凧上げ 「まーくんまーくん!凧上げやろーう!」 親戚の叔父さんから貰った凧を嬉しそうに抱えて快彦がはしゃぐ。 外は晴天、風もある。 どこに行く予定もなく暇な俺は二つ返事で頷いた。 博は友達と遅い初詣に出かけたからいない。 快彦を独り占め出来ることにウキウキしながら、二人で外に出る。 近くの公園にたどり着き、早速凧上げを始めた。 快彦の凧を持って走り手を離すと、ふわりと風に乗って凧が上がる。 叔父さんにコツを教えてもらった甲斐あって、一発成功。 「うわーーー!凄い凄い!」 俺のが一番高く上がってる、とにこにこな快彦の横でそれを見守っていた、その時。 あ、と言う声に反応して見上げれば、柄の同じ凧が快彦の上げている凧にぶつかってきた。 悪戯かと身構えるも、相手がまだ小さい5歳くらいの男の子だったもんだから止まる。 ぶつかってきた凧はくるくると激しく回転しながら地面に落ちた。 快彦の凧も一緒に落ちてきたけれど、損傷もなく無事だったことに胸を撫で下ろす。 「おれのたこがーーーー!!」 駆け寄ってきた男の子は自分の無残な凧を見るなりわんわん泣き出した。 見た感じ、もう飛べなさそうな状態。 仕方ないけど、可哀想だな。 慰めるため抱き上げて背中をポンポンと叩いてやる。 「ごめんなーウチの凧と当たっちゃったんだな」 「うええぇーーーん!!」 俺の胸元で余りにも泣き続けるもんだから困ってしまった。 そうしたら。 快彦が凧を持って走ってきて。 「お兄ちゃんの、やるよ!」 と言って、その凧をばっと差し出してきた。 確かに7歳の快彦に比べたら年下だろうけど、それにしても妙に大人びた発言に思わず呆ける。 キョトンとそれを見る男の子を下に降ろしてやると。 涙を袖で拭いた後、てこてこと快彦に近づいて凧を受け取った。 「いいの?」 「いいよ!その代わり、もう泣くなよな!」 「・・・・・・うんっ!」 男の子は力強く頷くと、凧を持って走っていく。 ふわりと浮いた凧で再び楽しそうに遊びだす少年。 その背中を見ながらふと快彦が小さくふるふる震えているのに気づき、俺はぱすっと快彦の頭に手を置いた。 「快彦」 「な、なーに?」 笑いながら見上げてくるも、声は涙で揺れている。 そんな弟ににっと笑って見せた。 「偉かったな、お前」 言った瞬間瞳に涙を止めて抱きついてきたから、ぎゅうっと抱きしめる。 凧上げ、楽しみにしてたのお前だもんな。 じわりと服に染みてきた熱いものを受け止めながら、俺は快彦を慰めるように背中を撫でた。 公園にいる意味を失った俺たちはやることもないから帰ることにした。 甘えているのか、快彦は俺にしがみ付いたままだ。 すっごい可愛いからいいんだけど、ね。 胸元でしきりにぐずぐず言っていたのだけど、不意にぽつり、と言葉を漏らした。 「あのね、」 「ん?」 「お母さんお腹おっきいでしょ?」 「うん?」 唐突に始まった話についていけず、疑問めいた返事をする。 「あの中にはね、俺の弟がいるんだって」 「そうだな」 「だから、俺お兄ちゃんになるから、あげたの」 「・・・・・・あぁ」 途切れ途切れだったけれど、快彦の言いたいことはちゃんと伝わってきた。 ウチの母親のお腹には赤ちゃんがいる。 しかも、もしかしたら双子かもしれないらしい。 一気に家族が増えるな、と父さんが笑ってた。 そういや俺も、快彦が来た時お兄ちゃんになろうと頑張っていた記憶がある。 博が生まれた時はまだ小さかったからよくわかんなかったけど。 快彦が来た時はもう10歳だったから、覚えてる。 甘えるのも、なにかするのも全部。 寂しかったけれど、それで弟が笑ってくれた時に幸せを感じたりして。 これが兄貴なのかなって、なんとなく思った。 「・・・・・まーくん」 「ん?」 「俺ね、まーくんみたいになるんだ」 おっきくて、優しくて、格好いいお兄ちゃんになるんだ。 えへへ、と照れたように笑われて、俺は真っ赤になる。 兄貴として見本になるような人間だとは思っていなかったけれど。 快彦がそう思ってくれると言った事実は、とってもとっても嬉しかったから。 「まーくんは俺のリソウなの」 「わかんねぇのに難しい言葉使うんじゃねぇよ」 「わかってるもん!ひっくんが教えてくれたんだよ!まーくんみたいになりたいって思うことはリソウだってことなんだって!」 「・・・・・・あいつ、また余計なことを」 ため息をつくと、あははと快彦が笑う。 やっと笑った。 「理想かー」 「リソウかー」 「・・・真似すんなよっ!」 「マネすんなよっ!・・・・似てる?」 「お前なぁ、理想と物真似はまた違うんだぞー?!」 「そうなのー?」 「そうなの!」 「そっかー!!」 「・・・元気だなお前。歩けるなら降りろよ、意外と重いんだから」 「ヤダー」 「何でだよっ」 「今のうちにいっぱい甘えとくんだもん」 ぎゅむっと抱きついてきて笑う弟。 お兄ちゃんになっちゃったら甘えてくれないのか、と軽くショックを受けながらも。 同時に快彦の成長を目の当たりにして、嬉しくなった。 >8日のイノなきを見てあまりにも可愛くて思いついたSS。家族もの設定で双子ちゃんが生まれる前。 |