本音














<I side>





酒を飲む時。
それはただ酒を楽しみたかったり、辛いことがあってヤケ酒したり、頑張った自分を労ったり。
色々あるんだけど。
メンバーの中で酒に強い人はあの人しかいなくて。











「坂本くーん」
俺は彼のウチのインターホンを押し、がちゃり、と応答した音を確認した瞬間名前を呼んだ。
バタバタと玄関に近づく足音。
がちゃ、と扉が開いて。
坂本くんがひょこっと顔を覗かせ、眉を顰めた。
なに、せっかく俺が来たのに、その顔はないんじゃない。
連絡も入れないで突然来たのは悪かったと思ってるけどさ。





「なんだよ、お前急に来て」
「だって俺酒飲みたかったんだもーん」
がっちゃがっちゃと酒とつまみの入った袋を揺らしてみせる。






友達も今日に限って誰も遊んでくんないし。
長野くんとか健ちゃんとか剛ちゃんはお酒に弱いし。
岡田は酒強いんだけどぜんっぜん話してくんないからつまんねーし。
だからホラ、アンタの顔が浮かんだんだよ。





坂本くんはため息を一つついて、仕方なくって感じに俺を部屋に招きいれた。
ずかずかと足を進める俺。
「今日誰かいるの?」
「いねーよ。せっかく一人でのんびりしてたのにお前が来たんだよ」
「あ、そう」
「あ、そうってお前なぁ」
俺の平穏な時間をジャマしやがって、なんてブツブツ言ってる。
全く、俺は邪魔者かよ。


























空き缶がテーブルに所狭しと並んでいる。
俺と坂本くんで空けると、30分でこの図が出来上がるんだよな。
どっちも酒に強いもんで。
でもきっと、坂本くんの方が俺より強くて。
俺が頭の中ふわふわして眠たくなった頃、彼はまだ平然として酒を口に運んでいた。
「さかもろくん」
あ、口?呂律?回ってねぇや俺。
「なんだよ」
強いとはいえ、酒で赤くなっている目で坂本くんは俺を見る。
「おれさぁ、きょうすげーつらいことあったんだぁ」
一生懸命普通に言おう言おうとしながら、言葉を紡ぐ。











つらいこと。
言わないつもりだったのにな。
酒の力って、偉大。



あと。
坂本くんの目。
そして彼の存在自体が。
俺の隠そうとしていたものを暴いてしまうんだ。
いつも。




坂本くんは何も言わずに俺を見ていた。
瞳は急かすわけでも、興味がないわけでもなく。
ただ、俺が何か言い出すのを待っていて。
それが、ざわつく気持ちをどこか落ち着かせる。




「しらないやつにねぇ、へらへらしてんじゃねぇよっていわれちゃったんだ」




多分、古株のジュニアの子。
なかなかデビュー出来なくて苛立ってたんだと思う。
笑ってたら睨まれて、言われた。




「おれだって、すきでわらってるばっかじゃないんだよぉ」




メンバーといると楽しいことばっかりだから笑うことは確かに多いけど。
疲れた時とか、辛い時とか、泣きたい時とか。
そういう時にも笑って笑って笑って。
だって、笑顔は俺のシンボルマークで。
イノッチイコール笑顔、みたいな図式まで出来上がっちゃってて。
言ってしまえばいっぱい笑ってるのが俺なんであって。
しょぼくれたり、落ちてたりしちゃダメなんだもん。




俺って、泣き上戸なのかなぁ。
じんわりと視界が滲んでいって、ぼたぼた熱いものが床に落ちてくのがわかる。
腕で拭っても止め処なくて。
拭くのがめんどくさくなって、そのまま泣いた。





そしたら。
坂本くんが近くに寄って来て。
ぶに、と。
俺の頬を指で抓んだ。





「いててて」
「馬鹿野郎。子供じゃねぇんだからそんな風に泣くなよ」
「いいんだもんっ!おれ、こどもでいいもんっ!」
「いていてっ」
ばしばしと坂本くんの胸元を叩くと、低く呻く。
手首をぎゅっと掴まれ、俺の攻撃は終わりを告げた。
「なにすんだよぉ〜」
「お前力強いから痛いんだよ」
あんなに小さかったのにな、と坂本くんは笑う。
付き合い長いもんだから、俺の小さかった頃を彼は知っている。
「さかもとくんがおれのことおいてったときだろ」
膨れてそう言い返すと、坂本くんは苦笑いをした。











彼は一度事務所を辞めている。
突然のことだった。
一緒に頑張っていた俺を、置いて。
今ではよく笑い話にしてるんだけど。
当時の俺は酷く落ち込んでいた記憶がある。
どうしても、坂本くんと一緒にデビューしたかったから。













「・・・悪かったよ」
いじけんなよという言葉とともにぽす、と頭に手が乗る。
あったけーなぁ。
ずーっと変わんない、大きな手。
「いいよべつに。もどってきたんだしさ」
すり、と甘えるように胸元に頭を擦り付けたら。
ぎゅうっと抱きしめられた。
「もがっ」
「・・・あんなに、小さかったのにな。今じゃ俺と同じ目線でモノ見てるんだから、不思議だよな」





確かに背は同じくらいに伸びた。
考え方だって、昔に比べたら大人になった。





でも。
この人には敵うわけないって思ってる自分がいる。
だって、でっかいんだ。
考えていることも、そっと自分を包んでくれる包容力も、なにもかもが。






「くそー・・・」
「なんだよ」
「あとじゅうねんしたら、なんとかながのくんぐらいのぽじしょんに・・・」
「何言ってんだお前」




お前がいなくなったらトニセンじゃなくなるだろ。





そう、聞こえた気がするんだけど。
そんで俺も何か言った気がするんだけど、記憶もなく。
俺の意識はそこでぷっつりと途切れていた。










































<S side>






「いーの?おれ、そのままでも」
ほぼ意識がないような虚ろな目で、俺にまるで子供が親に尋ねるかのように聞く井ノ原に。
当たり前だろ、と頷いてみせるとコテン、とヤツは俺の太ももに頭を預けた。
そのまま鼾をかき始める。
撃沈、井ノ原さん。





たまにコイツが考えていることがわからなくなる。
それは大人になってしまったから、というのも少なからずあるのかもしれない。
だって、井ノ原はずっとずっと子供の視点のままだから。





笑うのがつらいのなら笑うのをやめればいい、と思う。
楽しい時に笑って、辛い時には泣けばいい、と思う。
けど、テレビに出て自分の図が出来上がってくると、それが出来なくなるのもわかってる。
井ノ原の笑顔も、きっとそれで。
はたから見るとへらっへら笑ってるように見えるのかもしれない。
実際、へらへらもしてるんだけどコイツは。





真っ直ぐだからこそ、周りのことをしっかりと見つめて。
なんとかその笑顔で流そうとしている井ノ原の姿は、正直痛々しくて。
一昔前だと上着脱いでこのやろぉなんつって相手に掴みかかっていったもんだから。
アイツも大人になったなぁ、なんて長野と笑ってたりもした。





だけど、今日の言葉を聞いた瞬間。
井ノ原が大人になったわけじゃないのだと思い知らされた。





好きで笑ってんじゃない。
これが、井ノ原の本音。
酒の力は本当に、偉大だ。






「・・・・気づかなくてごめんな」






別にいいのに。
お前が突っ走ろうとしたら俺と長野が両側から止めてやる。
その準備はきっちり出来てるんだから。
たくさん相手を罵倒して、言いたいことたくさん言って。
横で俺はお前を宥めて。
長野は一緒に、いや、それ以上の毒舌で参戦して。
後々どうなろうと全然気にしない。
悪いのは相手。
年上だろうが年下だろうが悪いものは悪い。
そう、思ってんだよなお前は。
ホント子供みたいなヤツだけど。
俺も長野も、そんなお前が大好きなんだから。
たくさんたくさん、救われてんだから。







そろそろ重くなってきたから膝の上の井ノ原を揺らす。
「おーい、井ノ原。起きろ」
「うーん・・・」
しっかし開いてんだか閉じてんだかわっかんねーな、この目。
「風邪引くぞ。ってか俺んち泊まる気かよ」
「・・・とまるー」
「あーはいはい。じゃ、ベッド行け」
「いいよぉ・・・おれそふぁで」
一応申し訳ないっていう気持ちは持ってるらしい。
俺は一つため息をつくと、井ノ原をソファに戻し、酒を手に持った。






――――――――――――井ノ原はそのままでいいんだよ。







そんな気恥ずかしい台詞を、小さく口にして。
グラスの中身を口に含み、ヤツの子供みたいな寝顔を盗み見た。







END


2006.7.30