兄ぃは茂くんの友達だ。
いっつも笑ってて、格好よくて、頼りになる。
俺の理想ってやつなんだ。
あんな大人になりたいなぁって言ったら茂くんに止めときって言われたけど。
いつか、きっと。












































































お兄ちゃんと僕



























































<M side>




いつものように朝ご飯を済ませ、ベッドに就く茂くんを確認する。
あの人はいっつも危なっかしいからね。
よたよた移動して、何とかベッドに倒れこむ。
うん、今日も無事だったな。
茂くんと一緒に寝ないのかって?
俺、子どもじゃないもん。
一人でちゃんと寝れるから大丈夫。
たまにおいでーって呼ばれた時は仕方ないから渋々!行ってやるけどね。
それに、俺には仕事が残ってるから。
茂くんが食べた後の食器を洗って、スーツにアイロンをかける。
一回あの人しわくちゃのシャツのまんまで店に出ようとしたから。
ホストしてんのに無いでしょ、それは。
女の人扱うんだから格好よくしてないと。
だからホント、不精なところはどうにかして欲しい。
でも言うだけじゃやんないし駄目だから、俺が準備してあげるんだ。
朝食も、スーツも。
それが俺の仕事。
俺くらいになると何でも出来ちゃうから、こんなの苦じゃないんだけどさ!
それに、今日はもう一つ仕事があった。
この間買い物を手伝ってくれた兄ぃに俺の料理を持っていくのだ。
どうしてかって?
男が借り作ったまんまじゃ格好つかないっしょ。
格好いい男になるにはまず形から!ね。
いつか俺も兄ぃみたいに大きくなって、二人で肩を並べて歩くのが夢だから。
今のうちに対等の位置を確保しておかないと。
とりあえずチャーハンと餃子は作って、あっちに行ってからスープをちょちょいっとね。
俺くらいになるとあっさり出来ちゃうから!
「よーし、作るぞー!」
腕まくりをして気合一発。
兄ぃが食べてくれた時の笑顔を想像して、俺は一人ほくそ笑んだ。























































































俺の作業は順調に進んだ。
いい感じのチャーハンと餃子が出来て。
それを背負って兄ぃの店に着くまでは順調だった。
が、しかし。



















「・・・・・・忘れてたー・・・」



















そう。
この俺としたことが、大事な事を忘れていたのだった。
兄ぃが朝寝ぼすけだということと。
インターホンに手が届かないということを、両方。
シャッターは閉まったまま。
がしゃがしゃ叩いてみても兄ぃが起きてくる気配はない。
この間ヨシと来た時は二人がかりで鳴らしたインターホン。
今は俺一人でどうにかしなきゃなんない。
無駄だと分かっていても背負ってきた料理を置いて、ジャンプ。
でもやっぱり届くはずもなく、項垂れた。
今は朝の8時だ。
兄ぃっていつ起きるんだろ。
一旦家に帰ろうかな、とも思ったんだけど。
俺が帰ってからすぐに兄ぃが出てきたりしたらなんか悔しいから、店先で待つことにした。
出てきたらたくさん文句言ってやる。
待ってろ、兄ぃ。





























































































<Y side>






ちゅんちゅんちゅん。
鳥の鳴き声で俺は目を覚ました。
くあ、と欠伸をした後で腕を天井に向かってぐいっと伸ばす。
外を見れば十分に昇ったお日様。
時計は11時を指し示していた。
そろそろ飯の時間じゃん。
ぼんやりとそんなことを考えつつ、身体を起こした。
客は来ないとは思うけど、一応開けないとなー。
がしゃがしゃと音を立ててシャッターを上げれば、見知った後姿が目に入る。
へたれた耳と、小さな身体。
あれ。
「・・・・・・マサヒロぉ?」
試しに声をかけてみるも、反応はない。
だけど人違いではないと思う。
だって、あんな風貌の知り合いなんてマサヒロ以外には知らないし。
あ、この前来たヨシヒコもいるけど。
アイツは一人でここに来るってことはないだろうし。
小さな背中に近づいて顔を確認すると。
やっぱり日向に照らされて気持ちよさそうに眠るマサヒロだった。
傍にはタッパを包んだ風呂敷が置いてある。
いい匂い、すんなぁ。
中身を見たかったけど、勝手に弄るとマサヒロが拗ねそうだから。
まずヤツを起こすことが先決だろ。
こんなとこで寝られても軽く営業妨害だし。
「おーい、まーさーひーろっ」
「むー・・・もう食べられないよぉ兄ぃー・・・」
揺さぶって声をかけてみたら、目は薄っすら開いたものの、返ってきた言葉は夢見心地だ。
起きろよ、と頬をぷにぷに突っつけば、愚図りだす。
あーもう。
「ったく仕方ないやつだなぁ。ほら、乗れ」
「うんー・・・・・・」
しゃがんで背中を差し出すと、案外素直にそこに乗ってきた。
ぱた、と尻尾が揺れる。
すぅすぅと気持ちよさそうに寝息まで立てて。
どれだけ疲れてんだコイツ。
地面に置いてあった風呂敷を片手に持って、背中にはマサヒロを背負って。
昼飯時だし営業してても無駄だな、と勝手に判断して、俺は一度開けたシャッターを元に戻した。
































しかし。
問題が一つ。










































「これ、どうしよう・・・」
























そう、マサヒロが持ってきた風呂敷の中身だ。
さっきからずっといい匂いが漂ってくるんですけど。
この状態で俺に我慢しろっていうのが無理な話だ。
丁度昼時だし。
マサヒロが俺のために持ってきてくれたものだっていうのは確実だろうし。
ここで食べてしまっても誰も責めやしない、よな。
「マサヒロー」
俺の隣でソファに埋もれるようにして眠っているマサヒロを揺さぶる。
だけど、当の本人はかけてやった毛布をくるくると纏って拒否の体制を取ってしまった。
こんな風に幸せそうに眠ってるのを起こすのも、なぁ。
あー、腹減った。

































・・・・・・悪ぃマサヒロ。





































空腹感には勝てずに、風呂敷の結び目を解く。
出てきたのはチャーハンと餃子。
俺の大好物じゃん。
この小さい犬人間は俺の好みをしっかりと熟知しているようだった。
いっつも作ってもらってるし、知られてて当然だけど。
未だにこの小さい身体で料理をする姿を見ると、ある種の感動が走るのだ。
特技とはいえ、よくやるなぁと。
大の大人二人(たまに長瀬も入って三人)が子どもに食わせてもらってるっていう図が出来上がるのにはちょっとがっくりくるんだけどねー。
「・・・いただきまーす」
こっそりと、小さな声でそう言って手を合わす。
ぱくっと一口。
あーやっぱ美味いなぁマボ飯は。
一度食べてしまえば罪悪感だとかそんな余計なものは思考の中から消え去り。
俺は無我夢中で皿を空っぽにすることに集中した。














































































































・・・・・・で、まぁ。
分かりきった結末が待っていたわけで。









「まーさーひーろー」
「・・・・・・」
時間は4時。
小さな犬人間は尻尾を丸めて俺に背を向けている。
簡単な話、拗ねているのだ。
自分が眠ってしまったことを棚に上げ、無視を決め込んでいるらしい。
まぁ普段はコイツにとっての睡眠時間でもあるから、寝ちゃったのは仕方ないだろうけど。
「おーい」
「・・・・・・」
「まさひろー」
「・・・・・・」
「マーボー」
「・・・・・・」
声をかける度に尻尾がぱた、ぱたって揺れるんだけどありゃなんだろう。
反応はしてくれてるってことか?
「ごめん、な?」
「・・・・・・」
「あんまりにもお前の飯が美味そうだったからつい、な」
「・・・・・・兄ぃの馬鹿」
お。
ようやくこっちを向いた。
口はアヒルになってるけど、どうやら無視は終わったらしい。
代わりにもっと困ったことになった。
じわ、とマサヒロの目元に涙が滲んだのだ。
「おれ、ひとりでずっと、まってたのに」
店の外で座って退屈だったのに、と言いながら泣き出したもんだから慌てて抱き上げる。












あぁ、そうだった。
コイツは口先だけの強がりで、一人が好き、なんて言ってるけど。
本当は、一人になると寂しくて寂しくて仕方ないヤツだった。
退屈、なんて嘘だ。
ただ一人で待ってるのが寂しかったんだな。











「ごめんなー」
抱き上げてわしわしと頭を撫でると、堰を切ったように泣き出す。
無断で食べたことに対してじゃなくて、一人にしてしまったことに対して。
マサヒロは怒っていたんじゃなくて、ただ寂しかっただけ。
分かってしまうと、笑みが零れる。
笑うところじゃないのは分かってるんだけど、でも、つい。
「・・・っなにわらってんだよぉあにぃー」
「いや、お前可愛いなぁって」
「かわいくねーよっかっこよくなりてぇんだよっ!」
「あっはっはっは」
俺の腕の中でじたばた暴れるマサヒロ。
耳も目も真っ赤。
加えてぷーっと大袈裟なくらいに膨らんだ頬と、アヒル口。
これを全部ひっくるめて格好いいというところがあるなら教えて欲しいくらいだ。
もう一度マサヒロを見て、笑うと。
アヒル口のままぴょいっと俺の腕の中から飛び出ていった。
「帰るっ!」
言いながらテーブルの上の片づけを始める辺り、マサヒロらしいと思う。
帰るんじゃなかったのか?と茶化そうかなんて思いがふと過ぎったけど、止めた。
やっと機嫌直ったのにわざわざヘソ曲げるようなことはしない方がいいし。
せっせと動いているマサヒロをボケッと見つめていれば。
風呂敷を結びながらそうそう兄ぃ、と振り向いた。
「なんだ?」
「俺もう待つのやだから、インターホン押せるようにしといてよ」
「あー」
そういや小さくてインターホン押せないんだったな。
性格がしっかりしてるからか、ついつい小さいってイメージを忘れてしまう。
がしがしと頭を掻いて、思いつく。
「じゃあビールの箱置いといてやるよ。台がありゃ届くだろ?」
「うんっ」
自分とほぼ同じ大きさの風呂敷を背負ったマサヒロと一緒に店の外に出て。
ビールケースを逆さまにして置いてやった。
マサヒロはその上にぴょいっと飛び乗るとインターホンに手を伸ばす。









ぴんぽーん









「届いたー!」
「よかったなぁ」
鳴った瞬間くるっと振り向いて目をキラッキラさせて俺を見てきたから、わしゃわしゃ撫でてやる。
「これ、俺専用ね!」
「おう」
ビールケースをぺちぺち叩いて笑うマサヒロに頷いて見せれば、尻尾がぱたぱた揺れた。
コイツは自分専用とか、自分だけっていう言葉が好きらしい。
空を見上げれば太陽は西に向かって傾きかけていた。
そろそろシゲさんが起きる時間かな。
「じゃあね、兄ぃ」
「おー、また来いよ」
「うん!あ、茂くんに言わないでね、泣いたこと」
「えーどうしよっかなー」
意地悪く渋ってみせるとマサヒロは大いに慌てた。
「止めてよ!茂くんには格好いいマサヒロで通ってるんだからさ!」
「あー・・・だから妬かれるのかー・・・」
マサヒロはぐっさんには甘えても僕には甘えてくれへんもん、と。
拗ねた調子で俺をジト見したシゲさんを思い出した俺を、キョトンとして見上げるマサヒロ。
「?何か言った?」
「・・・何でもねぇ。早く帰らないとシゲさん起きちゃうぞ」
「低血圧だから大丈夫!じゃーねー」
どこが大丈夫なんだか全然わからない理由を吐くと、マサヒロは風呂敷を担いで帰っていった。





ぱたぱた揺れる尻尾。
何気に速いペースの歩幅。
きっとシゲさんのことを考えてんだろうな。
俺はマサヒロの小さくなっていく姿を見ながら、そんなことを考えていた。









END
こんな二人が書きたくなって書きました。
それ以外にコメントがない・・・!(笑)
2007.3.20