新人サンタの初仕事



しゃらん、と鈴の音が鳴る。
街はもう既にクリスマスを迎える準備を始めていた。
日本は無宗教のくせにクリスマスだのハロウィンだのバレンタインだのとにかくお祭り事が大好きで何かにつけて騒ぎたがる国だ。
その、幸せボケな国の担当になっちゃった俺、井ノ原快彦。
何を隠そう(というかここで言っちゃってる辺りもはや隠してない)俺は幸せを運ぶサンタクロースなのだった。
サンタの家に生まれたわけではない俺は無理矢理サンタのいるところに押しかけていって弟子にしてくれ!と散々喚いた挙句なんとか仕事を貰えて今に至る。
ちなみに今日が俺のサンタ人生初仕事。
皆に夢と希望と幸せを配るため、張り切っちゃってます。
って言っても本当にプレゼントを配るのはクリスマスイブなんだけどね。


大きな袋(本番用に必要なプレゼントを何個か持ってきて詰めてある)に真っ赤な服。
これに白い髭があれば完璧なんだけど、付け髭は勘弁してくれと上の人に言われてしまったので渋々諦めた。
トナカイが一生懸命進めてくれているソリの上に立ち、街を見下ろす。
サンタを信じてる家にしかサンタは来ない。
この言葉に嘘偽りはない。
サンタがソリの上から街を見下ろすと、純粋な気持ちでサンタを待っている人がいるところがキラリ、と光るのだ。
そこに印をつけてクリスマスイブにくるくると家々を回るのがサンタの役目だったりする。



しかし。



「どういうことだよこれわー!」
ソリの上で俺は大絶叫した。
だって、だって街はあんなに明るく光ってるのに。
俺が求めてる希望の光はぜんっぜんキラリともチラリともしないんだから。
新人サンタでも簡単な仕事だと言ってたのは強ち嘘じゃなかったのね。
がっくりと項垂れたその時。


ぽろ


「あああっ!!!!」
袋から零れたプレゼントが下に向かって落ちていった。
慌てて手を伸ばすも空を切る。
あれがないと本番困るじゃん!!
俺はプレゼントを追いかけるようにソリから飛び降りた。





どんどん落ちていくプレゼント。
も、もうちょいで追いつく・・・・・・って、あー!!!



「いってぇ!」
こつん、と音を立てて。
俺の落としたプレゼントは黒いコートを纏った人間の頭上に降り立った。
そして俺もその人の上にそのまま落ちる。
「ぐぅえっ」
「あーあー・・・ご、ごめんなさーい・・・」
謝ったのにギロリ、と睨まれた。
うわ怖い顔。
まだ十代半ばって感じなのに、怖い。
「なんだお前俺に何か恨みでもあんのかプレゼントだけならいざ知らずサンタコスして頭上から飛び掛ってくんじゃねぇよ!!」
「サンタコスじゃないもん!サンタだもん!!」
「嘘だ!!お前みたいな細目なサンタがどこにいる?!俺の知ってるサンタは白髭ででっぷりしたおじいちゃんだぞ?!」


あーやっぱり白髭いるんだったんじゃん。
ってかこういう人ばっかりだからぜんっぜん光らないんだこの国。


「今の時代は変わったんだよ!じじいばっかじゃやってけねぇから俺みたいな若者も雇ったりしてんだよ!」
「なっ・・・子どもの夢を返せコラー!」
「何言っちゃってんのアンタ大人でしょ・・・・」
言いかけてはた、と留まる。
怖い顔のお兄ちゃんの後ろに、小さい頭が3つ見えたから。
「・・・その子たちは?」
「あー・・・俺の家族」
よく見れば目をまん丸にして俺を見ている。
多分、3歳くらいだろうか。
三人ともそれぞれが整った顔立ちをしていて、可愛い。
「おにーちゃんだれー?」
「俺?俺はサンタだよ!!」
「うっそ!ほんもの?!ほんもの?!」
わーと楽しそうに三人が近づいてきて俺をぺたぺた触りだした。
おい、俺は珍獣じゃねぇぞ。可愛いから許しちゃうけど。


「あのなぁ」
黒髪の一番目が丸い男の子が声をかけてくる。
「うん?」
「いまからながのくんちにてがみだしにいくとちゅうやってん」
「手紙??」
「ぉん。さんたさんにだすためのてがみ」


おにいちゃんさんたさんやったらわたしとくわ。
そう言って、俺に手紙を差し出した。


「おい准一、そいつは・・・」
「あ、じゅんずるいぞ!おれのももってってさんたさん!」
「おれのもおれのもー!」


怖いお兄ちゃんの言う事も耳に入れず、三人共が俺に手紙を差し出してきた。
そして三人とも胸がキラキラ輝いてる。
サンタを信じている証にやっとお目にかかれて、俺は一人涙ぐむ。
「よーし預かった!ちゃんと届けるから待っててねー!」
どんと胸元を叩きわしわしと三人の頭を撫でれば、にぃーっと笑顔を見せてくれた。
ああもう可愛い可愛い。


しゃんしゃんしゃん


あ、トナカイがやっと来たみたいだ。
心配して降りてくるのはいいけどちょっと遅くて見放されたのかと思っちゃった。
小さな三人は口を大きく開けてトナカイを嬉しそうに見上げ。
怖いお兄ちゃんは嘘だろ、と呟きながらもちょっと嬉しそうな顔で俺を見た。
「だーからホンモノだっつってんでしょ。24日、確かに承りました」
ソリに飛び乗って礼儀正しくそう言い、手綱を持って前に進める。
下の方からばいばーいって声がするから見下ろしてばいばーいと手を振って返したら。
サンタを信じている証が4つ見えて。
あれ、あのお兄ちゃん顔に似合わず意外にピュアだったのね。
ぶはっと吹き出しつつも三人の手紙を見て微笑む。


『ものがきれないっていってたのでまーくんにほうちょうかってあげてください』
『まーくんにぷらもでるあげてください』
『まーくんとずっといっしょにいられますように』


まーくん、ってあのお兄ちゃんかな。
自分たちの欲しいもの書かないでお兄ちゃんのこと心配してるなんて、出来た子どもたち。
大丈夫、サンタは何でも出来るから。
君たちの欲しい物だって、さっきもう見えたから。


「最高のクリスマスになるように、一肌脱ぎますか!」


井ノ原快彦30歳。
今日も幸せを運びます。












その後、ながのおれサンタみた!と必死に言いすがる坂本くんが長野くんに笑顔で毒を吐かれるのはまた別の話。



>15日のイノなきの締めが余りにも好きだったので小ネタ。