ウチのグループには、付き合いの長さってヤツが存在する。
例えば、まーくんと博。
例えば、剛くんと健くん。
6人も居るグループの中で、その二つの組み合わせは既に出来上がっていて。
突然この世界に足を踏み入れた俺は、どこか疎外感を感じていた。
まるで夏休みの前辺りに転入してきた生徒のような気分。
寂しくなって、彼らの間に入ろうとすればするほど、その付き合いの差に驚かされ、もっと寂しくなる。
そしていつしか、俺の手の中には本が存在するようになった。
これがあれば、自分の世界に篭っていられる。
彼らの深い絆や繋がりなんて、見ないですむのだから。











「おはようございまーす」





鼻にかかったような声で、呑気な挨拶。
本に向けていた視線をそちらに向けると、いのっちと目が合って、にへっと笑われた。
俺はこの人が苦手だ。
自分とは全くと言っていいほどに正反対の性格。
なんにでも首を突っ込んで、相手の心情に関わらずペラペラ喋って。
付き合いの長いまーくんや博は一緒に笑ってるけど。
たまに剛くんや健くんが苦笑してるのに気付いているんだろうか。
二人の間に出来ている深い繋がりを邪魔しているようにしか見えない行為。
空気が読めないにも程があるわ。
向けられた笑顔から目を逸らし、再び本に視線を落とせば。
何を思ったのか、いのっちは俺のところに歩いてきて、隣に腰を下ろした。





「岡田ぁ。挨拶くらいしてよー」
「・・・おはようございます」
「うわっ何その他人行儀な感じ!もっとフランクでいいってー!」
「・・・おはよう」
「うん、おはよーう」





でへ、とだらしない表情でいのっちが笑う。
いっつもニコニコして、へらへら笑って、楽しそうやな。
そんな皮肉が頭の中を駆け巡る。
普通、俺がこんな風な態度取ってたら嫌われてることくらい、分かりそうなもんやのに。
いのっちはヒマさえあれば、俺の隣に座って話しかけてくるのだ。





「ねーねー岡田ー、今日俺さー」
「・・・・・・」
「・・・岡田、聞いてる?」
「聞いてない。今本読んどんねん。見たら分かるやろ」
「うん」
「だから、黙ってて」
「やーだー!俺の話聞いてよ岡田ぁ」





駄々を捏ねる様はまるで子どものようで。
大の大人が長い手足をジタバタさせているのを見て、俺の怒りは静かに容量を増していく。
何がしたいんや、この人は。
俺がせっかく皆に気ぃ使って一人になってんのに。
あまりにもジタバタが続くから、俺は持っていた本でいのっちの頭を叩いた。





「いてっ!」
「五月蝿いし、ウザい」
「・・・・・・」





俺の精一杯の悪口に、いのっちは叩いた箇所を押さえながら口を尖らせるだけだ。
それで、お終い。
すぐにまたいのっちは俺に絡み出す。
俺は仕方なくため息をつきながらそれに付き合ってやる。
いつもは、そうだった。






けど、今日は少し違って。
いのっちは黙ったまま、しょんぼりと俯いてしまっていた。
きゅうっと悲しげに曲げた眉。
しぱしぱと瞬く目蓋と一緒に長めの睫毛が上下に動く。
すん、と鼻を啜る音がして、俺は年甲斐も無く動揺してしまった。
まさか泣かせてしまうとは思っても見なかったから。
慌てていのっちの顔を覗きこもうとすると、バッと俯いていた顔が上がって。
そこには、にへっと緩い笑みを浮かべたいのっちが居た。





「へっへっへ。うっそぴょーん」
「・・・いのっち」
「ビックリした?ビックリしただろ??あー楽しい!お前ってアホなのなー」





けらけら笑いながら俺を指差して笑ういのっちの笑顔。
でもいつも見せるそれとは、どこか違って。
俺の抱えていた怒りの感情がしおしおと萎んでいく。
代わりに溢れるのは、何故か安堵感だった。
普段から嫌になるほど隣で見ていたから、きっと気になってしまった。
伸びかけた黒髪をよしよしと撫でると、いのっちの馬鹿笑いがぴたりと止まる。
キョトンとした表情が俺を見て、その目が少しだけまだ悲しみを帯びていることに気付いた。
寂しがり屋ほど人の傍に居ようとするもんだと、何かで読んだのを思い出す。
強い繋がりに囲まれて、必死に自分も取り残されまいともがいて。
だから、無理矢理自分を滑り込ませて、笑っている。












・・・なんや、この人。
よく考えてみたら、俺と同じやったんや。





そう思ったら何だか愛着が湧いて、変に笑えてきた。
急に変わった俺の態度にビックリしてついて来れてないいのっちのポカーンとした顔もこれまた面白くて。
隣に居るのに全然気付かなかった表情に、俺の感情はふわりと緩む。





「岡田?」
「んー?」
「どうした、岡田」
「んー、なんもないよ」
「そっか」
「さっき叩いてごめんな」
「いつものことじゃん」
「そうだっけ?」
「・・・岡田ぁ〜」





抗議の意が篭った声に、また俺は笑う。
それにつられたようにして、いのっちも笑い出す。
よかったー岡田が笑ったーなんて言って、泣き出しそうな顔をするもんだから。
もっと早く笑ってあげればよかったかななんて、ふと思った。























































あれから、もう10年以上が経って。
このグループのメンバーとも付き合いが長くなって、いろんなことが読めてきた。
いつの間にか俺の手に常にあった本が姿を隠して、代わりにメンバーと話す機会の方が増えてきたからかもしれない。
相変わらずあの二組の絆の深さには敵わないけれど。
俺たちの間にも、ゆったりと何か深いものが出来つつある気がする。





「おはようございまーす」





あの時と変わらない、鼻にかかった声で呑気な挨拶。
目が合うとひょこひょこと寄ってくる長身。
何も言わずに座るスペースを広めに空けてやる。
いのっちはそこにどかっと腰を下ろすと、ふーと小さくため息をついた。





「おはよ。お疲れやね」
「ん」
「ミーティングまであと2時間やって」
「おー」





相槌を打ってから、いのっちの頭が俺の膝の上にぽてっと乗っかってくる。
広めに空けたスペースに足を延ばしている彼にそっとジャケットをかけてやった。





「岡田、あれ取って」
「ほい」
俺は手近にあったクッションを取って、いのっちに渡す。
それをぎゅうっと抱き枕代わりのようにして、ようやく落ち着いたようだ。
「んー・・・」
「ねんねーんころりーよー♪」
「それ要らない」
「んっふっふ」





考えてみたら、あの頃と比べて俺たちの立場が逆転しているのかもしれない。
いのっちと一緒に居る時の俺は、いのっち以上に喋ってる気がする。
膝の上の黒い髪をぽんぽんと叩いていると、ぐーと聞こえてくる小さな鼾。
それを確認して、俺は今度のドラマの台本をぱらりと開いた。






「岡田は凄いねぇ」
「・・・何が?」
「よっちゃんのこと、完璧に手なづけてるじゃない」





一部始終を見ていたのか、にこにこと笑いながら博が言う。
手なづけてる、ねぇ。
結構難しい子なんだよーと言いながら饅頭を頬張る博に苦笑いをしながら。





「俺たちだって負けてられへんもん。なぁ?」





睡眠を貪っているいのっちに小さい声でそう言ったら。
いのっちはタイミング良くへにゃ、と昔と寸分も違わない笑顔を作った。





END
衝動で書いてみたSS。
今でこそ6人が仲良しだったり、色んなコンビが出来てますが、昔は何となくツートップとゴケンが固まっていたのではないかなぁという妄想から。
イノさんはその二組を自分を介することで、いい意味で間に出来た壁を壊そうとしていたような気がします。
ツートップの深さに寂しさを感じるイノさんと、ゴケンの深さに寂しさを覚えるずんさん。そんな二人で。
2008.3.24