ザ・ツンデレっ漢



どたどたと足音を立てて、でかい風呂敷を抱えた長身の男が病院に入ってくる。
風貌からしてまさに土木工事中のお兄ちゃんという感じだ。
一つちょっと変わっているのは薄い紫のサングラスを常に身に着けているところで。
彼はそれを外して胸ポケットに差し込むと、受付にこんちわ!と掠れた高めの声で軽快に挨拶をした。
受付に座っていた筋肉隆々の男が、彼を見るや否やくるんと回れ右をしてにやにやしながら口の横に手を添えて一言。
「シゲー変な子が来たよー」
「変な子とはなによ兄ぃ変な子とは!失礼しちゃうぜ全く。俺はなぁ仕事の合間に放っておいたら飢え死にしちゃいそうなお宅に仕方なく弁当作ってあげてんのよ?!っていうか長瀬お前勝手に風呂敷開けるんじゃねぇ!」
ぎゃんぎゃんと捲し立てながらも、後ろからのそっと現れ勝手に風呂敷を開けようとしていた長身の男のおでこに突っ込みを入れるのを忘れない。
いつ見ても器用なやつだな、と山口は一人ごちた。
「わーマボ飯今日も超美味そうっすねぇー!」
「当ったり前!誰が作ったと思ってんの?俺よ俺!失敗なんてするわけないでしょ??」
早口で捲し立てる男、松岡は自信満々にそう言ってにぃっと悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。
そして、長瀬の手にあった弁当箱をバシッと奪い取る。
「何すんすかマボー!」
「お前は食うからこっちの二段重ね肉重視弁当!兄ぃはチャーハンとギョウザの黄金コンビ弁当ね!そんでコレがあの人の栄養バランス重視弁当!っていうかあの人どうしてんの?診察で忙しかったりする??」
スラスラと弁当の中身の説明をしながらそれぞれに手渡し、松岡はキョロキョロと院内を見渡して首を傾げた。
「かもなぁ」
「そーっかぁ・・・」
山口の返答に残念そうにこぼす松岡を見て、早速弁当を広げていた長瀬は箸を持っていた手で彼の背中をばしばしと叩く。
「落ち込まないでくださいよマボ。昨日だって会ったじゃないですかー」
「お、おおお、落ち込んでなんかねぇよ!俺ぐらいになると一日くらい会えなくたってどーってことないし忙しいんなら仕方ないし!うん!」
「声元気ねぇぞ松岡」
「元気元気!超元気よ俺はいつでも!!」
ドンと胸元を叩いてケラケラ笑ってみるも、松岡の顔にはでかでかと残念という二文字が輝いて見えて、山口と長瀬は顔を見合わせて堪えきれずにブハッと吹き出した。
「何よ何よ何なのよ二人ともー!」
憮然としてきゅうっと口元をアヒルみたいに尖らせ拗ねて見せる松岡に、二人は更に笑い声を大きくした。



「何やら楽しそうやなぁ3人とも」



背後から聞こえてきたのんびりとした優しい声色の関西弁に、バッと松岡は反応して振り向く。
にこにこと笑顔を浮かべて立っている白衣の医者はんーと伸びをしながら、これまたのんびりと3人に近づいて長瀬の横に腰を下ろした。
「もうお昼の時間かいな?」
「相変わらずアンタはボケてんのね。俺が来るのはいっつも仕事の休み時間だって言ってるでしょ?だから今はお昼なの!わかった?」
「そないなこと言わんでも時計があるがなー」
「時計見るより俺が来たことで昼飯!って分かった方が早いっしょ!はいっこれアンタの弁当!あ言っとくけど今日も全部残り物だから兄ぃも長瀬もってお前ははなっから気にしてないと思うから除外するけど何にも気使わなくていいからね!」
ぱかりと城島がふたを開けると、中には彩りよいおかずが所狭しと詰め込まれている。
丁寧に作られたおかずのどこをどう見れば残り物なのか、しかもそれぞれの好みに合わせて作られているのに残り物のわけなんてないのに、と城島は思うが、そう言ったら松岡が真っ赤になりながら慌てて弁解を始めることも知っていたので、とりあえずありがとなぁと言ってにっこり笑って見せてから弁当を食べ始めた。
そんな彼を横から見つめながらこれはビタミンたっぷりだの野菜ちゃんと摂ってないだろうからたくさん入れといたのよだの口煩く楽しげに説明する松岡とほうかほうか、といちいち頷いてみせる城島。
それを見ながら長瀬と山口はもう一度顔を見合わせて小さく笑ったのだった。



「あ、ねぇねぇ茂くん」
「なんや?」
「この前相談したアイツの話、覚えてる?」
勝手知ったるとばかりに病院内のキッチンに入り込み、3人のお茶を用意して戻ってきた松岡はそう言いながら城島にお茶を手渡し。
それをずずずーっと啜りながら彼の言う『アイツの話』を思い出してみる。
「あぁ、松岡の友達の井ノ原くんの話か」
「そう!そいつさぁもう最近やさぐれちゃっていじけちゃってダメダメなのよ。茂くんお医者さんでしょ?見てやってくんない?」
頼む!と両手を合わせて頭を下げる松岡を見下ろし、城島はもぐもぐと口を動かしながらうーん、と難しそうな顔をして唸った。
「僕はカウンセラーちゃうからなぁ・・・」
「あ、そか。茂くん内科の先生だもんね。でもそこんとこどうにかならないの?同じ医者でしょ?カウンセラーも兼用して出来ちゃったりとかしないの??」
医者について知識あんまないからわかんないけど、と松岡が言った言葉に城島は苦笑いした。
「・・・一度、失敗してんねん僕」
ため息混じりに言うと、松岡は聞いてはいけないことだったのかもしれないと顔を強張らせた。
その様子を見て城島はにぃっと普段の笑顔に戻す。
「僕は見れへんけど知ってるカウンセラー紹介したるから、ちょっと待っときぃ」
そう言って弁当を置くと、少し急ぎ足で病室に戻っていった。



彼の後姿を見ながらしょぼんと項垂れる松岡。
「・・・聞いちゃいけないこと言ったかな、俺」
「そんなことないっすよ!ほら、元気出してマボ!」
バシバシと背中を叩く長瀬に痛ぇんだよ、と返すも目はとうに見えなくなった城島を追っている。
「話せるくらいになったってことはある程度本人も整理がついてんだろ。気にすんな松岡」
「兄ぃ・・・」
でもさ、と小さく呟くアヒル口の松岡の頭を山口は軽く叩いて笑って見せた。
この男、言うことは突っぱねた感があるが実際は意外に気ぃ使いな甘えたがりの所謂ツンデレだということを周囲は理解済みである。



「松岡ぁ」
彼なりの駆け足で戻ってきた城島はすっと白い紙を松岡に手渡した。
受け取るとサッと目を通し。
「推薦状・・・?」
「ぉん。これがあればすぐに診てもらえるはずや。腕がいいから予約がなかなか取れないらしいんよ」
僕と長野は友達やから優遇してもらえるでと自信満々に言う城島に松岡は俯いて小さく口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・がと」
「ん?何??」
「・・・・・・・・・・・・・っっっありがとーつってんだよちゃんと聞き取れこの年寄りがーーー!!」
照れ屋なりに頑張って言ったお礼の言葉を聞き取ってもらえず、二度目を言うのに酷く照れてしまった松岡はズビシと城島の額にツッコミを決めてしまい、俺もう帰るから空いた弁当箱は玄関にでも置いといてくれれば仕事帰りにでも取りにくるからと、大事なことだけを言い捨てて走るようにして病院を出て行った。



「んもーなんやねんあの子はホントにもぉ・・・」
来るのも帰るのも大騒ぎや、と城島はおでこを押さえながら苦笑して小さくなった彼の背中を見送る。
それを見て山口と長瀬は哀れみのため息をついた。
「シゲって大概鈍いのな」
「マボの気持ち察してあげてくださいよー!」
「え?なんのことや??」
可哀相な松岡のフォローをしようにも本人がこの様子なのだからどうしようもない。
山口と長瀬は二人同時に松岡の不憫さと城島のあまりの鈍さに再び深いため息をついたのだった。



その後、謝ることを忘れたことに気づいた松岡が病院の前をどうしようか2時間ほどウロウロした挙句鉢合わせした長瀬に伝言を伝えて耳を真っ赤に染めながら大急ぎで帰っていったのはまた別の話。


>存在価値理論の伏線。長野くんの病院を紹介したのは茂くん経由という話。タイトルがおかしいのはきにしないでください(笑)