それは偶然という名のハッピーデイ(Side I)



真っ青な空。
浮かぶ雲を突っ切るようにして俺と松岡の戦闘機は真っ直ぐ飛んでいた。
標的はあの馬鹿でかい戦艦唯一つ。
それにぶつかることだけを考えて、ただただ真っ直ぐに。
横目でちらりと松岡を確認すればタイミングよく目が合って、ニヤリと笑われた。
何するにも無駄に格好いいんだよ、畜生め。


『井ノ原ぁ!』
無線からアイツの声がする。
「なんだ松岡ぁ!今更怖くなったか?!」
『人が聞こうと思ってたことを先に言うな馬鹿野郎!』
「俺はもう突っ込むことしか考えてねぇよ!」
『同感だ!死ぬ間際までお前と同じこと考えてる俺が小寒いぜ!』
「あーホントだ寒気がするお前のせいだどうしてくれる松岡!!」
『とりあえず小言と文句はあの世に行ってからにしようや悪友!標的が近い!あと・・・・・・300メートル!』
「それもそうだな死ぬ気になりゃあ人間なんでも出来るってとこを見せてやるか!あと200メートル!」



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・井ノ原』



あと50メートル地点で。
不意に、松岡の口調が真面目なものになる。



「なんだよ」
『俺・・・・・・・・・・・お前に会えてよかった』



噛み締めるような松岡の言葉に。
俺もそうだ、と返す前に物凄い衝撃と身体中にくる猛烈な痛みを受け。



意識が、飛んだ。









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目を開ける。
見えたのは白い天井と。
嫌って程漂っている薬の匂い。
均一なペースで刻まれる電子音と、隣に包帯ぐるぐる巻き状態で目を閉じた悪友。
「まつ・・・・・・・・・っうっ・・・!!」
慌てて起き上がろうとしてかなりの激痛に苛まれ、呻きながらベッドに沈み込んだところでやっと自分の状態を認知する。
俺も隣の松岡とそう変わらぬ風体であるということに。


「井ノ原」


聞こえてきた声。
カツカツと足音を立てて近寄ってきたこの人は、俺の上司の坂本くんで。
一瞬、ほんの一瞬だけ困ったようなホッとしたような表情を浮かべたかと思ったら突然、頬に鈍い衝撃が走る。
バシ、と音を聞いてああ殴られたんだとどこか他人事のようにそう感じた。
一度だけでなく、何度も何度も。
あれ俺って怪我人じゃなかったっけちょっと坂本くん容赦してよと心の中で助けを求めるも口は思ったように動かず。
ただされるがままに俺は坂本くんに殴られていた。
でもきっと、喋れても殴られるがままなんだろうと思う。


だって。


「馬鹿野郎!お前はどうしていつも禁忌を犯すんだ!勝手に伝令読んで勝手に解釈して勝手に暴走しやがって!!もう少し救助が遅れていたらお前も松岡も今頃・・・・・・・・っ今頃確実に死んでんだぞ!!」


殴られながらもかけられた言葉は、乱暴だったけど酷く優しいものだったから。






散々拳付きのお小言を言われ。
それは仲裁に入ってくれた長野くんが来るまで続いて。
宥められて何とか落ち着いた坂本くんは、椅子に腰掛けながら今の状況を詳しく説明してくれた。
結論から言うと、俺たち二人は艦体をぶち抜いて爆破。
一緒に艦体も大破し、連鎖反応のように次々とそれは崩壊を続け、一日たっぷりかけて消滅したらしい。
俺たちが突っ込んだ場所もよかったらしく、燃料タンクが上手い具合に爆破して爆破が起こらなかった場所も燃料切れで残りの部分は勝手に墜落していったようだったと坂本くんは言った。
この身体中に巻かれた包帯は爆破に巻き込まれた際の火傷が大半らしい。


あ、でも。


「・・・なん・・で、気づ、いた・・・の・・・?」
気づかないようにしたのに、と言えば、ふぅとため息をつき、俺を見た。
「お前らぶつかる直前に無線使って交信してたろ。それを剛が上手い具合に拾って俺に知らせてくれたんだよ」







『坂本くん!井ノ原くんが、井ノ原くんが!!』
『どうした、剛』
『途切れ途切れしか聞こえなかったんだけど・・・突っ込む、って叫んでて、』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・どこだそれ』
『艦体がある方・・・・って坂本くん!!どこ行くんだよ?!!』
『あの馬鹿・・・何考えてんだこんな時に!!!』







「・・・・・・・・・・ってな感じで坂本くんが飛び出していって、落ちてきた井ノ原と松岡を神業的な操縦技術で無事救出したってわけ」
「・・・・・・・へぇ・・・・・」
「薄いリアクションありがとう井ノ原もう一発食らわせていいか?」
「怪我人だから止めなさいね、坂本くん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちっ」
坂本くんは舌打ちしてガタリ、と音を立てて椅子から立ち上がる。
どこ行くんだろう、と見上げれば。
「・・・・・・・・・・・これから上層部に喧嘩売ってくる」
にぃっと笑いながら、そう言った。
上層部との喧嘩=ほぼ首確実のルートを想像した俺は彼の服を掴もうと手を伸ばしたけれど、痛みが勝って触れた服の端はするりと手から抜け落ちる。
「アンタらは一体部下をなんだと思って扱ってんのかって追求に行こうと思ってね」
俺の頭を撫でながらにっこりと微笑む長野くん。
「・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」
「可愛い部下の命が危険に曝されて黙ってられっかつーの」
「多分首になって帰ってくると思うけど心配しないで。殺されそうになったら真っ先に逃げてくるから」
「え、殺される可能性あんのかよ」
長野くんの言葉を聞いた途端、へっぴり腰になる坂本くん。
「上層部への申し出はそれくらいの覚悟がないとね。ま、坂本くんがいればそんな心配ないだろうけど」
「買いかぶるなよ長野」
「それはお互い様でしょ?」
「・・・それもそうだ」
楽しそうに会話を交わしながら病室を出て行く二人を、俺は呆然として見送った。




壊滅した上層部のニュースが俺の耳に入り清々しい顔の二人がさぁ逃げるぞ井ノ原と手を差し伸べてくるのはそれから2時間後。
それまで眠っていた俺はビックリしたまま二人に担がれて逃げることになる。
最後に目をやった時に、悪友はいなかった。
きっと向こうの部隊のメンバーが迎えに来て。
俺と同じようにどこかに逃げ延びて上手くやっていくんだろう。


なんて素敵なハッピーデイ。
もう姿のない悪友へ。
生きててよかったなぁ、俺たち。
とりあえず、次会った時はあの時言えなかった返事の続きを嫌というほど耳元で囁いてやろうと心に決めながら、俺は坂本くんの背中で目を閉じた。


>マボイノお題『知ってる』の続編、イノバージョンでした。