泣き出しそうな顔。
辛そうな顔。
どうしようもなくなったって感じの顔。
それはどれも誰もが持っている表情だけど。
アナタがそれをした時、俺は酷く不安になるんだ。
心配性な贅沢者
一人きりの楽屋。
おはようございます、とスタッフに声をかければ。
先に井ノ原さん入ってます、とにこやかに応対された。
いつもながらに早いなぁ。
メンバー好きな彼だからそわっそわしながら待っているんだろう。
挨拶をしてドアを開けた瞬間飛び掛られそうで、微妙な気持ちになる。
嫌やないんやけどな。
そう、嫌ではないのだけど。
やっぱり。
「・・・・・・しんどい」
それって嫌がってるのと一緒だから、と苦笑気味に博に言われたけど。
嫌やないん。
しんどいんや。
イノッチの身体、細いけど重いんやもん。
そんなわけで。
俺は楽屋に入るドアの前で躊躇っていた。
ゆっくりゆっくり慎重にドアを開いていけば。
ソファに腰を下ろして本を読んでいるイノッチが見えた。
表情は上手い具合に本に隠れて見えないけど。
これならそっと忍び込んでじっとしてれば気づかれないだろう。
思って、そろそろとドアの隙間を広げていけば。
不意に。
イノッチの表情を遮っていた本が動いて。
見えた、表情が。
酷く悲しげだったから。
「・・・・・・っイノッチ?!」
動揺して声を上げれば。
イノッチは俺の方を向いて、笑った。
突然のことでビックリしたのだろうか、かなり、ぎこちなく。
でもそれはいつもの笑顔ではなく。
迷子になった子供が母親に会えた時のような、そんな安堵の笑みで。
「・・・・・・岡田ぁ」
よかったぁ、と。
小さく小さく漏れた言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「どしたん?」
「どうもしねぇよ」
「嘘吐き。さっきよかったぁ言うたくせに」
俺の言葉にキョトンとするイノッチ。
どうやらあれは無意識のうちに呟いてしまったものらしい。
「言った?俺」
「言いました。ついでに今の顔もものっそブサイク」
「・・・・・・お前、なぁ」
「無理矢理作った笑顔ってどんだけブサイクか知らんやろイノッチ」
「・・・・・・知ってる」
「知ってるならその笑顔、止めて」
そう言えば。
上がっていた口元がふにょん、と下を向き。
軽く顔が下向き加減に傾く。
目の細さにはあまり相応しくない長さの睫毛がしぱ、と瞬いた。
「なんでそんな顔、してるん?」
「お前がしろっつったんだろーが」
「ちゃう。俺は自然なイノッチに戻れ言うただけや」
「・・・・・・」
聞いてもムスッとした顔で俯いたまま。
一人で抱え込むまーくんとはちょっと違った雰囲気を纏っている。
まーくんは皆のために必死だったり、自分の所為で周りに迷惑をかけないようにっていうお兄ちゃんのような行動なのだけど。
イノッチの場合、自分の中で消化できないまま誰かに相談するのは嫌、という一種のプライドみたいに思えるのだ。
自分で笑い話に出来るようになってから、ネタにして口に出す。
抱え込むっていう行動にしてみたら一緒なんだろうけど。
どこか、違って。
「イノッチ」
「んー?」
「俺、おらんから」
「・・・?」
「目ぇ、閉じて。そしたら俺はおらんようになるやろ?」
「・・・見えないだけで居んだろ」
「ええから、閉じて」
訝しげに光る瞳が目蓋に塞がれて見えなくなる。
この人は本当に素直な人だなぁ、と思う。
嫌だって突っぱねることなんか簡単なのに。
「閉じたぞ」
「おん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・閉じたってば」
「・・・・・・」
「・・・・・・岡田?」
不安げなイノッチの声。
俺は声を出さないまま立ち上がり、すたすたと足をドアに向けて進めた。
ぎい、と音を立ててドアを開け、バタンと閉める。
身体だけは部屋の中に残して。
所謂、出て行った振りをしたわけで。
すっとソファの後ろに身体を隠して、言葉を待った。
「・・・・・・岡田ぁ?行っちゃったのかよー」
薄情者ー、と暴言を吐いたのは聞かなかったことにして。
ソファに耳をくっつけてじーっとしていれば、小さな溜め息が聞こえた。
身体を動かす気配は殆ど感じられない。
目を閉じたままでいるんだろうか。
そして、さっきみたいに悲しげにしているんだろうか。
「いなく、なんなよぉ」
震えた声。
「集合時間近ぇのに、まだ誰も来ねぇし」
漏れる本音。
「しかとされたらどうしようって、俺」
・・・・・・ああ、成る程。
「馬鹿、みてぇ・・・」
「ばーか」
「うおぉっ!!!!」
突然の俺の声にビックリしたのか、物凄い声。
思わず耳を塞いで上を見れば、覗き込んでくるイノッチの顔があった。
「・・・・・・岡田ぁ」
「馬鹿。阿呆。間抜け。そんでもって細目」
「最後のそれはいらねぇだろ」
「一人でグチグチ悩んでるイノッチは馬鹿。それを誰にも言わないイノッチは阿呆。出て行った俺に気づかないイノッチは間抜け」
「わざわざ説明しなくてもいいっつの」
「そんでもって細目」
「だーかーらー!それは余計だっつってんだろうがー!」
ぷーっと膨れたイノッチの顔を見て。
こらえきれずに俺は吹き出した。
それを見て憮然とした表情をしていたイノッチも釣られ出す。
苦笑、半笑い、そして、破顔。
やっと、普段のイノッチに戻った。
この人はどれだけ心配性なのだろう。
グループ内できっと、一番愛されてるはずなのに。
まーくんも博も剛くんも健くんも俺も。
みんな、イノッチのことを大事に思ってるんだってことには気づかないのだろうか。
「イノッチの贅沢者」
「何だよそれ」
俺の言葉に憮然とする。
表情が本当にころっころ変わって面白い。
「イノッチが今欲しがってるものは全部傍にあるんやで」
「・・・・・・?」
「持ってるのにもっともっと欲しがってる。だから、イノッチは贅沢者や」
もうすぐ皆が来る。
そうしたら、俺の言葉の意味が分かるだろう。
「皆、イノッチに会いたがってるに決まってるやん」
そう言って笑えば、イノッチは驚いた後ぷわ、と笑顔になって。
そして。
「おっかだーーーーっ!!!」
「うぉっ」
盛大に、ハグを。
「准ちゃん大好きーーーーっ!」
うわ。
って、あれ。
そういえば俺これを回避したかったんじゃなかったっけ?
し、しんどい。
重い。
暑苦しい。
・・・だけど。
この笑顔は、悪くない、かな。
多分。
とりあえず。
イノッチの成すがままになりながら、俺は。
まーくんか博が早く楽屋に来てくれることを必死に祈っていたのだった。
END
>メンバーに久々に会う時の話。
イノなきで「明日はメンバーとたくさん話したいと想います。構ってくれればの話ですが」みたいなやつがあったなぁ、なんて。
そんなことを考えながら書いていたら、どこをどう間違ったのかこんな話になっちゃいました。
岡田くんの摩訶不思議世界は狙うと書きにくいなぁと思いつつ、この二人の空気はとっても好きな管理人です。
2007.4.11