夕日の綺麗な時間。
いつもより遅い長瀬に戸惑いながらも、俺はいつもの場所に座っていた。
話せない長瀬。
茂くんに伝えることは出来たんだろうか。
あの人ほんっとうにボケてるからなぁ。
長瀬もボケ加減では負けてないと思うんだけど。
イマイチ信用出来ないっていうか、なんていうか。
・・・それに。
俺が死んだ姿を目の当たりにして。
それ以来ここに来ることがトラウマなんかになってたりしたら。
うわ、どうしよう。
そんなことになったら、俺一生ここに居なきゃなんないの?
自由に動き回れるならまだしも、この人通りの少ない場所に縛られてるなんて、相当キツイ。
やだなぁ、もう。
不憫な自分を案じながらため息をついていたら。
遠くにひょっこりと見えた、髪。
長瀬だ、と気づいて立ち上がれば、隣にもう一人別な髪が見えた。
ほんのりと茶色がかったそれ。
見覚えのあるそれに、俺の身体は歓喜と緊張でぶるりと震える。
茂くん、だ。
いつもなら長瀬に声をかけて姿を現すのに。
今日は喉が詰まったようになって、言葉が出てこない。
声を出さない限り、相手に見えることはない俺の姿。
長瀬は不思議そうに首を捻りながら、マボ、と口を動かしている。
うん。
せっかく長瀬が頑張って連れて来てくれたんだから。
その頑張りを無駄にしちゃいけない。
「・・・・・・長瀬、と・・・茂、くん」
声を出せば俺の姿を目にして手を振る長瀬と、ビックリした表情の茂くん。
そりゃ、そうだわな。
さすがに俺が自縛霊になってるなんて、想像もしてなかっただろうし。
長瀬が俺のところにたどり着いて。
茂くんと二人、俺の前に立つ。
「・・・まつ、おか・・・?」
「・・・・・・うん」
名前を呼ばれて、頷いた。
ああ、すっげぇ久々だな。
そんなに時間経ってないのに、そう思う。
それだけ日常に茂くんが溶け込んでいたって証拠かな。
彼のビックリした表情はみるみるうちに悲しげに曇って。
おそるおそる伸ばされた手は、俺の腕にぴたりと触れ、止まる。
「・・・こうしてみると、生きとるみたいやなぁ」
「まぁね。死んでるけど」
「根も葉もないねん、お前は」
呆れたように言いながらも、ふわりと笑って。
茂くんはくしゃりと俺の頭に触れ、髪の毛を手で弄った。
ああ、あの時と一緒だ。
走馬灯だと思っていたあの時と同じ、あったかさだ。
変わらない姿。
いつもと同じ動作。
まるで、俺が生き返ったみたいな錯覚。
まさに錯覚にしか過ぎない、現実。
「こんなことって、あるんやな・・・」
「あるんだね。俺こういうの全然信じてなかったけど」
「凄いわぁ」
「うん、凄い」
日常会話のようなものを繰り返して、全然本題に入れない。
・・・きっと入れるんだろうけど、入りづらい。
きっかけを探そうと口を開いて他愛もない話をする俺の背に、ぱすん、と当たる手。
大きな、優しい手。
長瀬の手が、俺の背中を押していた。
まるで早く言いなよ、と急かしているように。
これじゃいつもと逆だな。
・・・うん。
「茂、くん」
「ん?」
「俺さ、アンタに伝えたい言葉がたくさん、あるんだ」
言えなかった言葉。
「ありがとう」
俺を拾ってくれて。
俺を信じてくれて。
手を差し伸べてくれて、ありがとう。
言わなかった言葉。
「大好き」
アンタの奏でる音も。
優しい歌声も。
あったかい手も、柔らかい笑顔も。
みんなみんな、大好き。
言い忘れた言葉。
「・・・・・・そんで、ごめんね」
あんなこと言っちゃって、ごめん。
関係ないなんて、嘘だ。
めちゃめちゃ関係あるのに、俺と茂くんは、さ。
一つ一つを噛み締めるように口にする度に。
俺の心の中は軽くなっていった。
伝えられてよかった、という安堵感と共に、言葉は茂くんに向かって流れて。
全部言い切った俺の顔を見て。
茂くんはふんわりと穏やかな笑みを浮かべ、ん、と頷いてくれた。
横には同じ笑顔の長瀬。
さんきゅーな、と背中を叩き返せば、大袈裟に痛がるフリをして。
それから悪戯っ子のような笑みを見せた。
ありがとう、長瀬。
俺と茂くんを引き合わせてくれて。
本当に、ありがとな。
・・・で。
言いたかった言葉も言えて。
思い残すことは無くなったはずなのに。
「・・・・・・なんで俺まだここにいんの・・・?」
長瀬の隣でそう問えば、にこにこしたまま首を傾げられる。
そりゃそうだよな。
お前に分かったら苦労しねぇよな。
自縛霊ってさ、思い残すことがなくなったら消えるはずなんだよ。
まぁどこに消えるかはわかんねぇけど。
でも、俺は現在まだここにいる。
・・・何でだ。
悩んでいた俺と長瀬の前に、立ちはだかる影。
あれ。
この前とはまた違った感じの、柄の悪いオニーサンじゃないの。
「誰に断ってこの場所で弾き語ってんだぁ?おにーさん」
あーあー。
また来ちゃったよ、こういう類の人が。
長瀬はというと、全く抵抗する様子も無くにこにこアホみたいに笑ってるし。
守ってやんないと、男松岡人間が廃るってもんだ。
・・・・・・自縛霊だけど。
ついでに分かってしまった。
俺がここに未だに存在している理由が。
あの人に向けていた心配が、いつしかこの男にまで向いてしまったから、だ。
絶対そうだ。
俺が居なくなったらコイツがどうなるのか、見当も付かない。
殴られっぱなしで挙句の果てに俺のお仲間になっちゃったりしたら、コイツは待ち人にも会えないわけだし。
やっぱ、会わせてあげたいっしょ。
俺のためにあれだけ色々してくれたヤツなんだから、さ。
「・・・オニーサーン。そいつに手ぇ出すならとりあえず俺が相手になりますけどー?」
自分から姿を現して、睨み一発。
にこにこしながら俺を見守る長瀬を背中にして。
今日も俺は自縛霊として働く。
長瀬の歌をBGMに拳を振るうっていうのも、悪くない。
「長瀬、歌えーーーーっ!」
言うなり始まる長瀬の歌。
そのテンポに合わせて拳を振るいながら、俺は満足感に浸って笑った。
END
番外編が長いですねこのシリーズ!(シリアスに耐え切れなくなった)
マヨバラとツインタワーの話です。後者は本当に未知だった・・・!
心配性で色んな方向に目を向けているマボやんが成仏するのはずっと先の話です。
次はベイベの過去、かな。頑張ります。
2007.5.6