フライデーミッドナイトブルー 金曜日の夜。 普通なら明日が土日の休日で喜び多き日のはずなのに。 仕事の残っている俺はデスクをお友達に山のような資料と共に残業としけこんでいた。 パソコンの画面が霞んで見える。 確実に、疲れ目。 あー帰りてぇ。 帰って酒でも飲んでゆっくり寝たい。 仕事は月曜日が締め切りだけど、休日にまでは絶対持ち込みたくない。 だから、帰れない。 ふざけんなよこの野郎。 わざわざ図ったかのように帰り際に渡すんじゃねぇよ畜生め。 ピロピロピロピロ 突然の着信音に携帯を見る。 着メロとかライトの色とか全然弄ってないから、誰から来たのか分からない。 ぱくんと開けてみて、表示された名前を見てぐったり。 無視しようと携帯を放り投げたら、そのまま留守番電話サービスへ。 『アナタの恋人イノヒコ、本名イノハラヨシヒコでーっすvいまどこ?なにしてんの??ヒマ???っていうかアンタが忙しくても俺がヒマなので坂本くんちに押しかけます!それまでに留守電聞いといてよねっv無視しちゃいやーんvvでーわ!』 能天気な喋り方と時々入るムカつく笑い声に頭の血管が2、3本切れた気がする。 知り合い(友達?)の井ノ原からの電話だった。 何をどう間違ったのか、下っ端大学卒業にして銀行社員になったヤツはほぼ毎日定時退社。 かなりランクの高い大学を卒業した俺はとある会社の一社員としてほぼ残業。 なんだよこの差は。 大学なんて関係ない時代なら俺が高校生の時にしっかり言ってくれ。 っていうかヤツの電話は突っ込みどころがありすぎて困る。 恋人ってなんだ。 イノヒコって誰だ。 俺はヒマじゃねぇんだよ来んな馬鹿。 とりあえず思いつくままに一人で突っ込んだ後、パソコンに目を戻す。 時計をチラ見。 現在、P.M.8:00。 予想だと今日中には何とか終わりそうだ。 カタカタと音を立てつつ、パソコン様にフリーズしないようお祈り。 頼むからそれだけは勘弁してくれ。 機械音痴だから復帰の方法もわからん。 30分後。 ピロピロピロピロ また着信が入って。 どうせ井ノ原だろうと再び無視を決め込めば。 『さっかもっとくーん!大屋さんが鍵開けてくれたから一足先に部屋におじゃましてまーす!買い物帰りの長野くんとばったり会っちゃったから彼も一緒に!今日は豆乳鍋だから早く帰ってこーい!でわ!』 ・・・・・・・・・・・・・何勝手に入り込んでんだあの馬鹿。 しかも長野も一緒に。 鍋奉行付きで鍋食うのがどんなに面倒かわかってんのかアイツは。 カタカタカタカタ。 あー早く終わらせて早く帰ってとりあえず一発井ノ原の顔面に強烈なストレートをお見舞いしたい。 それから1時間後。 ピロピロピロピロ 着信音にも動じなくなってきて。 忙しなく手を動かしながらただ耳だけを留守電に傾ける。 『長野です。育ち盛りのよっちゃんがあらかた食べちゃったので帰りに鶏肉と水菜と白菜を買って帰ってきてください。俺も食べたいので2人分よろしく。美味しいやつね。あとあの子勝手に冷蔵庫に入ってた高そうなお酒も飲んじゃってるけどいいのかなぁ?あ、ちょっとよっちゃ、』 ぶち、と途中で切れた会話。 どうやら井ノ原はまともに電話に出られないくらい酔っているらしい。 長野の電話はヤツと違って丁寧だ。 まるで奥さんからかかってきたような内容だったけど。 っていうか。 ちょっと、聞き捨てならないことが。 冷蔵庫に入ってたお酒? おい待てそれってもしかして俺が今日飲もうと思ってた秘蔵っ子じゃねぇか?!!!! いーーーのーーーはーーーらーーーー!!!!!!(泣) それから1時間。 俺は今までにない脅威のスピードで仕事を片付け、会社を飛び出していた。 家の状態は大体想像つく。 晩ご飯は長野が確保してくれているだろうが、問題は酒。 予定外の出費だけど、帰って酒があるのとないのとでは全然違うから。 24時間営業のスーパーに駆け込み、頼まれたものと酒をごっそり買い込んだ。 もう飲めりゃいい。 そんで酔えりゃいい。 ついでに井ノ原殴れりゃもっといい。 憂鬱な金曜日の夜の帰り道。 誰かが待ってることで寂しさが薄まったのには感謝するけど。 休日くらい休ませてくれ。 切実に、心底、俺はそう思ったのだった。 >サブタイトル、サラリーマンまーくんの憂鬱(笑)不憫な彼が好きです。 タイトルは好きな曲から取りました。あの気だるさがいい。 |