Y side





珍しく早く終わったお店からの帰り道。
俺はサカモトくんとナガノくんの間に挟まれるようにして手を繋いでいた。
二人とも俺よりもいっぱいおっきい手。
あったかくて、優しくて大好き。
たまにぐいっと持ち上げられてぷらぷらと揺すられるのも大好き。
ぶんぶんと尻尾を振って、二人を見上げたら。
よっちゃんは本当に感情表現豊かだね、とナガノくんが笑い。
サカモトくんは何も言わなかったけどふんわり微笑んでくれた。





ふと。
もうすぐクリスマスだな、とサカモトくんが言って。
そうだね、とそれにナガノくんが相槌をうつ。
知らない言葉が出てきたから、俺は首を傾げて二人に向かって尋ねてみた。





「くりすますって、なぁに?」
「あー、お前知らないんだっけ、クリスマス」
「目いっぱいお祝いして、美味しいものいっぱい食べて、プレゼントを貰う日なんだよ」
「へぇーそうなんだぁ」





ナガノくんが教えてくれたのは。
クリスマスはお祝いの日で、サンタさんっていう人がプレゼントを持ってきてくれるってことだった。
プレゼントっていうのは、その人が欲しいものをあげることなんだって。
いい子にして寝てないとサンタさんはこないらしい。
俺はいい子かどうか分からないけど、何かを貰うのは好きだから。
サンタさんのことがもっと知りたくなった。





「サンタさんって、どんなひとなの?」
「うーん・・・赤い服を着てる、白いお髭の生えた人だよ」
「おれのしってるひとには、そんなひといないよ?」
「サンタさんは遠い遠い国から、トナカイっていう動物の引くソリでやってくるんだよ」
「なんで、おれのことしらないのに、おれのほしいものがわかるの?」
「そこがサンタさんの凄いところなんだよ。サンタさんは何でも分かっちゃうんだ」
「そうなんだぁ!」





サンタさんって凄いね、と言えば、ナガノくんがそうだね、と返してくれた。
隣のサカモトくんはさっきからずっと話さない。
俺とナガノくんの話を聞いてるのかな?と思ったら、そうでもないみたいで。
ぼんやりとお店に並んでいる人の列を見てた。





「サカモトくん、なんでみんなならんでるの?」
「あー、ありゃクリスマスケーキだな」
「くりすますけーき?」
「クリスマスに食べるケーキだよ。そのまんまじゃねぇか」
「そっかぁ」





並んでる人は白い箱を持ってニコニコしながら歩いていく。
俺もサカモトくんに習ってそれをじぃっと見てみた。
ケーキはお店で見たことあるけど、食べたことはない。
サカモトくんはケーキがあんまり好きじゃないみたいで、見るとほんのちょっと嫌そうな顔になる。
でも、今日はなんだかその表情とは違った。
少し目を細めて、何かを思い出しているような顔。
二人の手を離してサカモトくんにしがみ付くと、ひょいっと抱っこしてくれた。
視線が高くなって、人の間からクリスマスケーキが見える。
キレイで、可愛くて、イチゴが乗ってる真っ白なケーキ。
茶色や、黄色のケーキもある。
でも、俺は真っ白なイチゴのケーキが一番好きで。
そればっかりに目をやっていると、サカモトくんがふ、と笑い声を上げた。





「お前、欲しいのか?」
「うん!」
「・・・でもなぁ」





渋るサカモトくんに、ナガノくんはにっこりと笑って一言。





「ワンホール食べる自信、あるよ」





わんほーるって何か俺には分からなかったんだけど。
それを聞いたサカモトくんは、げんなりした表情を浮かべながらもケーキを買ってくれることにしたらしい。
俺を抱えたまま列の最後に並んでくれた。







少し待ったら順番が来て、俺は迷わず真っ白なケーキを指差す。
にこにこした可愛いお姉さんが真っ白なケーキを真っ白な箱に入れてくれて。
サカモトくんにそれを手渡した後、俺にキラキラ光るちっちゃい木を手渡してきた。
メリークリスマス!って言われたからおめでとう!って返したら笑われた。
あれ、お祝いごとだから合ってると思ったのに。
きょとんとしてサカモトくんを見ると、サカモトくんも笑ってた。
だから、俺も一緒にへらっと笑う。
これ貰ったよ、と木を見せて報告したらよかったな、と頭を撫でてくれた。
なんでもこれはクリスマスの木なんだって。
ケーキに、木に、プレゼント。
クリスマスのものっていっぱいあるんだなぁ。





「クリスマスってたのしいね」
「そうだね」
「お前まだケーキ食ってねぇのに楽しいのかよ」
「うん!サカモトくんとナガノくんがいっしょだから、たのしい!」





クリスマスでも、そうじゃない日でも。
サカモトくんとナガノくんが一緒に俺と居てくれて。
俺を見て笑ってくれるのが一番嬉しいから。
ぎゅうっとサカモトくんに抱きつくと、優しく抱きしめてくれた。
甘えたよっちゃんだね、ってナガノくんの優しい声。
優しいがたくさん俺の周りにある。
それだけで、幸せ。





真っ白な箱の中からする甘い匂いを嗅ぎながら。
サカモトくんのあったかい腕の中で、俺はゆったりと目を閉じた。


































































































S side






幸せそうに眠るヨシヒコの頬をちょんと突付いてみる。
起きる気配の無さそうなそれに、長野と顔を見合わせた。
クリスマスってだけでここまではしゃげるっていうのが凄いなコイツは。
俺がそう思っていると、長野がふっと笑みを浮かべる。





「ねぇ、この際色々揃えてよっちゃんビックリさせよっか」
「へ?」
「ケーキしか無いなんてつまんないじゃん。食べ物揃えてお酒も揃えて、クリスマスしようよ」
「・・・楽しそうだな、長野」
「俺祭り事大好きだからv」





にっこにこしながら、片っ端から店を回りだす長野。
コイツの行動力といったら半端無い。
長野が物色している間、俺は俺でオモチャを扱う店を回っていた。
ヨシヒコに何をあげれば喜んで貰えるかはよく分からないけど。
ボールで遊んでやるととっても嬉しそうにするから。
ふにゃ、と柔らかい感触のボールを手に取り、レジに向かう。
プレゼント用で、と言うとお子さん用ですか?とにこやかに聞かれる。
お子さんって言うか、ペットっていうか。
でもペットなんて言ったら物凄い怪しいから、子どもへのプレゼントってことにした。





ヨシヒコ用のプレゼントをポケットに忍ばせ、元居た場所に戻ると。
あっという間にクリスマスに必要なもの一式を揃えた長野が待っていた。
シャンパンに、オードブルに、七面鳥などなど。
見たことの無いものばっかりだから、きっとヨシヒコは全部が不思議でいちいち質問してくるんだろう。
これなぁに?と聞いてくる姿が容易に想像出来る。
買ったもの全てを手にぶら下げ、ちょっとだけ理不尽さを感じながらも。
なんだかワクワクしている俺が居た。































家に帰り、ヨシヒコをソファの上に置いて、買ったものをテーブルの上に広げる。
その物音にぴくりと反応して、途中でヨシヒコが起きてしまった。
目をかしかしと擦り、テーブルの上を見ている。
全部を用意し終わった頃にはヨシヒコの目も完全に醒めていて。
うわー!と大袈裟なほどに声を上げて、俺たちの居る方にやってきた。





「これ、クリスマス?」
「そうだよ。お祝いの食事だよ」
「このまんなかのちゃいろのやつ、なぁに?」
「七面鳥っていう美味しい鳥さんだよ」





長野がそう説明すると怖いと思うのは俺だけだろうか。
多分、豚さんでも牛さんでも同じことを感じる気がする。
俺がそんなくだらないことを考えているうちにヨシヒコの質問タイムは終了し。
それぞれが椅子に座り、コップの中身を注いだ。
俺は普通のシャンパンで、ヨシヒコと長野は子供用のノンアルコールシャンパン。
ぶくぶくしてる、と尻尾をぱたぱた振るヨシヒコ。
コイツは本当になんにでもすぐ興味を持つな。
俺と長野がコップを持つと、ヨシヒコもそれを真似て両手でコップを持ち上げる。
カンパイ、と言いながらコツンとコップをぶつけ合った。
中身を飲むと、ヨシヒコがきゅ、と変な声を出し。
コップから口を離して、げふ、と二酸化炭素を吐き出す。
そういや炭酸も初めてだっけ。
あんまり好きでは無いようで、それ以降ヨシヒコはそれに手をつけなかった。





「サカモトくん、おれ、ケーキたべたい!」
「・・・お前好きだなぁ」





呆れながら白い箱からケーキを出してやると、嬉しそうに尻尾を振る。
ケーキ好きって、変な犬だな。
切り分けてやったら、目を真ん丸くしてそれを見つめていた。
どうやら一緒に乗っかってきたマジパンのサンタが気になるらしい。





「これ、サンタさん?」
「そうだよ」
「うごかないよ?」
「これは作り物だからな。本物のサンタさんはちゃんと動くぞ」
「へぇー」





一通り見つめた後、ヨシヒコはフォークをたどたどしく使ってケーキを食べ始めた。
慣れない所為か、みるみるうちにケーキが無残な姿になっていく。
食べている本人は嬉しそうに頬張ってるからいいんだろうけど。














ケーキを食べ終わると満足したのか、ヨシヒコは再びソファの上で眠ってしまった。
嬉しそうにテーブルの上のご馳走を食べている長野を見ながら、俺はシャンパンを口に含む。
こんなクリスマスはいつ振りだろうか。
子どもの頃にしたクリスマスは覚えているけれど。
楽しいと感じたのは本当に数えるほどで。
サンタさんなんて、俺の家には一度か二度くらいしか来てくれなかった。
茂くんのとこに行ってからは来てくれたけど。
その頃にはもう、サンタを信じては居なかったし。





「坂本くん」
「ん?」
「よっちゃん寝ちゃったし、あらかた食べたから俺もう帰るね」
「おう」





長野の言葉にテーブルを見れば、成る程あらかた物が無くなっていた。
俺は酒があればよかったから、大して執着も無く。
了承の返事をした俺に長野はあ、と声を上げ、なにやら紙袋を手渡してきた。
中を覗くと、見覚えのありすぎる真っ赤な衣装が見える。
これって。





「・・・長野さん?」
「サンタと言えば親がやるって相場が決まってるでしょ」
「親って、お前」
「プレゼント、買ってたの見てたから俺」
「・・・・・・」
「あ、この香水忘れずにね。よっちゃん坂本くんの匂いには敏感だから」
「・・・さんきゅー」
「お礼なんか言わないでよ気持ち悪い。じゃあね」





ひらひらと手を振って長野は帰っていった。
取り残された衣装と俺。
とりあえずそれを袋から出して、もそもそと着てみる。
サンタの衣装一式に、ヒゲと袋まで付いていた。
さすが長野チョイスだけあって、サイズもピッタリで。
着終わった俺は思わず鏡を見ながらにやりとしてしまった。
これ、クリスマス以外じゃ絶対出来ないことだよな。





思いながら、はたと気付く。
俺の時の茂くんもこんな心境だったのかな。
わざと寝たフリをしてて、サンタじゃなくて茂くんじゃん、とか言っちゃったっけ。
可愛くなかったな、俺。
その後、茂くんがこっそり落ち込んでたのも実は知ってる。









『ごめんなぁ、坂本。僕がもっと上手く変装してたらよかったのになぁ』








クリスマスが来る度、あの悲しそうな笑顔を思い出すんだ。
頑なに心を閉ざした俺に、たくさん優しくしてくれた。
茂くんもまた、クリスマスには俺のあの言葉を思い出すんだろうか。
・・・悪いこと、した。

















「・・・・・・んむ」





変な声を上げて、ヨシヒコの目がぱかりと開く。
俺は思わず身構えて、白い袋を持ったまま固まってしまった。
ヨシヒコは俺の方をじぃっと見て、キョロキョロと辺りを見渡す。





「サンタさん?」
「そ、そうじゃよ」





一生懸命声色を変えて喋ってみる。
それにヨシヒコはあっさりと騙されてくれた。
けれど、サンタに会えたことをそんなに喜んでいない風で。
首を傾げていると、ヨシヒコはきゅうっと眉を悲しそうに曲げて俺を見た。





「サンタさん、サカモトくんは?」
「・・・坂本くんは、ちょっと用事があって出かけたみたいじゃ」
「サカモトくん、いないの?」
「居ないといえば、居ないなぁ」





俺の言葉に、ヨシヒコは急に目に涙を浮かべ始めた。
口元はへの字で、耳と尻尾がしゅんと元気なく垂れ下がっていて。
ぱたぱたと涙をこぼしながら、俺の名前を呼ぶ。





「サカモトくんっサカモトくん、いないの、やだよぉ・・・!」
「ちょっ・・・泣くなよ」
「サンタさん、おれっなにも、いらない、からっ、サカモトくんいたら、なにも、いらないからっ」
「・・・・・・」
「だから、サカモトくんっ、を、ぷれぜんと、にして・・・っ」





何だかもう居た堪れなくなるくらいに、俺を欲しがるから。
俺は少しだけ泣きそうになりながら、ヨシヒコをぎゅうっと抱きしめた。
長野に忠告された香水、つけ忘れてたのをその時初めて思い出す。
でも、それが却ってよかったみたいで。
くんくんと匂いを嗅いだヨシヒコは、サンタが俺だと気付いたらしい。
サカモトくんだぁ、と安心した風に涙声でそう言って、むぎゅ、としがみ付いてきた。





「うそついちゃ、やだよぉ」
「・・・悪ぃ」
「どこもいっちゃ、やだよ・・・」
「・・・ごめん」
「・・・・・・」
「・・・ヨシヒコ?」





目をやると、くぅくぅと寝息が聞こえてくるのに苦笑する。
どうやら泣き疲れてしまったみたいだ。
ヨシヒコにはサンタは通用しない。
それを頭の中に刷り込みながら、俺は起こさないようにそっとヨシヒコの頭を撫でた。






END
クリスマスということで、勢いで書いちゃいました。
短いSSですが、言いたいことがいっぱいあったSSでもあります。
復活したらまたこの世界のお話はたくさん書いていきたいです。
もちろん、他のシリーズのものも。
・・・あーSS禁断症状だ(笑)
2007.12.25