雨が降れば繰り返す。
俺たちの、お互いの居場所を確かめるように、何度も。
今日も明日も明後日も、その先も。
お互いがお互いの役目を果たして、ようやく成り立つ関係。




























































































傘、笑顔、依存症














































































































アイツは至極たまに哲学的になる。
いつもあんだけ明るくて、悩みなんて何にも無さそうに見えるのに。
会話が途切れた時、ぽつりと呟くように口にする。
狙ってか偶然か、それは殆ど雨の日だ。







俺は何で今生きてんだろう。
この世界は一体何をしたいんだろう。
人間の求める先って何?
坂本くんはどうして坂本くんで、俺はどうして俺なんだろう。







普段の明るい笑顔からはうって変わって、思いつめたような表情になる。
その度俺は井ノ原がどこかに行ってしまいそうな不安に駆られるのだ。
だからといって、ヤツの質問に平然と答えられるような頭も無く。
言葉の代わりに背中を叩くなり蹴るなりして、その後決まって言う言葉がある。
無理矢理でもそうすれば、少し視点が変わるんじゃないかという、願望を込めて。

















































今日も今日とて例外ではなく。
突然入った着信と、震える声。
さかもとくん、と子どものように俺の名前を呼ぶ声に、ため息。
付き合いが長いから、声色を耳にするだけで分かる。
こりゃ相当キテるなと。
どこに居る?と問えば、さかもとくんちの近く、というなんともアバウトな答えが返ってきた。
それだけじゃ流石に分からないので、周りにあるものを手当たり次第に挙げてみる。
コンビニはあるか、ガソリンスタンドはあるか、目の前に何が見えるか。
ウチの周りは大体辺鄙なところだから、コレ位で情報収集は済む。













井ノ原の口にした情報から思い浮かべた場所は、成る程俺の家のごく近くだった。
外を見れば糸のような雨が降り注いでいたから、傘を手に、少し慌てた足取りで家を出て。
二つ角を曲がったところで、体育座りの成人男子を見つけて、止まる。
あーあ、びっしょびしょじゃねぇか。















「井ノ原さーん。そこ、ゴミ捨て場なんですけど」












俺の言葉にハッとして顔を上げる井ノ原。
一般住民に迷惑だろ、と言えば素直に立ち上がって、避ける。
避けて、すとんとまた座り込んだ。
だから俺も、傍にしゃがみ込んで目線を合わせる。
自分の持っている傘をそっと、井ノ原に翳して。







「・・・・・・おれ」
「うん?」
「なんで、いんの・・・?」
「何が。っつか誰が」
「おれが」
「何で?」
「なにが?」
「俺が質問してんだけど」
「何を?」
「お前が自分が居るのを疑問に思ってるのは、何で?」






問えば、言葉が返ってこなくなる。
俺にしてみれば一番の疑問。
自分が生きてることに疑問を持つのは何故。
世界の行く末を考えてるのは何故。
人間の求める先なんて不可解なものを気にするのは何で?
俺は俺で、井ノ原は井ノ原で。
そんなもん、悩んだってどうしようもないことなのに。

























「お前の考えてることはさ、今雨が降ってるのは何でなのかってことと同じだろ」







































雨が降ってるのは何故。
そりゃ、水蒸気が空に上がって、雲を作って。
その濃度が濃くなってぱたりと地面に向かって落ちてくるから。
もっと理論的に言えればいいのだけれど、俺はそんなに頭が良いわけじゃない。












「分かったからどうすんだよ。お前の中の何かが変わるっていうのか?」
「・・・・・・それ、は」
「雨が降ってることが分かったとして、その後お前は雨について何かするのか?違うだろ。そんなもんただの自己満足だ」
「・・・・・・う、ん」













毎回毎回、そう言って。
それでもなかなか納得のいかない井ノ原に痺れを切らし。
まぁいいやと投げやりな言葉を吐き、立ち上がって。
井ノ原の薄い背中に蹴りを一撃食らわす。
痛、とあまり痛そうじゃない反応をしたヤツの腕をつかんで、ぐいっと力任せに引き上げ。
顔を近づけて、一言。











































































「笑え」


































































俺の乱暴な行動に脅えた目をしていた井ノ原は、その言葉にキョトンとして。
唇をつんと尖らせる。







「なに、言ってんの、アンタ」
「笑え馬鹿」
「急にんなこと言われても」
「いいから笑え無理でも笑えいつもみたくあの変な顔で笑え井ノ原」







じぃっと真剣な眼差しで見つめれば、ふ、と。
井ノ原の口から空気が漏れて。
ふへ、と。
変な声と共に、緩む口の端。
最初は無理矢理笑おうと声を出して。
徐々にそれが自然に発作へと変わっていく。
あはあは、とこれまたヘンテコで独特な笑い声が、雨の中の路地に響いた。
人通りの少ない雨の日でよかった。
こんなもん目撃されたら、恥ずかしすぎる。













・・・まぁ。
いつものことだ、お互い。
俺もお前も、全く変わらない。
ぱっと離れて井ノ原の頭をぐしゃぐしゃに混ぜれば、笑顔。














「俺、馬鹿だ」
「知ってる」
「何でこんなことで悩んでんの?」
「馬鹿だからじゃねぇか」
「・・・アンタに言われるとさぁ、ホント腹立つんだけど」
「本当のことだからだろ?」
「・・・そうだけど、さ」
「馬ぁ鹿。帰んぞ」
「・・・・・・どこに?」






再びキョトンとした表情で聞き返してくる井ノ原。
いつものことだろう。
言われる言葉も、最後に行く先も分かってるはずなのに。
いつも、井ノ原は俺にそう問いかける。
だから。
面倒だけど、俺は毎回井ノ原に同じことを吐く。













「寂しいなら寂しいって言え。会うための口実を作らなきゃいけないほど俺は短い付き合いじゃねぇだろ」














そうまくし立てれば。
井ノ原は目を丸くしてなんでわかるの、と子どもみたいに言うのだ。
それに俺は答えないまま、家路に向かって足を踏み出す。
待ってよ濡れちゃうじゃん!と井ノ原はさっきとはうって変わって抗議の言葉を口にしながら、傘の空いているところに身体を滑り込ませ。
相合傘よろしく、ご機嫌に鼻歌を歌いだすのだ。
井ノ原に関してだけ言うと、言いたいことを俺が全部言ってやればどうにでもなる。
甘やかし過ぎだと長野にはよく怒られるんだけど、こっちのがお互い楽だから。



































・・・いつか。
お前の心の中の雨が止んで、綺麗に晴れ渡るまで。
俺が傘を差し伸べてやるから。
俺がお前にかかるように傘を差したら、その中で笑え。
手を貸すのが俺の役目ならば、笑うのがお前の役目。
勝手に決めたそのルールに、井ノ原の異存は今のところ無い。
だから、続ける。
今日も明日も明後日も、その先も。
お互いがお互いの役目を果たして成り立つ関係。
依存症、という言葉がしっくり来るそれを繰り返し行いながらも、意外に居心地の良い井ノ原の隣に立って。
俺はヤツの馬鹿みたいに明るい鼻歌に声を乗せて、歌った。











END


イノまぁ祭り作品二つ目です。
もうすぐ終わっちゃう!と思いながらも何とか間に合いました(笑)
感想等、いただけると嬉しいです。
のっち
2007.7.9