ねぇ、ドクター。
俺の身体、後どれくらい持ちそうですか?










DR〜ドクター〜












死の宣告とは残酷で、しかも突然やってくる。
それは余りにも非現実的で。
人は皆、自分にはまだ有り得ないだろうと考えていることだから。
その事実を、すぐに受け入れられないことが多いのだ。




今日。
医者である城島茂は、告知に酷く勇気を用いた。
職業柄、告知は仕事の一環であるというのにもかかわらずである。
何故なら、彼が死の宣告をしたのは、小さい頃から知っている患者であったから。
向かいに座っている、いつの間にか自分の背をとうに超えてしまった青年。
名前は、松岡昌宏。
心配そうに城島の顔をちらちら見ている。
無理もない。
具合が悪いわけでもないのに再検査を訴えられて。
しかも、城島は覚悟を決めるためにさっきから唸りっぱなしであるのだから。
ああもう、仕方ないわな。
言っても言わなくても、結末は同じや。
城島はそう思い、パンッと膝を叩いて松岡の目に視線を合わせた。
「・・・松岡」
「なによ」
「お前に言わなあかんことがある」
「だからなによ」
「・・・・・・・お前は『神経異常症』や」




神経異常症。
名前の通り、神経の異常からなるもの。
足のつま先から徐々に感覚を失っていき、やがて死に至る病気である。
原因は今だ不明。
そもそも発症者が少ないのも原因で。
発症率は日本人の約0.000001%。
非常に稀に見る病気なのだ。




「治療法は、ハッキリ言ってない。薬も対処法もわかっとらん病気や」
「・・・・じゃあ、どうすりゃいいの?」
「・・・・・申し訳ないんやけど、どうしようもない」
すまん、と頭を下げる城島を見て。
松岡は慌てて顔の前で手を振った。
「アンタの所為じゃないっしょ!ちょっと、やめてよそういうの!」
「せやけど・・・」
「俺くらいになるとさ、死の宣告っていうの?こういうの聞いても取り乱したりなんだりしないのよ。ほら、人間っていつか死ぬもんだしさ」
あはは、と松岡の笑い声が病室に響く。
その声色が空元気だと、城島は感じていた。
この男は小さい頃からずっとそうなのだ。
自分の感情を素直に対処することが出来ない性格。
いつも意地を張って、笑うことを選ぶ。
それに周りが助けられている部分もあるが、彼自身はどうなるんだろうと城島は思う。





「・・・・ねぇ、茂くん」
「ん?」
「俺、後どのくらい生きられんの?」




珍しいくらい酷く神妙な声に、息を呑む。
言わなあかん。
これは仕事や。
思っても、手足の先がすぅっと冷えていく。
情に流されてどうする。
僕が泣いたら松岡が困るんや。
そう、自分自身を叱咤して、口を開いた。




「・・・・後、持って三ヶ月や」
「へぇ。なーんかドラマみたいな話だね」




城島が覚悟を決めて言った台詞に。
あっけらかんとした口調で松岡がそう、切り返す。




「・・・まつお」
「あ!あのさー兄ぃとか俺の知り合いとかには内緒にしててね!変に心配されるとくすぐったいし、そんな目で見られるの御免だしさ!」
「・・・・・・・・ぉん」
「なによなによ、なんなのよー!まるで俺じゃなくてアンタが告知受けたような顔してる気がする!」
「・・・・・」
「時期が来たらちゃんと言うよ?俺ももう大人なんだし、その辺はわかってますから!」
「・・・・・・任せて、ええんやな」
「いいって言ってんでしょー?もうボケ始めたの、おじいちゃん」
「年寄り扱いすんなやー」




つん、と口を尖らせて抗議した城島に。
松岡はけらけらと本当に楽しそうに笑った。










*************







はぁ、と松岡は夜空に向かってため息をついた。
送っていくと言って聞かない城島を何とか宥めて。
食事管理の疎かな彼に、夜ご飯はウチに来るようにと付け加えて、今に至る。
ほんの2時間前には何にも問題のなかった自分の身体。
今は原因不明の病魔に蝕まれているなんて。
痛くも痒くもないのに信じられねぇなと呟いてみてから、そういえば何も感じなくなる病気なんだっけと思い出して自嘲する。
どうしてだろう。
告知されても何も思わなかった。
ただ、茂くんが辛そうな顔をしてるのを見て、それを何とかしなきゃって。
それだけを考えていた。




落ち着いたらまた他に考えも出てくるだろう。
あ、兄ぃに何て言おうかな。
俺死んじゃうんだって、なんて言ったらひっくり返るかな。
つーか、信じてくれなさそう。
ってどんだけ信用ないのよ俺ってば。
うわ、そういやようやく長瀬をボーカルに引きずり込んだのに俺がいなくなるんじゃ意味ないじゃん。
無理矢理だけど長瀬のおかげで太一くんも入って。
兄ぃも協力してくれるっつって。
後はギターだけだって、張り切ってたのに。
全部無駄になっちまうのかよ。




ぎゅう、とシャツの胸元を握り締める。
念願のバンドがもうすぐで結成できそうだった。
ずっとやりたかったことがようやく形になってきたっていうのに。



「もっともっと、行かなきゃなんねぇんだよ・・・」



呟いた言葉は。
自分で思っていたよりも酷く悔しさに溢れていた。



>東京の同タイトルの曲を聞いた瞬間思いついてしまった話。
  これはまたジャンル違いで・・・でもいつか書きたい話でもあります。