何でいるのよ



呆然とした。
手に持った買い物袋は地面に音を立てて落ちる。
やべ、卵大丈夫かな。
だけど、仕方ない。
俺んちの玄関に、いるはずのない奴がそこに座り込んでいて。
「よっ遅かったな」
なんつってどっこいしょと立ち上がるもんだから。
お前そりゃおっさんくせぇよと突っ込みも忘れずに。
これはもはや条件反射だ。
っていうか。
「何でいるのよお前」
「そんな冷たいこと言わないでよマボや〜んvあ、黒いスーツ珍しいけど似合ってるわおっとこまえ〜v」
「うっわキモいんですけど!」
変に色気を撒き散らしながら近づいてくる井ノ原を言葉で一掃。
冷たいーとがっくりと肩を落とす悪友。ざまぁみろ。
とりあえず地面に落ちた買い物袋を手に取り、家の鍵を開ける。
ただいま、と言ってみればおかえりvと背後からオカマみたいな変な声が返ってきて、奴が本気で落ち込んでないことを知りがくっとなった。



















「・・・・・・・・・なぁ」
「なによ」
「ホント、なんでいんの?」



お前、死んだはずじゃんと。
言ったら一瞬悲しそうな顔をして、困ったように笑う。



「やっぱ、死んでんのね俺」
「・・・・・・・・あぁ」
「どうも信じられなくてさ。お前んとこ来て正解だったわ」



はっきり言ってくれちゃってどうもな、と悪友は微笑む。
何で笑ってんだよ。
死んだって理解したんならもっと悔しがれよ。
これじゃ、人前で涙我慢した俺がみっともねぇじゃねぇか。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ」
「ん?」
「お前、泣いた?」
「・・・・・・泣かねぇよ。ってかお前なんかに泣いてたまるかっつーの。いなくなって清々するぜ五月蝿いの相手に突っ込むのも楽じゃねぇしよ」
「だろうね。逆だったら俺もそうだし」



言って。
しん、と間が空く。
鼻の奥がつんと痛くなってきて、喉が詰まったようになる。



こんな時まで意地張り通せるほど、俺は大人じゃねぇんだよ。



「・・・・・・・・・・・・・・・ばかやろー」
「・・・・・・・・・・松岡」
「何で、死んだんだよ!お前まだまだこれからって時じゃねぇかたくさん仕事入って忙しいけどそれなりに楽しいって生きててよかったって酒飲みながら嫌になるほどあんだけ俺に言ってたじゃねぇかなのに、」
「悪ぃ」



言葉を遮るように井ノ原が謝った。
謝って済むことかよと殴ってやろうかと思って顔を上げると、奴も細い目からぱたぱたと涙を零していた。
目の前が霞んでるから、俺もきっと泣いてるんだろう。



「・・・・・・・・・・・・・・・っはは、変な顔」
「お前だって男前が台無しだぜ」
「イノは元々変な顔が更に輪をかけて変になってんよ」
「バカヤロウ。人間泣く時ゃ形振り構わず泣くのがいいんだっつの」
「たまにはいいこと言うなお前」
「いつも言ってんのにお前が気づかないだけだって」



そう言って、思いっきり破願する井ノ原。
俺も習って無理矢理口の端を上げて見せた。



「やっぱよかったよ、最後にお前んとこ来て」
「井ノ原」
「お前ならああやって言ってくれると思ってた」



お小言みたいなくっさい台詞、意外と好きだったんだぜ、と。
悪友は笑って俺に言った。
すぅっとゆっくり薄まっていくその姿を、やけに冷静になった頭で見守る。
何かを言ってるみたいだったけど、もう声は聞こえてこなくて。
辛うじてじゃあな、と唇が動いたのを見て、おうといつも通りに返事した。
また明日、みたいな感覚で。
それが、きっと俺の友情。



―――――――――ちゃんと成仏しろよ、悪友。



さっきまで井ノ原が立っていたところを見つめながら。
俺はそう、付け加えた。



>マボイノお題消化パート2。死にネタですみません。