どすっと。
何か重いものが腹の上に落ちてきた衝撃で目が覚めた。
ぐえ。
















「とりっく、おあ、とりーと!」















起き抜けにそんな台詞を言われ、キョトンとしてしまう。
よくよく見てみれば、腹の上に居るペットはマントらしきものを纏っていて。
頭の上には魔女が被るようなとんがり帽子を乗せている。
サイズが全体的に大きめなのか、時々とんがり帽子がずり、とずれて前が見にくそうだ。
起き上がり、ヨシヒコを持ってみると、マントからはみ出た尻尾がぱたぱたと揺れる。
おい、魔女か狼男かハッキリしろ。





「おはよーサカモトくんっ!」
「・・・はよ」
「きょうはハロウィンだよ!おかしもらえるひなんだよー!」





単純な理解の仕方にため息をつく。
多分、ヨシヒコは何故自分がこんな格好をしているかすら分かってないだろう。
長野辺りに着せられたか。
嬉しそうにぱたぱたと尻尾を振るヨシヒコの帽子を直してやりながら、カレンダーを見る。
10月31日。
日本人はどうして外国のお祭りを取り上げたがるのだろうか。
バレンタインデーもクリスマスもそうだ。
ただ面倒なだけなのに。
ぼんやりとした頭でそう考えながら、ヨシヒコを抱きかかえて居間に移動すると。



















そこでは、ドラキュラ長野とカボチャのオバケが楽しそうに談笑していた。
うっわ、ある意味圧巻。















「あ、おはよう坂本くん」
「おはよう、坂本」





しかも丁寧に挨拶までされて、驚く。
声からしてカボチャのオバケの中身は茂くんだと推測する。
そう思えば怖くない、と心の中を落ち着けた時。
俺の足元に白い小さなオバケが走ってきて、ビックリした。





「うおっ?!」
「ヨシー」
「マサヒロー!」





ヨシヒコはぴょいっと俺の腕の中から飛び降り、そのオバケに抱きついた。
勢いで二人はコロコロとじゃれ合い出す。
白い布にマジックで顔を書いたそれはマサヒロだったみたいだ。
あービビったー。
ホッとため息をついた俺を見て、長野と茂くんはニヤニヤと笑う(カボチャは元から笑っていたけど)





「何だよ」
「いや、なぁ」
「坂本くんって相変わらずオバケ苦手なんだなぁと思って」
「・・・五月蝿ぇな。つーか、何で団体で俺の家に来たんだよ?」
「今日はハロウィンだから」





あのー長野さん、答えになってませんが。
理解に苦しむ俺に、茂くんがお菓子作って欲しくてな、と補足してくれて、ようやく合点がいく。
でも。
ずっと働いてきたけど、こんな風にハロウィンに集まるのは初めてで、何で?と尋ねてみた。
どうやら、ヨシヒコとマサヒロの二匹が提案してきたらしい。
犬に甘い二人が断れるわけもなく、当日実行することに決定したのだという。
ああ、そういえば。
かなり前から揃って五月蝿かったっけ。
意味も分からず「とりっくおあとりーと」って言ってにへにへ笑ってたり。
コンビニの端で売り出したカボチャのオモチャを欲しがったり。
いつも以上にカレンダーに噛り付いたりしていた。
・・・に、してもだ。











「・・・何で俺?」
「坂本くん、料理上手いから」
「マサヒロだって出来るじゃねぇかよ」
「ウチにオーブン無いねん」
「買えよ!」






突っ込んでみても現状が変わる気配はイチミリも無く。
まぁお菓子くらい作ってもいいか、と俺がさっさと折れた。
折れてからはた、と気付く。









「うち、お菓子の材料全然ねぇぞ」










金の無駄遣いを避けるため、ギリギリ食べるものが無くなるまでは買い物に行かない。
昨日、最後の卵を使ってオムライスを作ったので、ほぼ冷蔵庫の中は空っぽだ。
小麦粉や砂糖のような長持ちのするものはあるけど、それだけでお菓子を作るなんて到底無理だろう。
言うと、長野はにっこりと笑って買い物袋を俺に差し出した。






「そうだろうと思って買っといたよ」
「マジで?」
「うん。卵とバターと牛乳。作ってもらうんだからこれくらいはしないとね」






さすが長野。
これならクッキーくらいどうにかなるだろうと思ったその時。
ピンポーンとインターホンが鳴った。






「あ、来たわぁ」
「何が?」
「カボチャ」






ハロウィンといえばやっぱりカボチャやろ、と。
カボチャを被った茂くんが言うと何だか共食いみたいだけど。
ちーっす、と玄関からの挨拶を聞くなり、ヨシヒコとじゃれ合っていたマサヒロがあ!と声を上げた。






「兄ぃだー!」






とてとてと走り出したはいいものの、シーツに躓いてべちゃ、と転ぶ。
そのままぷるぷると震えているマサヒロを片手で拾い、もう片手でカボチャを抱えた山口が家に上がってきた。
半笑いのそれは現状をとても楽しんでいるように見える。






「おっす、坂本。朝から災難だな」
「心配してくれてる割には嬉しそうだな、お前」
「んはははは。まぁねー」






どすっと机の上にカボチャを置き、マサヒロオバケを抱きしめて頭辺りをわしわしと撫でる。
むぎゅーっとしがみ付いているマサヒロは無言で、微かに震えているところを見ると、泣いているように見えた。






「こけたくらいで泣くな、マサヒロ」
「な、泣いてないっ」
「へーぇ。んじゃ、ばぁー」
山口が白い布を取ると、中には半べそ状態のマサヒロが目を丸くしていて。
ぴんと耳を立て、ぎゅうっと山口にしがみ付く。
「兄ぃのいじわるー」
「お前が嘘つくからだろ?」
「・・・うー」






何も言い返せなくなったマサヒロは、山口の手の白い布をぐいっと引き寄せ、それを被って丸くなってしまった。
いじけた仕草に笑っていれば、ぐいぐいと服を引っ張られる。











「サカモトくん、おれもだっこー」









最近のヨシヒコはマサヒロと同じことをするのがブームらしい。
強請る様子はいつもと同じだけど、帽子がやっぱり大きくて視界不良状態になっていた。
抱き上げて帽子を直してやると、にへっと嬉しそうに笑う。











長野の持ってきた卵とバターと牛乳。
山口が持ってきたカボチャ。
そういえばと冷凍庫を漁れば、もらいものの冷凍パイシートを発掘できた。
パンプキンパイでも作ってやるか。
残った材料でついでにクッキーでも焼いてやろう。
考えながらヨシヒコを背中にくっつけたままキッチンに向かう。






トリックオア、トリート。
ヨシヒコになら悪戯されてもいいんだけど。
長野と茂くんを揃って敵に回すと後が怖いから。
どうにか失敗しませんようにと祈りながら、俺はオーブンの電気を入れるのだった。






END
ハロウィン短編。
本当はアンラブさんの企画に参加しようと思っていたのですが、如何せんシリーズものだったので断念しました。
この話から見てもキャラ設定がまるで分からないですからね(笑)
二匹の影響で坂本くん家に遊びに来る人が増えたら楽しいな、と思いまして。
オバケマボと兄ぃの「ばぁー」と帽子がぶかぶかのヨシが書きたかっただけなんて言いません よ(言ってる)
2007.10.31