人に晴れを迷いも無く差し出せる君は。
誰かにそうしてもらえるのを待ってるんじゃないか、なんて。
思うから、俺はいつも隣に居て。
雨に濡れている君の肩の上に、そっと青空を差し出すんだ。





























































































































晴天のおすそ分け













































































































水色の傘。
まるで、空のような色。
楽しそうにそれを見せてきた可愛い後輩の姿を思い出す。
俺の上だけが晴れてるんだぜ、と。
傘の水色を空の色に例えて、彼は笑っていた。








その傘が今、俺の胸元辺りの高さにある。
にゃあ、と追って聞こえる鳴き声。
ダンボールに入っている子猫と相合傘をして。
しゃがみ込んでいるよっちゃんを、俺は少し離れたところから見ていた。
迎えに来たんだけど、何だか声をかけるタイミングが掴めなくて。













しとしとしと













小さく音を立てて雨は降る。
ダンボールの中の子猫はふるふると体を振って。
その様子を見たよっちゃんは、子猫の身体を優しく撫でた。














「もう、大丈夫だかんな」












俺が居てやるから、と。
そう言って、笑う。
よっちゃんの家は確かにペットを飼えるところではあるけれど。
ネルが居るから飼えないだろう。
それでもよっちゃんは大丈夫と口にして微笑んだ。
子猫を守るようにして差している傘の先端から落ちてくる雫で、よっちゃんの肩はびっしょり濡れている。
誰かに晴天をあげる代わりに、自分は雨の中で濡れる。
よっちゃんが考えそうなことだ。
その優しさはとっても素敵なことなのかもしれないけれど。
傍から見ているとまるで、捨て猫が二匹居るみたいに見えて。
俺は戸惑っていた足を無理矢理踏み出して近づいた。






「・・・よっちゃん」
「あれ、長野くん」







帰ったんじゃないの?と俺を見上げて首を傾げる。
ダンボールには、猫。
同じような目で見上げられ、思わず笑いながら彼の前にしゃがみ込んだ。








「何笑ってんの」
「よっちゃんとその猫の目が一緒だったから」
言えば首を傾げてしげしげと猫を見つめ、俺に目線を戻す。
「コイツのが美人じゃん」
「見た目じゃなくて、色が一緒だったの」
「色?」
「そう。何か捨てられた子どもみたいだった」





俺が言った言葉にきょとんとして。
よっちゃんは子猫を抱き上げ、よしよしと撫でる仕草をした。





「コイツ、雨で濡れてたんだ」
「うん」
「震えてて、寂しそうで」
「だから、一緒に雨宿りしてたの?」
「そう」





こくんと頷いたよっちゃんを見て。
俺は手を伸ばして、湿っている黒髪を優しく撫でてやる。
捨てられた子猫はよっちゃんに撫でて貰えるからいいけど、よっちゃんは誰にも撫でてもらえないんじゃ、悲しいでしょ。


















それに。
俺にはわかってしまった。
よっちゃんが今、考えていることが。





































































































「・・・雨」
「?」
「雨が降ったことを負い目に感じなくていいんだよ」


























いくら雨男だって言われたって。
よっちゃんがわざと雨を降らせてるんじゃない。
偶然に偶然が重なって、ただ雨男だと定義づけされただけ。






































































「雨は、誰の下にでも降るんだから」

















































そう言えば、よっちゃんはハッとしてから泣き出しそうな顔で俺を見た。
彼が口を開こうとした時、腕の中の子猫が小さく鳴き声を上げ。
ぴょんと元気よくよっちゃんの腕から飛び出して、雨の中を走り出す。
その子の行くであろう先に目をやれば、赤い傘を差した小さな女の子が立っていた。
ミィちゃん、と女の子は叫ぶように言って。
子猫は彼女の腕の中に納まる。
ぼんやりとその様子を見ていたら、よっちゃんが急に立ち上がった。





ぱたり、と落ちる傘。
晴れ色の、傘。








「もう、捨てんなよ!」









泣き出しそうな声。
女の子がそれに気づいてこっちを見、大きく頷く。
腕の中の子猫はびしょ濡れになって。
ぎゅうと彼女に力いっぱい抱きしめられて、小さくなっていたけれど。
どこか、嬉しそうに見えた。













































「行っちゃった、ね」
「・・・・・・」










二人の後姿を言葉も無く見送るよっちゃんの後姿を、俺は見つめる。
雨に濡れる寂しそうな背中。
持っていた傘は晴天なのに。
捨て猫だって居なくなったのに。
なのにまだ、よっちゃんは捨て猫のままだった。














「・・・帰ろ、よっちゃん」











近寄って背中を優しく叩けば、こっちを向く。
大きくなってしまった小さな後輩は、ぼんやりして俺を見た。
俺は差していたビニール傘を閉じ、地面に落ちた彼の傘を拾い上げ、よっちゃんに傾ける。
中に入ってみて分かる、晴天。
確かに、この傘の中だけは晴れ渡っていた。







よっちゃんの作った晴天。
自分に差さないで、どうするの。







「ながの、くん」
「迎えに来たんだよ、俺」
「え・・・?」
「一緒に帰ろう」







言って、手を差し伸べれば。
よっちゃんは少し戸惑ってから、ぎゅうっと俺の手を掴んだ。
そしてふにゃんと口元を緩める。


















「うん、帰ろう」
































































どんより淀んだ空の下。
だけど、俺とよっちゃんは二人だけ、晴天の下。
青空のおすそ分けだね、と言えば、よっちゃんはぶん、と繋いだ手を大きく振って笑う。
その笑顔にはもう、迷いも無く。
ぐいぐいと手を引いて先を急ごうとする、いつものよっちゃんだった。







END
長野くんは限りなくイノさんに優しいといい。
というか、こういうスタンスの長野くんとイノさんの話が書きたくてしょうがないです。
何だこの衝動。
長野くんにはいいだけイノさんを甘やかしていて欲しいなぁなんて願望も込めつつ。
イノまぁ祭りに提示した話を含めて、5話分。
お付き合いありがとうございましたー!
2007.7.15