映像を見ているうちにもしかして、と思ったのだ。
トイレでしゃがみ込んだ時の表情は普段見ない程に恐怖で歪んでいたし。
ゴールした時の首筋に光る汗の量は尋常じゃなかった。
可能性は低くない、確信めいた考えを胸に、俺はパイプ椅子に座っているいのっちに近寄る。
ついでに、手に持っていたミネラルウォーターを彼の首筋目掛けて押し当ててやった。
「っうぉわっ!・・・なんだ、岡田かよー」
びっくりしたじゃんかーと笑う横顔は、何だか引きつっている。
微かに肩が震えているのが分かって、ますます俺の考えの信憑性が高くなった。
ミネラルウォーターのフタを捻って中身を飲み込むいのっちに、一言。
「なぁ、もしかしていのっちも視えるん?」
「ぶっ?!」
あ、物凄い吹いた。
辛うじてモニターにはかからなかったものの、テーブルは濡れてしまっている。
スタッフがバタバタと慌ててタオルを持ってきて、いのっちが謝りながらそれを受け取ってテーブルを拭き始めた。
俺が考えていたことはバッチリ的を得ていたようだ。
本人は肯定はしていないけど、多分。
いのっちも、俺と同じように霊が視える。
ゲホゲホ咽ながら弁明をしようとして俺の方を見たいのっちの顔から血の気が引いた。
いや、正確には俺の後ろ、だ。
何となく気配を感じて振り向けば、小さい子どもが立っている。
ほわりと白い気配を纏っているから、この子は完全に。
「迷子?」
声をかけると、その子はこくん、と縦に首を振った。
そして、迷いも無く俺の横に居たいのっちの方に向かっていく。
怖がるかなと思っていたら、いのっちは案外冷静で。
何となく悲しそうな笑みを浮かべながら、その子に向けて手を伸ばした。
「おいで」
いのっちの声に、子どもが何度か瞬きをして。
恐る恐る伸ばされた手に、自分の小さい手を乗せた。
その小さな身体をいのっちが抱きしめると、日向のような光がふわりと溢れて。
子どもの表情がふにゃんと笑みに変わって、消えた。
「・・・消えた」
「准ちゃんは浄化までは見えないんだね」
「浄化?」
「今あの子を成仏させたの」
「・・・・・・へぇ」
驚いた。
いのっちにそんな力があったなんて、想像してなかったから。
非科学的だと否定するにも、目の前でそれを見たわけだし、信じざるを得ない。
でも、俺のリアクションの薄さが気に食わなかったのか、いのっちは口を尖らせて抗議の表情になった。
「もっと驚けよ」
「いや、驚いてるって」
「こうやってイスごとひっくり返るくらい驚けよ」
「嫌やいのっちじゃあるまいし」
「そんな理由かよ」
言って損した、といのっちはつまらなさそうな表情で水を飲む。
でも、こんな風にいとも簡単に浄化をやってのけるのなら、あんなにビビらなくてもよかったんじゃないだろうか。
頭を抱えて眉を顰めてしゃがみ込む必要は無さそうに思えるのに。
気になったので、その辺りを尋ねようと俺は口を開く。
「・・・トイレでさ、物凄い顔してしゃがんでたやん?あそこにも居た?」
「うん?・・・うん」
「なんで?さっきの子みたいに浄化させられるんやないの?」
「・・・あー、准ちゃんって複雑な霊は視えないのな」
だから今まで何事も無く生きて来れたんだね、といのっちはさらりと怖いことを口走った。
流石の俺でも背筋に寒いものがぞわりと走る。
複雑な霊。
それって、つまり。
「つまるところ、悪霊ってやつ」
「・・・うわ」
「下手に触ったり煽ったりしたらあの世に引っ張られるんだよ。あれは俺でも無理。鍵のすぐ傍に居るから超怖かったんだ」
「そう、なんか」
物凄い会話になってきて、俺は思わず周りを見渡した。
剛くんと健くんはモニターを見て笑ってるから、俺達の会話は聞こえていないだろう。
キョロキョロと視線を彷徨わせていると、いのっちが苦笑しながらそこには居ないって、と言った。
ホッとして肩を降ろすと、いのっちは安堵のため息をつく。
「岡田が一般的な霊視能力の持ち主で安心した。・・・でもなぁ」
「?」
「霊媒体質のあの人がすっげぇ心配なんだよね」
「霊媒体質って、まさか」
「うん、そのまさか」
いのっちが指差したのは、モニターに映るまーくんの姿。
まだ序盤なのに既に恐怖で顔が引きつっている。
霊を嫌う人ほど霊媒体質だったりするっていうけど、まさか身近にそんな人が居たとは。
っていうか、そんな人が悪霊に近寄ったら拙いんじゃないか?
「だ、大丈夫なん?」
「うん、多分。さっき俺長野くんに広範囲結界の御札渡しておいたし」
「え、博にはこの話したんか?」
「っつか速攻でバレた。ぜんっぜん同じ匂いしないのに、意外と勘が鋭いんだ長野くん」
「・・・凄いな博って」
つくづくそう思うというニュアンスを込めた言葉に、いのっちも頷く。
そして、何故か俺の背中に手を伸ばし、服の中に手を突っ込むとぺり、と何かを剥がした。
え、なに。
「お前も十分凄かったけどな。本能的に悪霊避けてたのか、御札そのまま残ってる」
「え、いつの間に貼ったんいのっち?!」
「外に居た時。すっげぇ嫌な予感したから、念のため貼っておいたんだよ」
「全然気付かんかった・・・」
言いながら背中を擦っていると、そろそろモニター集中してくださいね、とスタッフから声がかかった。
慌てて椅子に座ろうとしたら、いのっちに服の端を掴まれる。
「なん・・・?」
「今の話、他の三人には内緒な。特に坂本くんには言わないように」
「何で?」
「ビビって心臓麻痺起こしちゃったら大変だろ。・・・っつか、速攻で霊気に当てられてるしあの人」
「霊気・・・?」
「霊が纏ってる気配のこと。弱い人は霊に近づかなくても身体に異変起きちゃうくらい影響受けるから」
胸元押さえてるから案外心臓にキてるかもね、といのっちが言う。
きっとこんな風なことが今までに何度もあったんだろうな。
っていうか、御札とか霊気とか色々知っちゃってるいのっちって一体。
疑問に思ったまま定位置につき、モニターを見る。
話を聞いたからか、何だか博がまーくんを守るように歩いているみたいに見えた。
博自身も怖がってるんだけど、ちゃんと離れないようにまーくんの傍に居る。
その動きが自然でそつの無いものだったことに、俺は脱帽した。
っていうか、色々非現実的ないのっちの言うことを疑うことも無く信じてる博って一体。
霊媒体質のまーくんも含めてトニセンって一体。
悩めば悩むほど分からなくなってくるので、俺は考えるのを止めることにした。
きっと、暫くすれば少しずつ分かってくるんだろうから。
そう結論付けた俺は、とりあえずモニターを見ることに集中し。
他の三人と笑いながらまーくんの真似をするのだった。
END
ガコイコ企画の肝試しにて。
視えるずんさんと、異常に怖がってたイノさんと、心臓の痛いまーくん(笑)で思い浮かびました。
勢いで書いたため詳しい設定は全く考えてないので、半現実的パラレルみたいな感じで。
とりあえずまーくんは天然霊媒体質で霊とか嫌なのに皆寄ってきてぎゃーとかなってたら面白いと思います(酷)
2008.8.29