君が居る世界に僕が居て。
僕が落ち込んでいる時には君が居て。
大したことない、ほんのちょっとの気遣いが胸に染みる。
それにいつも救われるんです。
・・・君は気づいてないかもしれないけど。
君は僕の、僕は君の
仕事帰り。
俺の家の前に座り込むでかいアイツを見つけて、呆けた。
松岡は俺の姿を見るなり、遅ぇぞ、と声を上げ。
ふるふると頭を振って身体についた水分を飛ばしている。
は。
「お前、傘は?」
「忘れた」
「ビショビショじゃねぇかよ」
「たまにはこういうのも良いもんだろ?」
そう言う松岡が何だか泣き出しそうに見えて、ドキッとした。
コイツの弱味なんて、そういえば暫く見ていないから。
そのままにしてると風邪引くからと、家に入るよう促せば。
邪魔するぜ、と遠慮のえの字も感じられない態度で、松岡はずかずかと足を進めた。
気にしぃなアイツが乱雑な態度を取る時は、決まって何かがあった時だ。
けれど、面倒くさい性格なもんだから、それを真っ直ぐ追求することを酷く嫌がる。
言いたい時は言うし、言いたくない時は言わない。
だから俺も、アイツが聞かれたくないのなら聞かない。
まぁとりあえず。
ヤカンで沸かしたお湯を使って、コーヒーを入れて出してやった。
ついでに浴室から持ってきたタオルを頭に投げつけて。
「イノーお前ホント容赦ねぇよなー」
「お前に容赦してよかった試しがねぇんだよ」
「まぁねー」
あんがと、と小さく言って、一口コーヒーをすする。
俺はアイツの向かいに座って、同じくコーヒーを口に運んだ。
外は、雨。
さっきよりは雨脚が鈍ってきたものの、降り続いているそれ。
傘忘れたって、近くのコンビニで買えるだろう。
なのに、それをしなかったのは何でだ?
「・・・・・・なぁ、イノ」
ぽつり、と。
呟くように松岡が俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「・・・ん、いや、いいや」
「そっか」
「おう」
一瞬言おうとしたんだろうか。
けれど、松岡はそれを話そうとはせず。
俺も、聞かずに話を打ち切った。
松岡はコーヒーをもう一口すすると、急に立ち上がって俺を見る。
二重がハッキリした、丸い目。
口は、アヒル。
「キッチン、貸してくれ」
「・・・は?」
「晩飯まだだろ?作る」
「・・・じゃあ、任せた」
「おう!」
いつもなら何が食べたい?だとか、お前より俺の方が上手いだとか余計なことばっかり言うのに。
アヒルは口数も少なくスタスタとキッチンに向かっていった。
冷蔵庫の中にはある程度食物が入っている。
アイツなら勝手に使って、勝手に献立を立てるだろう。
手持ち無沙汰になった俺は、テレビをつけ、手近にあった雑誌に目を落とした。
音量は少し大きめ。
こうすりゃ、雨の音は聞こえないだろう。
キッチンからはいつの間にかアイツの下手くそな鼻歌が聞こえてきた。
目をやれば、楽しそうな背中が忙しなく動き回っていて。
相変わらず好きだなぁ料理、なんて思いながら、俺は目を閉じた。
「・・・い、おーい、イノー」
松岡の馬鹿でかい声と、ぺちぺち頬を叩く衝撃で俺は目を覚ました。
時計を見れば、どうやら俺は30分ほど寝ていたらしい。
目を擦りながらテーブルを見ると、既に出来上がった夕食が所狭しと並んでいて。
パッと、目が覚めた。
「おぉ、すげぇなー」
「だろだろ?俺にかかればこんなもんあっちゅー間よ!」
「いただきまーす」
ヤツの言葉を半分しかとして席につきそう言えば。
松岡も俺の向かいに座って同じ言葉を言い、箸を手に取った。
一汁三菜の和食。
ご飯に舞茸の味噌汁。
酢豚とほうれん草のツナマヨ和え。
自分では細かく作らないから、久しぶりに食べた気がする。
酢豚を口に運んで、ご飯を一口。
これだけで幸せになるから、俺って安い人間だよな、と思う。
けど、美味いもんは美味い。
「うっめぇ〜!」
「んはは、そりゃよかった」
楽しそうに笑う松岡は、家の前に居た時とはまるで違って。
多分、一人で吹っ切れたんだろうな。
きっと、料理してる時辺りにでも。
何があったかは最後まで分からないままだったけど。
松岡が話さない程度の話だから、大したことも無いんだろう。
男二人差し向かいで飯食ってるのもどうかと思うけど。
親友の元気が元に戻ったから、よしとしよう。
「・・・サンキュ、イノ」
そんでもって。
小さく聞こえた松岡の声は、聞かなかったことにしてやろう。
「何か言ったか?」
「・・・何でもねぇよ」
耳まで真っ赤にしてご飯をかきこむアイツを見て。
それだけで俺は、何故だかとっても嬉しくなってしまうのだから。
END
雪光さまのキリバンリクエストからの副産物。
私はどうも東京ならマボやん、ぶいしくすならイノさんを混ぜたがる性質のようです(笑)
これマボやんの一人称でやればよかったかな、なんて思いつつ。
こっちの親友は、どっちも気ぃ使いなので。
胸のうちではこっそり心配しつつも、それを表に出さないような印象があります。
ベイベと光ちゃんは天然なので、存在自体が救い。
悪友コンビは言い出すことなく自分で解決してしまいながらも、その横には必ず相手の気遣いがある。
・・・そんな感じでしょうかね。
2007.10.1