶏所の人ですか?と言ってみたら、またもぷりぷり怒り出す。
専門用語使うんじゃねーよ、とか言って。
でも本当に怒ってるわけじゃないのは知ってるし、逆にそれが可愛く見えて。
わしわしと頭を撫でてやればへら、と笑う。
井ノ原の家まではまだ暫くある。
歩き疲れたからか、段々とお互いに口数が減っていって。
少し眠くなってきた頃だろうか。
横の井ノ原がぐいっと俺の腕を引っ張った。
不意打ちだったから、ぐらりと井ノ原に寄りかかる形になってしまう。
細身の彼に俺は重いだろう。
起き上がろうとしたんだけど、わしわしわし、と頭を撫でられて。
手で押さえつけられるようにその体勢をキープされた。
「・・・よっちゃん?」
「長野くん、さぁ」
「うん」
「たまには俺を頼ってくれていいんだよ」
気ぃ張って無理しないでさ、と珍しく真面目な声色で井ノ原が言う。
無理していたつもりは、ないんだけど。
返事をしなかったからか、井ノ原が俺の顔を覗く。
いつもの甘えたな雰囲気はどこかに消え去っていた。
「もう俺さ、あの頃の『おちびちゃん』じゃねぇし。長野くん一人背負ったって歩けるって」
そう言って。
井ノ原はにひ、といつもの笑顔を浮かべて見せた。
横に並べば分かる、彼の成長。
高かった声は低くなり。
小さかった身長や手足は大きくなって。
人懐っこさはそのままに、グループの輪の中で引っ張っていく存在。
あの頃の『おちびちゃん』からは想像もつかないほど、井ノ原は立派に大きくなっていた。
身体も、心の中も。
なのに俺は。
いつまでも、あの頃の『おちびちゃん』な井ノ原を引きずっていて。
小さい頃のままの頼りない印象を拭えていなかった。
もう、彼の肩は俺の頭なんか簡単に預けることが出来るほど、大きくなっていたのに。
「・・・・・・そっかぁ」
「そうだよー」
「でっかく、なっちゃったんだね」
「一緒にいたから見えなかったんじゃねぇ?」
「かもね」
確かに。
井ノ原の肩に寄りかかると、少しだけ楽になった。
思っていたより自分に無理かけてたのかな、俺。
そう気づくと、途端に襲ってくる眠気。
ちょっと寝るね、と断りを入れれば、いくらでもどうぞー、なんて気取った声が返ってきて。
その中に『おちびちゃん』な井ノ原を垣間見た気がして、ホッとする。
まだまだ背伸びの途中。
けれど、その背伸びは確実に彼を大きくしているのか。
そろそろ親離れかなぁ、なんて、坂本くんのような心境になりつつ。
井ノ原の肩の上で、俺は襲ってきた睡魔にふぅっと身を任せた。
END
まずは10万打おめでとうございますYUMEさまー!
あらゆる面でお世話になっているので、お礼も兼ねて駄文をちまちまと書いてみましたという。
言わば「恩を仇で返そう大作戦☆」みたいな!(こらお前)
『イノさんが長野くんに対して、強気な感じで本気で頼りになるところを見せる』ということで書きました が。
こここここ、これは達成されてるんでしょう か・・・?(オロオロ)
ウチの長野くんは一番よっちゃんに甘くて、無意識的にどこか「おちびちゃん」なよっちゃんを常に頭に置いているんですが。
今回、それを本人に自覚させてみようかなぁとかいう結論に辿り着き、こんな内容になりました。
いっぺんに大人になるのはどうもなぁと思い、『背伸びの途中』ということで。
こんな駄文ですが、10万ヒットのお祝いの気持ちをガッツリ込めて送らせていただきます!
YUMEさま、本当におめでとうございましたー!そしてこれからもよろしくお願いしますv
2007.10.1