傍に行けたらいい 泣き叫びながら許しを請う男をじっと見ていた。 さっきまで俺に向かってきた人と同一人物とは思えない。 無表情ですぅっと右手を挙げ、引き金を引く。 ガウン、と鈍い金属音がして同時に衝撃。 男の体のすぐ近くに穴が開いて、白い煙が追うように立った。 「たっ、助けてくれ・・・!」 「・・・それはお願い?それとも命令?」 「お、お願いし・・・ます・・っ!」 そんなにしてまで生きてどうするの。 醜態曝して逃げ帰ってきたアンタを受け入れてくれる人でもいるの? 現実はそうそう甘くないよ。 さっさと死んじゃった方がいいんじゃない? 小首を傾げてそう問えば、ブンブンと首を横に振る。 強情、だなぁ。 「お願いはねぇ、聞きたくないんだ」 くるりん、と銃を指で回しながら説明してあげた。 一度聞いた時返り討ちにされちゃったの、俺。 危ねぇだろ気ぃ抜くな、ってあの人が俺にインプットした。 『お願いは聞くな』って。 「じゃ、じゃあ命令だ!お前アンドロイドだろ?!人間の命令は絶対だって基礎知識で、」 メイレイ。 その言葉にぴくりと体が反応する。 基礎知識、ね。 確かにそんなものがあった時もあった。 「命令はねぇ」 再び右腕を挙げ、照準を定める。 「命令は、もっと聞きたくない」 『快彦!逃げろ!!』 『でも、坂本くんの足がまだ・・・!』 『これは命令だ!俺の言うことが聞けないのなら今ここでお前を解雇するぞ!』 『・・・・・・!』 俺、アンドロイドだから死なないのに。 あの人は最後まで俺を「人」として見てくれてたから。 命令は、聞く。 でもあの人の命令しか聞かない。 それは一番最初に、坂本くんが俺を拾ってくれた時にインプットした決意。 見知らぬ人に、ましてや坂本くんを殺した組織の人に命令される覚えはさらさらない。 どこか近くで銃の鳴る音がして。 俺の目の前の男がこと切れるのと、俺が足を崩すのはほぼ同時だった。 どうやら銃を隠し持っていたらしい。 最後まで姑息なヤツだ。 ガシャ、と音を立てて地面に頬を強打する。 人間は勝手だ。 どこまでもアンドロイドを人間に近づけようとして。 人間扱いしてはくれないのに、人間にしようとしたんだ。 死なないのに、痛い。 大事なところは肝心な時に痛まないのに。 身体だけが、悲鳴を上げる。 涙を流すことと胸を痛めることは、これからのアンドロイド開発の課題だった。 だから俺は、坂本くんのために泣くことも、胸を痛めることも出来なかった。 「・・・さかも、とく・・・ん」 その代わり、出来ることを探した。 俺が出来ること。 坂本くんの敵をとること。 それしか思いつかなかったけど、やろうと思った。 もうこれで、終わりだ。 「・・・・さみ・・しぃ、よぉ」 置いていかれた。 命令とはいえ、聞きたくはなかった。 今の俺を見たら坂本くんは何て言うだろうか。 ボロボロで立てないし使えないから破棄するんだろうか。 ザァ、と目の前の風景に砂嵐が混じる。 どうやら俺の核部分のチップまでやられてしまったようだ。 アンドロイドは死なない。 データが消えて動かなくなるだけだ。 俺というデータは、消えたらどこにいくんだろう。 ・・・坂本くんの傍に、行けたらいいな。 人間が死ぬ時のように目を閉じれば。 懐かしい声が聞こえた気がしたんだけど。 耳に響くノイズがそれを邪魔して、判断は出来なかった。 >アンドロイドネタ。一回書いてみたかったので拍手で。 |