<S side>
「博!博いるか?!!」
ガンガンと建物のドアを叩く。
昼間、大量の患者を相手にしてるのは知ってる。
だけど、そんなことを思い出す位に俺は冷静さを保ててはいなかった。
「どうしたの坂本く・・・!」
ドアから出てきた博は俺の姿を見て呆然とした表情を見せたから。
その視線を追って自分に目をやると、俺の服は真っ赤に染まっていた。
普段は黒い服を着ているから、気づかなかった。
「だ、大丈夫?!ちょ、早く手当てを・・・!」
「違う。俺は怪我してねぇよ」
「じゃあ誰が・・・!」
俺が言う前に、博の目には快彦が映ったんだろう。
目を見開いて、中の治療台へと俺を促した。
背負った快彦をその上に寝かせる。
「なんで?!なんでよっちゃんが・・・」
動揺が隠せない様子に、
「・・・・すまん」
俺の口からは謝罪の言葉しか出なかった。
「誰がやったの・・・?」
眉間に皺を寄せて尋ねる博に、
「・・・俺の、後輩だ」
と、返事をして下を向く。
けど誰が何をやったかは今はどうでもいい。
だから。
「すまん。・・・快彦を助けてくれ」
言って、深々と頭を下げた。
博はわかってる、と返して部屋のドアを閉めた。
と思ったら、顔だけをひょっこり出して俺の顔を見る。
「坂本くん」
「ん?」
「今人手が足りないんだ。応急処置くらい出来るでしょ?手伝って」
「・・・・あぁ」
この申し出はありがたかった。
快彦から目を離したくないという気持ちが強かったから。
きっと博にはそれが見えていたんだろう。
ありがとう、と小さく口に出すと、ふわり、と博が笑って首を振った。
快彦の治療は10分程度で終わった。
血の量のわりに早い手当てで、それが気になって博に問いかけると。
殺し屋がした仕事にしてはおかしいらしい。
確実に死なないようにナイフが刺さっていたのだと、博は言った。
放っておいたら出血多量で死んでたけど、と言われてぞっとする。
岡田の言葉を信じてよかった。
もし冗談だと鼻で笑っていたら、快彦はもう死んでいたかもしれないのだから。
俺はコイツと共に病室へと通された。
しばらくは安静にしておくこと、と博に念を押され、俺は頷く。
「今日は仕事行かないで、よっちゃんの傍にいてあげなよ」
「・・・・それ、は」
「冗談。俺がついてるから安心して行っといで」
ぽんぽんと肩を叩かれ微笑まれて、心が少し軽くなる。
博が病室を出て行った後。
ベッドの上で規則正しく呼吸を繰り返している様子を見て、今度こそ本当に安堵した。
しかし。
同時に、自分のことを話すということの不安があまりにも大きくて、胸が痛む。
何を言われてもいい、と腹を括ったはずなのに。
快彦が俺を見る目が変わることを酷く恐れている。
人殺しをしているのは確かなのだから、それを正当化はしないけれど。
このまま目が覚めなければいいのに。
そうしたら、快彦の瞳が曇るところを見なくてすむのに。
そんな不謹慎な想いが頭を巡った。
「・・・さかもと、くん・・・?」
うっすらと瞳を開けて掠れた声を出した快彦の言葉にハッと我に返る。
頭を撫でれば、ふわっと嬉しそうに笑った。
「ここ、どこ・・?」
「博の病院」
「ひっくんが治療してくれたんだぁ・・・」
それなら俺死なないね、と言って元々細い目を細める。
「・・・死ぬなんて、言うな」
「・・冗談、だよぉ。本気に、しないでよね・・」
頭を撫でていた手が快彦の手に掴まれ。
ぎゅうっと弱い力で指を絡められた。
「・・・今日は、ゆっくり休め」
「うん・・・あ、剛と健は・・・?」
「無事だ。だから心配すんな」
「んー・・・」
心底安心したという表情で快彦は再び目を閉じた。
「・・・まぁくんが辞めたい理由って、やっぱりイノッチが原因やったんやな」
背後から声がして、バッと振り向く。
そこには壁に背を凭れさせて腕を組んでいる岡田の姿があった。
「お前・・・っ、つけてたのか」
「ぉん。まぁくんなら気づくと思ったんやけど、とんだ買い被りやった」
昔なら絶対気づかれて巻かれてたのにな、とぼやく。
俺だってビックリだ。
後をつけられて気づかないことなんて、なかったのに。
「・・・なんで殺さなかった」
「別に。あの人に殺せって言われたんちゃうし。ただまぁくんの腑抜けっぷりを拝みたかっただけ。想像以上でがっくりきたけどな」
肩をすくめてあっさりとそう言い残念そうに眉を顰め、俺に近づいてくる。
俺は快彦の眠るベッドを背にして、後ずさった。
すると。
岡田はぽりぽりと頭を掻き、ため息をついた。
「あんなぁ。いくら俺でも怪我人相手に手ぇ出したりせぇへんって」
「信用出来ねぇ」
「それに。実はイノッチ意外と気に入ってん俺」
「気に・・・」
「こぉんなアホみたいな力の抜ける顔してる人、初めておうたもん。殺す気なくなってん」
岡田はひょこひょこと足音を立てないようにベッドに近づき。
快彦の鼻をぷぎゅっと抓んだ。
「おいっ」
「起きぃや。寝たフリなんバレバレやで」
「は・・・?」
しばらく鼻を抓まれたままの状態で間が開いて。
「・・・はがががっ、ひょ、ぷぁ」
変な声と共にガバッと勢いよく飛び起きた快彦に、俺は絶句するしかなかった。
「んもー、俺の可愛いお鼻が台無しっ!どうしてそういうことするの岡田はぁー!!」
「あっはっは!ちょ、かわええってこの鼻が?あー腹いたぁ」
頬を膨らませて怒る快彦を岡田はばっしばしと叩いて笑った。
ちょっと待て。
お前らいつの間にそんなうち解けてんだよ。
「・・・快彦、お前寝たフリしてたのか?!」
問いただすと軽く下を向く。
「・・・・ごめん。寝ようと思ったら岡田の声して、起きようにも居心地悪くて、つい」
「・・・・・・」
「だって、殺すとか殺さないとか話してんだもん」
いくら俺でもそんな中で眠れる訳ないじゃん、と快彦は苦笑いをした。
「・・・・あのな、」
覚悟を決めて出した声は喉が詰まったように出づらくて。
それでも、言わなきゃいけない。
そんな俺の気持ちをまざまざと表していた。
逃げ出したい思いは、快彦の真っ直ぐな瞳にかき消される。
「俺は・・・実はこふがっ」
言おうとした俺の口は背後から塞がれた。
岡田の手じゃない、白い手。
「よっちゃんおはよ!んもー坂本くんったら、呼んでくれればいいのに〜」
博のどう見ても引きつったような笑みに、俺は目を泳がした。
と、とりあえず。
とりあえず謝ろう。
「・・・もがむ」
塞がれたまま声を出すと、博の手の力がぎりりっと上がる。
ししし、しまってるしまってる。
いくら俺でも呼吸できないと死んじゃうんですけど。
「ひっくん、坂本くん死にそうになってるよ」
「いいのいいの」
「も、もぐぁー!」
じたばたともがく俺を楽しそうに見ていた博の目線が、不意に別の方を向いた。
「この子、誰?」
「あ、えっと・・・」
「岡田!俺の友達!!」
紹介する前に井ノ原が口を出してきた。
「岡田くんか。ここの医者やってる長野博です」
「あ、ども」
岡田はちらり、と俺を見た後、ぺこりと頭を下げた。
目を細めてそれを見、博は感づいたようだった。
服装が黒ずくめということでもわかったんだろう。
俺を捕まえてた手を緩め、襟首を掴んでにこにこと俺に目を合わせてきた。
こ、怖ぇ。
笑顔のままで声を出さずに唇が動く。
読唇術。
快彦に聞かれたくない話はいつもこれで行なっている。
医者なのにどこでこんな術を身につけたのか、非常に気になるところなんだけど。
『よっちゃんの前になんで同業者がいるわけ?』
『しらん!勝手にきたんだよ!』
『しかもさっきよっちゃんに仕事のこと言おうとしてたでしょ?!』
『うっ・・・・・・』
『今まで俺がフォローしてきた時間も努力も金も体力も無駄にする気?!』
『・・・・すまん』
『俺だってよっちゃんと一緒にいたいんだからね』
『・・・・あぁ』
「なー、そこでなにコソコソ内緒話しちゃってんのー?俺も混ぜてよー!」
快彦は詰まらなさそうに口を尖らせて文句を言い。
それに俺たちは揃って作り笑顔で対応した。
「な、なんでもないぞー」
「そうそうvただの夕食の相談vしっかしまぁた友達作っちゃって。相変わらず無駄に人懐っこいんだから」
「えへへ〜」
博の言葉に照れたように顔を緩ませる快彦。
いや、そこは照れるところじゃない。
馬鹿にされてるところだと思うんだけど、快彦があまりに嬉しそうだから突っ込むのをやめた。
「ぅわ、にっぶー・・・・・ってぇっ!!!」
呆れた口調で岡田が呟き。
言い終わるか終わらないかのところで博がヤツの足を踏んだ。思いっきり。
「なにすんねん!!殺すで!!!」
「殺せるもんなら殺してみれば?悪いけど俺、坂本くんでも殺せないと思うけどv」
にっこりと黒い笑みを浮かべて岡田を見る博。
岡田はちらり、と俺に視線を送った。
「・・・ホンマ?」
「あ?」
「この人、まぁくんでも殺せんって」
「あー・・・」
今度は俺が博に目をやる。
コイツをもし俺が殺すとしたら・・・?
技術的にはわけないと思うんだけど。
失敗した時は終わりだな。
密室に閉じ込められて虫と共に1週間生活とか。
スズランテープでバンジージャンプとか。
博は絶対やる。しかも笑顔で。
思っていると、博と目が合って。
にっこりと微笑まれたんだけど、目の奥が笑ってねぇ。
・・・や、殺る前に殺られる・・・・!!!(滝汗)
「あははは。ひっくんは最強だもんねー坂本くんなんてイチコロだね☆」
話の分かってないであろう快彦はのん気に笑う。
ああ、もう。
コイツは何て鈍いんだ。
道を歩いてて殺されかけて。
それにさっきの話を聞いてりゃある程度想像つくはずなのに。
「それより腹減ったよー坂本くん。今日のご飯はなに?」
「・・・・は?」
えへ☆と聞いてくる井ノ原の言葉に俺は呆然とした。
え、なに。
怪我人じゃなかったっけコイツ。
「今日は石焼ビビンバがいいなぁ〜」
「いい!それいいひっくん!俺も食べたくなってきた☆なぁ、岡田もくるだろ?」
あろうことか自分を殺そうとした主犯人まで誘う快彦。
あ、でもわかってないのか?
ならいい・・・のか?
「ぉえ?!なんで俺まで混ざらなあかんねん!!」
岡田は当然、俺の予想通りの反応を見せる。
「だって友達になったもん。剛も健も呼んで皆で食べようぜー!」
「お、お前一応怪我人なんだからな・・・?」
「知ってる知ってる!ひっくんいるから大丈夫だもん☆」
「痛み止めと睡眠薬、必要だね」
「・・・・・・」
馬鹿だ。
ほんっとに、馬鹿。
のん気な上に、笑顔無料配布中。
快彦の笑顔で周りがみんな笑顔になる。
・・・まぁそれに救われてるんだから、俺も同じようなもんか。
気づいたら病室にいるみんなが笑顔で。
その中心で無邪気に笑っている快彦が幸せそうで。
それだけで満足している俺がいたのだった。
その時の快彦の笑顔に。
色々な想いが込められていることを気づかないくらいに。
END
はい、末っ子登場です。
ちょっと悪役臭くなってしまったんですが、彼はただのまーくん信者で(笑)
変わることで喜ぶ人もいれば悲しむ人もいる。
人の心理って複雑ですねという感じの話でした。
よっちゃんが表面上かなり鈍いアホなキャラになってますが、またそれは次回で。
メンバー揃ったので、そろそろ。
サイドころころ変わって読みづらくて失敗でした。しょぼん。
2006.9.18