11月1日。
俺たちは念願のデビューを果たした。
・・・まぁ、本気で念願してたのは上の3人だけだったのかもしれない。
結構、崖っぷちに立たされてたもんだから。
1stシングルのPVを見れば、一目瞭然。
気合入りまくりで軽く空回っちゃっているくらい。
きっと。
一番嬉しかったのは坂本くんだと思う。
長野くんも俺もカミセンもすっごく嬉しかったけれど。
坂本くんの喜びと比べたら、負けてしまう気がする。
喜びなんて、他人と比べるもんじゃないと思うんだけど、この時は強くそう感じた。
一番年上で、背も高くて、歌もダンスも上手くて。
坂本くんがリーダーになるのはまるで必然のことのようだった。
リーダーになることが決まった時、彼は照れくさそうに笑ってた。
俺に出来るかなぁ、って長野くんと俺に首を傾げて。
長野くんと俺は大丈夫だよ、って彼の背中をばしばしと押して。
下の3人は緊張したようにその様子を見守っていたような覚えがある。
でも、俺は忘れてた。
すっごい大切なことを。
坂本くんは一人で全部を抱え込んでしまう人だってことを。
実際は末っ子で、頼りなくて。
そんでほんのちょっとだけ甘えたな人だってことを。
普段なら忘れないのに。
デビューできた嬉しさで、わけがわかんなくなってたからかもしれない。
俺がそのことに気がついた時。
坂本くんは色んなことを抱え込みすぎていてパンパンになっていた。
僕はここにいる
「坂本くん」
ソファに座っている坂本くんに声をかけ、ぱすぱすと肩を叩くと顔を上げた。
不機嫌そうに歪んだ表情。
眉間に皺。
アンタがそんな顔してるからカミセンが怖がって近寄ってこないんだよ。
言っちゃうのは簡単だった。
けど、今の彼にはその言葉は重過ぎること、わかってるから。
肩に手を当て、マッサージをしてみる。
「おー、こってますねぇお客さん」
実際、坂本くんの肩は年に似合わないほどこっていた。
ほら。
こうやっていつも肩に力入れてたのに。
何で気づかないかな、俺も。
「・・・井ノ原」
困ったような、ホッとしたような表情で俺を見上げる。
長野くんが来ても似たような顔になるんだ。
だけど、カミセンにはまだあんまり気を許せないようで。
特に剛とはバチバチと激しくぶつかり合っていた。
どっちの言い分も間違ってるとは言わないけど。
譲り合い精神っていうの?そういうのがちょっと欠けてるんだよね。
「ねぇねぇ坂本くん」
「んー?」
「今日、ヒマ?」
「・・・あー・・・今日は、ちょっと」
聞いてみると、疲れたようにそう返された。
「何あんの?」
「今年のライブ内容を詰めとかないと、と思ってさ」
そういうのも。
皆で考えたらいいのに。
全部、抱え込むんだから世話が焼ける。
皆でやろうぜ、って言ってもいいんだけど。
俺たち5人はどうもふざけちゃって、まるで相談にならない。
それを見て、坂本くんはまた一つ、抱えるものを増やすんだ。
・・・わかってるんだけど、やっちゃうんだよ。
あーもう。
うだうだやってる場合じゃない。
坂本くんが抱えてるものを吐き出せる場所にならなきゃ。
「今日、ヒマにしてくれよ」
「は?」
突然の俺のワガママに、坂本くんは目を丸くして振り返ってきた。
「ライブの話なんか明日だって出来るだろー」
「何言ってんだよお前は」
あっちいけ、とばかりに手で俺を追い払う仕草をして。
目線を手元の書類に落とす。
俺はソファに顎を乗せて、坂本くんの動作を見た。
疲れてるじゃん。
休みたいって、顔に書いてあんのに。
そんなに、このグループが大事?
自分を削って削って、辛いもの背負ってまで。
そんなに、メンバーが頼りないんだろうか。
よーし、こうなったら。
「いい焼酎貰ったんだけど、それでも来ない?」
「・・・・・・」
ぴくり、と。
坂本くんの肩が小さく跳ねる。
「ほら、この前坂本くんが飲みたいっつってたやつ。タイミングよく手に入っちゃってさー」
「・・・・・・」
耳、ダンボになってますよダーリー。
肩元なんかぷるぷる震えちゃって。
後一押し、だな。
「あー残念だなー来れないのか坂本くん」
「・・・・・・」
「来ないなら今日俺全部飲んじゃうけど?」
「・・・・・・・・・・く」
「はい?」
「・・・・っいくっつってんだよっ」
「いてっ」
べしっと書類で頭を叩かれて。
代わりに了承の返事をもらった。
ちぇ、素直じゃねぇの。
最初っから来るって言えば可愛いのに。
・・・・坂本くんに可愛さを求めるのもどうかと思うけど。
***************
「おじゃましまーす」
「いらっしゃーい!入って入ってv」
靴を脱ぐなり、俺は坂本くんの背中をぐいぐいと押して部屋へと促す。
押すなよーって笑いながら足を進める坂本くん。
まだちょっとぎこちない笑顔。
俺の前でもそんな顔、してたんだ。
「何か手伝うか?」
「いいよ。お客様ですから、イチオウ」
「一言余計だ」
一番いい場所に坂本くんを座らせて、俺は冷蔵庫へ。
「井ノ原ぁ」
急かすような声色。
子供かアンタは。
「わーかってますって。今持ってくよ」
でっかい一升瓶を小脇に抱えて。
グラスを2つ手に持って。
坂本くんのところに行くと、待ってましたとばかりに一升瓶をもぎ取られる。
「アンタねー」
「いいじゃん。ほれ、酌してやっから」
グラスよこせ、と言われて差し出す。
なみなみと注がれていく焼酎。
「あー・・・どもどもども」
いいところで声をかけて止めてもらう。
「じゃ、俺もお返しに酌してやるよ」
「いいって」
「遠慮すんなって☆ほらほら、グラス持って」
空いていた坂本くんの手に無理矢理グラスを持たせて。
一升瓶を力ずくで手に入れて。
同じようにグラスに焼酎を注ぐ。
いやーホントに酒好きだな。
目が違うもんな。
「お、おっとっと」
坂本くんの目に見入っていて、俺はやりすぎたらしい。
零れる寸前で、坂本くんがグラスに口をつける。
「・・・お前注ぎすぎ」
「ごめんごめん」
ぺしっと額に軽い平手を食らう。
ごめんなさいの意を篭めて坂本くんを見ると。
仕方ないなって感じに笑ってた。
その笑顔がさっきまでのぎこちなさを無くしていたから。
俺はすごく嬉しくなって、つられるようにして笑った。
「「やっと笑った」」
・・・・・・・・・・・・・・・え。
変なところで、声がハモった。
「は?何言ってんのアンタ」
「お前こそ・・・」
「気づいてなかったのかよ?」
「気づいてなかったのか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
かたん、と。
グラスを置いて正座する。
えーと。
「俺、笑ってなかった?」
とりあえず確認してみる。
そしたら、間髪入れずに頷かれた。
ま、マジかよ。
「笑ってることは笑ってんだけど、どっか違うっていうか」
見てて癒されないっていうか、と。
坂本くんは俺を見つつ唸りながらそう言った。
癒されないって。
俺の笑顔の基準はそこかよ。
「ちょっと、笑ってみ?」
「へ?なんでよ」
「いーから」
いいから笑え、って言われてもなー。
んーと。
こんな感じ?
「・・・・・・・たはっ☆」
「・・・癒されねぇ」
「別にアンタ癒すために笑ってねぇし」
「うっわ。その顔ぶっさいくだからやんなよー」
膨れていた頬の両端をむにっと抓まれて引っ張られる。
いだいだいだ。
「はにふんらよぉ〜」
「あっはっはっは。変な顔ー」
「アンタもう酔ってんのかよっ」
「酔ってねぇよー」
・・・・何やってんだ俺たち。
っていうか、俺。
坂本くんが肩の荷、降ろせるようにって仕組んだのに。
逆に俺がホッとしてるっていうか。
ああ、坂本くんってやっぱリーダーなんだなぁって。
思った矢先。
「・・・井ノ原ぁ」
グラスの中身をぐいっと飲み干した坂本くんが、俺を呼ぶ。
なによ、って返したら。
一呼吸置いて。
「リーダーお前やってくれないか?」
ふざけた言い方だったらよかった。
何言ってんのよって、返すことが出来るから。
でも。
今の坂本くんの口調はマジで。
目は俺を真剣に見てて。
抗議の意を含めた目で見返したら、それは自信なさ気に伏せちゃったけど。
「何で?」
「・・・わかってんだろ。俺にはリーダーっていう立場は重すぎんだよ」
嬉しかった。
グループが組めて。
それは本当に。
だけど、苦しかった。
このグループのために俺が出来ることをって。
考えれば考えるほど煮詰まって。
下の3人ともなかなか分かり合えないし。
岡田なんて10歳も年離れてて、何話せばいいのか。
リーダーじゃなかったら、こんな苦しみなくなるんじゃないかって。
最近はそればっかりで。
「井ノ原見てるとさ、メンバー全員と打ち解けてるし。リーダーって多分こういうヤツのこと言うんだよなぁ、って」
そう思ったんだと。
坂本くんは苦笑気味に言って、酒を注ぎ足した。
そこまで思いつめてるなんて思わなかった。
しかも俺を見て、そんなこと思ってたなんて。
俺は喉元まで出かけていた言葉を焼酎で流し込んだ。
怒鳴ってもよかった。
泣いてもよかったかもしれないけど。
坂本くんの顔見てたら、それはこの人にあげる言葉じゃないって。
そう、思ったから。
「・・・別に、代わってもいいよ」
「・・・・ん」
「だけど、坂本くんがそんな顔してるうちは嫌だね」
「・・・・どんな顔だよ」
「リーダーをちゃんとこなせなくて不甲斐無いって顔」
「・・・・・・」
代わって欲しいならもっと必死な顔、してると思うんだけど。
坂本くんはちょっと悲しそうで。
俺には本当に出来ないのか、ってまだ悩んでる。
「アンタがそういう顔してる時は、まだ足掻けんだよ」
足掻いて足掻いて。
足掻けなくなったらその時は。
俺が代わりになることになっても仕方ないけど。
それまでは。
「俺はここにいるからさ」
頼りないかもしんないけど、たまには頼ってよって。
言ったら坂本くんはわかったって頷いた。
だけど、俺は知ってる。
きっと坂本くんの悩みは近いうちに終わりを告げるだろうことを。
長野くんも、剛も健も。
マイペースな末っ子准ちゃんでさえも。
坂本くんのために何か出来ないかって、思い始めてるから。
どうしよう井ノ原くんって。
頼られちゃってるのは俺だけど。
それ以上に皆に想われてるのは坂本くん。
他人から想われてる人が、リーダー不適任だなんて思えない。
その事実に坂本くんがいつ気づくか。
「・・・・気づいたら絶対泣くな、坂本くん」
「な、何だよ急に」
「いやいや、こっちの話」
END
2006.11.9