知ってる



それは酷く蒸し暑い日で。
テレビのニュースはひっきりなしに現状悪化のニュースを告げていた。
全ての根源は頭上にハッキリと見える空を覆い尽くすほどのどでかい艦体。
あれのせいでここんとこ日が射さずに食物だのなんだのの育ちが思わしくなく、言ってしまえば食糧難の危機にまで追いやられている。
聞いたこともない名前の星からやってきたあっちの要求を飲まなければ地球上にいる俺とかアイツとか皆とか虫だとか木とか、とにかくあらゆるものが全て消されるらしい。虫が消えることで喜ぶ人がいるのを俺は知ってるけどそれはぶっちゃけ坂本くんだったりするんだけど、全部消えちゃうんだからあんまり意味がないと思う。
俺は緊急で組まれた特殊部隊のうちの一人で。
先ほど上司から大至急リーダーに届けてくれと文書を渡された。
隣には特殊部隊のまた俺とは別部隊に所属する松岡って腐れ縁がいる。さっきまで一緒にふざけて遊んで怒られたクチだ。
そういやコイツの部隊の長瀬ってやつが起きてる寝てるに関わらずずっと練乳のかかったイチゴが食べたいって五月蝿いらしい。
この国にいて食糧難を体験するなんて、思っても見なかったろう。もちろん、俺もそうだ。



「そろそろ出撃命令かなコレ」
「そうなんじゃねぇの?ウチの兄ぃなんて早くケリつけたいっつってウズウズし始めてたりするから丁度いいや」



封筒に丁寧に折り込まれた書類を広げてみる。
本当はこれやっちゃいけないんだけど、俺も松岡もそういう欲望を大人しく我慢できるほど大人じゃない。
そして、何でも一人で消化しようとするお互いのリーダーを見て見ぬふりが出来るほど子どもでもなかった。
つまり、言ってしまえば不器用な人間なのだった。



広げた書類にはただ一文だけ記されていて。
読んだ瞬間、俺と松岡は顔を見合わせた。
顔はきっと、お互い真っ青で。
ただ、俺たちの好奇心に深く感謝した。
これは余りにもリーダー一人に背負わせるには重すぎたから。
「なんだよこれ・・・!」


『各部隊から一名ずつ殉職者を差し出し、特攻隊として任務を遂行せよ』


「ふざけんなよ!」
ぐしゃりと紙を片手で握り潰す。
人の命をなんだと思ってるんだ。
一昔前の戦争時代の過ちを平気な顔で繰り返そうとしている上層部に苛立ちを隠せない。
それは俺も松岡も一緒だった。
だけど、誰かがやらないと現状は悪化の道を辿るばかりだという事も痛いほどわかっていた。



「・・・・・・・・なぁ」
「ん?」
「これ、あっちに持って行きたくねぇ」
「奇遇だな。俺も同じこと考えてたとこだよ」
「でも無視するわけにはいかねぇよな」


わかってる。
これは誰にも知られずに遂行されるべき任務だ。
悲しみは大概、知らない方が幸せだ。


「・・・・・・・・・・・・・俺が考えてることなんてどうせ分かってんだろ?」
「あぁ、知ってる」
試しに聞いてみた所、松岡は自信たっぷりに頷いた。


いつもそうだ。
俺と松岡はたまに双子なんじゃねぇのってかエスパーかなんかで心読みあってんじゃねぇのなんてツッコミが入るくらいに同じことを考えて同じ方を見据えている時がある。
今も、きっと。



「操縦の腕、鈍ってないか?」
「何言ってんの。俺くらいになるとそんなもんもう日常動作だっつーの」
笑顔を浮かべて返してくる悪友。
お前こそ大丈夫かよって言われたけど、小さい頃からずっと一緒に訓練受けてきたコイツが日常動作になっているのなら俺も多分そうなんだろう。



「・・・・・・・・・遣り残したことはないか?」
「そりゃもうたくさんあるね」
だけど、と松岡は続けた。
「あいつらがそれで元の生活に戻れるんだったら、やらなくていい」
長瀬が目一杯満足するまでどろっどろに練乳のかかったイチゴ食べてる時の顔が見れねぇのはちょっと心残りだけど、と残念そうに。
メンバーの幸せが俺の幸せ、ってか。
割とこのご時勢ではクサいこの想い、不本意ながらも生憎、俺も同意見だったりする。
俺は・・・・・・・・・・とりあえず坂本くんが静かに隠居生活出来て、長野くんに支えられながら育っていく下の三人を見守ってくれりゃいいや。
・・・・・・・そこに俺がいないことがちょっと心残りだけど。



けど。



「さ、気持ちよーく飛んでくっか松岡さんよー」
「おう。あ、お前こういう時はふざけた発言とか行動とかいらねぇからな。真面目にやれよ真面目に」
「そりゃこっちの台詞だってかお前がいつ真面目にやってたんだよいつどこで何時何分にどんな感じでやってたかを100文字以内でわかりやすく俺に説明しろ」
「そんなもんいちいち覚えてるほど女々しくないんでねどっかの誰かさんと違って俺は男らしい男ですからー」
「・・・・・・・・・・・お前一回フライト前に殴られてぇのかコノヤロウ」
「ぶっ!猪木のモノマネはいらねーだろ!」
「真似てねぇよ今のは俺のオリジナルだって聞いてんのか?!いつまでも笑ってんじゃねぇよ!」
「井ノ原さん50て〜ん」
「五月蝿ぇよ。・・・ちなみにそれは何点満点で?」
「1000点満点かな?」
「とりあえず目ぇ開けられないくらいに殴ってもいいか?」
「遠慮しとくわ。お前とお揃いの顔になるくらいだったらリーダーに一週間素無視される方がよっぽどマシ」
「俺 の 目 は 開 い て ん だ よ ! ! ! 」



一番の心残りはお前とこうやって喧嘩するのも最後なんだってことだったりする。



なぁ、悪友。
向こうに行ったら真っ先にお前に会いに行く。
そんで一発殴ってやる。
そのために今はこの握り締めた拳、とっておくから覚悟しろよ。



>マボイノお題消化その4。パラレル戦争もの。