駆けつけた時には既に遅く。 倒れた身体は血まみれでボロボロになっていた。 死体の山の中で涙を流しながら横たわる彼に、一縷の希望を。 どうか、どうか。 悲しい記憶だけを抱えて、死なないで。 君のために出来ること 駆け寄って体の破損状況を見る。 ざっと見ただけでも症状は酷く、修復は不可能だ。 だけどあの人は言った。 快彦を死なせないでくれ、と。 プライドの塊だった彼が動かない両足を引きずってまで、俺のところにやってきて。 俺に、全てを託した。 「・・・・・・いのっち」 名前を呼ぶ。 アンドロイドとしては珍しく、苗字と名前を貰った子。 決して整ってるとは言い難いけれど、人懐っこく癒される顔。 人間関係が苦手なまーくんらしいなぁと思った。 いのっちの存在は、傷ついた誰もを笑顔に変えるから。 ピ、と首の後ろにあるスイッチを押せば。 中から小さなチップが出てくる。 大切な部分に傷がついていて、慌ててデータ保存をしてから中身を開いた。 勝手に中身を見ることは本当はよくないことなんだけど。 アンドロイドの人権っていうものもあるし。 だけど、俺ならいいやろ? 一応勝手に覗いてごめんな、と謝りを入れて。 中のデータはほぼ消去されていた。 特に坂本くんの記憶は、残っているものは皆無と言っていいくらいに。 残っていたのはたくさんの憎悪の言葉と。 目の前のものを全て破壊しようという使命。 その中にただひとつだけ。 切実な思いが、ただひとつだけ。 『さかもとくんに、あいたい』 急にビビ、と鈍い音がして。 チップを取り出した瞬間、それは手の上でパンと割れてしまったけれど。 その思いだけは保存出来た。 これをまーくんに伝えること。 それが、今君のために俺が出来る、ただひとつのこと。 「それにしても、いのっちは凄いなぁ」 思わず感嘆の声をあげてしまう。 彼の頬に残った涙の痕。 研究者たちが必死になって研究している課題を、あっさりとやってのけるなんて。 まーくんが見たら喜ぶよ。 ・・・ただし、いのっちが元気にしてたらの話だけどね。 ひょい、と動かない身体を背負う。 人間同様、稼動していないと酷く重い。 でも連れ帰らないと、可哀想だ。 こんな、死体だらけの場所に置いていきたくはないよ。 いのっちには、似合わないし。 大丈夫。 まーくんには博がついてるし。 帰ったら三人がかりで直してあげるから。 だから、あとちょっと頑張って。 身体が壊れてしまったらもう、俺たちだってどうすることも出来なくなるから。 どうか、どうか。 悲しい記憶だけを抱えて、死なないで。 いのっちはまーくんに愛されて育ったやろ? 名前もらって、ずっと一緒にいて、たくさん笑って。 あんなに笑った日々は無駄じゃないんだと、信じたい。 例えデータが消えてしまっても。 この身体のどこかに、俺たちのことが染みこんでいればいいな、と。 俺は、そう思うんだ。 「・・・直った暁には何か奢ってもらわなあかんね」 言ってコツン、といのっちのおでこに自分の頬をぶつけた。 >アンドロイド話『傍に行けたらいい』の続編。ほんわかと包んでくれるのは末っ子だな、と。 |