「こーんにーちわー!」
だんだん!とドアを叩く音で起床。
時計を見ると12時を回った辺り。
普通の人にとってはお昼ご飯の時間だけど。
俺にしてみれば、まだ睡眠の時間だ。
ただでさえ年の所為で肌が敏感になってるっていうのに。
不機嫌かつ寝ぼけ眼で上着を羽織りつつ、玄関に向かうと。
ドアノブがガチャガチャと激しい音を立ててから。






かちり






小気味良い音がして、ドアが開いた。
っていうか。
俺が触らないで鍵開くとか、ありえねぇんだけど。
・・・泥棒?





「どうもー!」
ドアを開けた本人は何食わぬ顔でスマイルをかました。
うわ、眩しい。
思わず目を細めてしまった。
寝起きには眩しすぎるほどの笑顔。
そして横には対比できるほど眠そうな男が一人。
どちらも帽子を目深に被って、郵便配達員の格好をしている。
彼(っていうか見方によれば彼女にも見えないこともない)はキョロキョロしてから首を傾げる。
「あれ?博くんは??」
「博くん?・・・あー、長野か。長野なら隣だよ」
隣に向けて指差すと、彼はぽりぽりと後頭部を掻いて口を尖らせた。
「ありゃ?届け先ここなんだけど」
見せられた小包。
確かに俺の家の住所になってる。
アイツ、俺の住所使って頼みにくいものでも頼んだのか?
「仕方ないなー・・・剛。ちょっと隣のインターホン押せよ」
ふーとため息をつくと、彼はくるりと横を向いてそう言った。
「何で俺がしなきゃなんないんだよ・・・お前だろー」
「いーから。一回押すだけでいいから!」
「うー・・・」
面倒くさそうな表情でよろよろと姿を消した、剛と呼ばれた少年。
一呼吸置いて隣でインターホンの鳴る音が聞こえてきて。
しばらくしてから剛と、これまた眠そうな長野が姿を現した。
よれよれのTシャツとジャージ。
客が見たら泣くな、これ。





「けーん・・・時間考えてきてくれよー・・・」
「ゴメンゴメン☆早い方がいいと思ってさ」
健と呼ばれた少年は言うなり、ぽいっと長野に向けて手に持っていた小包を投げた。
覚束ない様子でそれを受け取った長野は、そのまま俺に向けて小包を放ってくる。





うわ。





「な、なんだよ」
「それ、よっちゃんの首輪だから」
欠伸混じりに言って、へにょん、と項垂れる。


























・・・あー。




















「・・・君が?」
俺が健を見て尋ねると、こくんと自信満々に頷かれた。
「こういうことは得意だからさ!金さえくれればある程度は無理するよ!」
どん、と胸元を叩く健と。
それを眠そうに見つめる剛。
きっと彼も協力してくれたんだろう。
小包をぎゅうっと握り締める。
感謝の気持ちが溢れて、つんと鼻の奥が痛くなった。
「ありがとう。これでヨシヒコは助かる」
頭を下げて礼を言うと。
「仕事だから気にしないで?それに、喜んでくれてよかった」
と、健はにっこりと笑って帽子のツバをきゅっと下げた。
俺はくるり、と長野の方を向いて。
ちょっと恥ずかしさはあったんだけど。
「・・・・さんきゅー、な」
礼を言ってこつん、と肘で小突くと。
長野の目がぱっちりと開いて、にこっと微笑んだ。








































































































































「相変わらず綺麗だねー坂本くん家」
「・・・どうも」
珍しく褒める言葉を貰って礼を返す。
長野はいい。





しかし。





「うわ、ホストってこんなとこ住んでんのかよ」
「すげーすげー!俺たちの事務所より広いんじゃねぇ?!」
はしゃぐ少年×2名、追加。
「どうしてお前らまでついてくるんだよ・・・」
がっくりと肩を落としてため息。
知らない人を家に上げるのが苦手な俺にとって、苦痛以外の何ものでもない。
そんな俺を見て、健と剛はむうっと膨れた。
「さっきまであんだけ感謝しといて、その態度はないんじゃないの?」
「もっと感謝されてもいいくらいだよな」





確かに。
でも、苦手なもんは苦手なんだよ。
「坂本くん、人間には厳しいよね。よっちゃんには甘いのに」
「・・・うるせー」
長野の言葉に悪態を付きながらリビングに足を踏み入れる。
ソファの上で丸まって眠るヨシヒコが見えた時、健と剛はうわ、と感嘆の声を上げた。
「ちっちゃくて可愛い!」
「・・・そうか?」
俺はヨシヒコの襟首を掴み、ひょいっと持ち上げる。
だらーん、と手足を下に垂らしたまま、起きる様子は一切ない。
丸まっていた時には隠れていた顔を見せた瞬間、健は前言を撤回したそうな表情になった。





頭はボサボサ。
口は開きっぱなし。
ついでにヨダレ付き。
超寝汚い。





「だっらしねぇー!」
うひゃひゃと面白そうに笑う剛に。
剛もこんな感じだよ、と長野が笑顔で言い放つ。
「お、俺はこんなんじゃねぇよ!」
「いや、こんなん。ね、健」
「そうそう!そっくりだって剛!」
「うーーーー!!」
形勢は2対1。
これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、剛は口を噤んでしまった。
俺は剛の寝顔を見たことないから、何とも言えないし。
だから、ヨシヒコを起こすことを努めることにした。






「ヨシヒコ、起きろ」
持ち上げた状態で横に小さく振ると。
ぽへ、と細い目が開いた。
「・・・・ぅへー・・・・あさぁ・・・?」
かしかし、と手で目元を擦り、周りを確認する。
見知らぬ人が目に入ったらしく、ピンと耳を立て、じたばたと手足を動かした。
「サカモトくん!しらないひとがいるよ!!」
どうやら覚醒したようなので、そっと下に降ろすと。
ぎゅっと足に抱きついてきたから、優しく頭を撫でてやる。
「お客さんだからいいんだよ、ヨシヒコ」
「おきゃくさん??」
ヨシヒコはそろそろ、と俺の足から顔を離し、振り向いて。
立っている少年二人を見上げた。
人見知りしてるのか、まだ尻尾は振れていない。
俺はヨシヒコの背中を押して挨拶を促した。
「おれ、ヨシヒコ!」
簡潔な自己紹介が終わった瞬間、ヨシヒコは健によって抱き上げられる。
「俺は健!あっちの無愛想なのが剛!よろしくねヨシヒコくん!」
「ヨロシクー!」
「無愛想ってなんだよ無愛想ってよー!」
きらっきらの笑顔に安心したのか、ヨシヒコの尻尾はぱたぱた振れて。
文句を言っている剛の言葉を背に受けながら、ぎゅうーっと健に抱きついていた。












「じゃ、早速お仕事しちゃおっかv」
「そーだな」
健と剛は顔を見合わせて頷き。
その様子をヨシヒコが不思議そうに見ている。
「坂本くん、その包み開けて」
「お、おう」
長野に促されて、手に持っていた小さな包みを開けた。





中から出てきたのは、オレンジ色の首輪で。
そこにはしっかりと『4415』という数字が記されている。
これか。





首輪を手にとって健に手渡すと、彼はそれをヨシヒコに見せた。
ふんふん、と匂いを嗅ぐヨシヒコ。
「これ、なぁに?」
「首輪だよ。ちょっと窮屈かもしれないけど、安全のために付けさせてね」
「アンゼン?」
「坂本くんとずっと一緒にいられるってことだよ、よっちゃん」
にっこりと笑って長野がそう言えば。
ヨシヒコは目をまん丸に見開いて俺を見た。
「ホント?ホントに??」
「あぁ」
頷いてみせたら、ぷわぁっと目がなくなるくらいに笑う。
そんなヨシヒコを見て、笑いながら健は首輪をヨシヒコの首に付けた。






「・・・・はい、終わり!」
「わーい!!」
あっさりと終わった首輪贈呈に、ヨシヒコは健の腕から飛び降りて俺のところにやってくる。
オレンジの首輪が映えて、よく似合っている。
太陽みたいなヤツだし、ぴったりの色だ。
さすが、長野セレクト。
くるりん、と俺の前に立って一回転。






「似合う?似合う??」
「・・・・まぁまぁだな」
「んもーまったくすなおじゃないんだからーそこがアナタらしーんだけどっ」
「・・・・・・・どこで覚えたそんな台詞」
「るすばんちゅうにみたてれび」






どこぞの女に言われた台詞と一緒だったそれに。
俺はぐったりしながらも、安堵のため息をついたのだった。










END
2006.11.19