<I side>
雨の中。
坂本くんに頼まれた買い物を済ませて。
家路を急いでいた俺の目に飛び込んできた、小さな子。
電柱に寄りかかるようにして体育座りしているその子はまるで猫のようで。
俺は足を止めてそこに立ち止まった。
「おーい。そこにいると風邪引くぞー?」
呼びかけた俺の声にビクッと体を震わせる。
ボサボサになっている髪の隙間から見える射抜くようなまぁるい瞳。
びしょびしょに濡れた体。
着ている服はボロッボロで黒ずんでて。
何歳なんだろ。
俺よりは年下だとは思うけど、男にしたら結構小さい方なんじゃないだろうか。
「お前、どうしたのこんなとこで」
「・・・・・・」
尋ねても何も言わない。
警戒してるみたいな態度。
でも俺、そういうの嫌いじゃないし。
「・・・・ま、いっか。腹、減ってねぇ?」
首を傾げてそう言うと、びっくりしたように俺を見上げた。
何言い出すんだコイツ、って感じ。
俺は買い物のメモを頭で反復してみた。
ひき肉、にんじん、玉ねぎ、ピーマン。
卵にパン粉ときたら、これはもう。
「多分ね、今日はハンバーグだから。坂本くんの、美味いぜ」
「・・・・・・」
言った瞬間、小さく彼の腹が鳴った。
恥ずかしそうに俯く様子に、俺は軽く笑って。
「ウチ来ねぇ?食べるだけでもいいしさ。その後どっか行くなら止めないし」
と、誘いをかけた。
「・・・・・いいのかよ」
「お、やっと口聞いたな。いーのいーの。その代わり、教えてよ」
「何を?」
「名前。何ていうの?俺、井ノ原快彦っていうんだ」
自分を指差して名乗ると。
彼は下を向き、しばらく間を置いた後で。
「・・・・・・剛」
ぽつり、とそれだけ剛は呟いた。
「剛か。カッコイイ名前だなー!」
「・・・・・そうかな」
剛は照れた風にほんのり笑って言った。
「そうだよ!じゃあ剛、改めて。ウチ来いよ」
言って、剛に向かって手を差し伸べる。
「・・・・・・・・・ん」
言葉数は少なかったけど。
確かに頷いて、剛は俺の手を取った。
「快彦。オマエなー」
家に剛と一緒に帰った俺に、坂本くんは呆れたような言葉を投げかけた。
「2週間前は猫、この間は犬。そんで今日は子供まで連れて返ってきたのかお前は」
言われて気まずそうにする剛。
「いいじゃん。腹減らして雨の中座ってたんだぜ?見捨てられるわけねぇだろ」
「・・・・・・まぁな」
「それに剛は俺の友達なの!友達招待して何が悪いのさー」
「わぁかったよ」
さっさと風呂に入って着替えちまえ、と坂本くんは俺たちを促した。
バタン、とドアが閉まる。
もそもそと服を脱ぐ剛を見て、一つ気づいたことがあって。
俺は閉まったドアを開けて坂本くんに声をかけた。
「ねぇねぇー!剛の着れる服、ウチにないじゃーん!!」
すると、彼はぱたん、と携帯電話を閉じながら俺の方を見た。
「今長野に持ってくるよう頼んどいた」
そういうところは抜かりないんだよな。
猫拾ってきた時もちゃんとご飯とかトイレとか用意してくれたし。
もちろん、犬の時も。
なんだかんだ言って結局世話焼きなんだ、坂本くんは。
そういうところが好きなんだけどさ。
「井ノ原くん」
「んー?」
呼ばれて振り向けば。
すまなそうな表情の剛がいた。
「・・・・・・ごめん。俺のせいで怒られてた」
「いいんだって。別に剛が悪いわけじゃないし。俺が勝手に来いって言っただけだし」
それにね。
あの人ああ見えてすっごくいい人だから。
怖い顔してるし、あんまり愛想よくないけどさ。
俺もあの人に助けられて今を生きてるから。
だから。
嫌いになったりしないであげてね。
言った俺の言葉に。
剛はちょっと考えてから、こくんと首を縦に振った。
お風呂から上がると、長野くんが来たみたいで。
丁寧にタオルの上に俺たちの着替えが置いてあった。
それを着た剛を見て、びっくりした。
少したぼっとしたパーカーとパンツがやけに似合っている。
長野くん、サイズ間違えたのかな。
ってか、サイズなんて元々わからないか。
どんな体型でも合うように子供用の少し大きめのサイズを選んできたのか。
服装はまぁいいんだけど。
あんだけボロボロでドロドロだった剛が。
「お前、綺麗になったなー!」
「お世辞なんていらねぇよ」
「お世辞なんて言わないもん。ホントに思ってないと言わない」
「・・・・・・・そうかよ」
照れたようにそっぽを向く剛。
可愛いなー。
こんな弟がいたらいいのに。
「・・・・井ノ原、くん」
「なに?」
「目、なくなってるよ」
「ええっ?!・・・ってこれは元々細いのーっ!!」
膨れてそう訴えれば、ぶはっと吹き出して剛が笑った。
彼が思いっきり笑ったのが初めてだったから、俺もすっごく嬉しくなっちゃって。
一緒になってたくさん笑った。
居間に戻ると、テーブルの上に夕食が用意されていた。
俺の予想通りのハンバーグ。
既に長野くんは両手にフォークとナイフを持って準備万端。
「ひっくん、いらっしゃい!」
「お邪魔してるよ、よっちゃん」
にっこりと笑って、長野くんは会釈をし。
剛を見てきょとんとした表情をした。
「その子、誰?」
「あ、コイツ俺の友達。剛って言うんだ」
俺が紹介すると、剛は愛想なくぺこりと軽くお辞儀をした。
さっきまで笑ってたのに、やっぱり初対面の人には警戒を解かない。
かなりの人見知りみたいだ。
「快彦。さっさと座れ」
エプロンを外しながらそう言う坂本くんに、俺は頷いてみせる。
「剛は俺の隣でいい?」
「ん」
イスを引いてやると、剛はそこに腰を下ろした。
俺も座って、坂本くんも席につく。
その瞬間、長野くんはいただきます、と言ってフォークとナイフでハンバーグの解体を始めた。
切った途端にあふれ出す肉汁を見て、長野くんが感嘆の悲鳴をあげる。
「うっわ、今日もさすがだね坂本くん」
「下手なもの作ると後が怖いからな」
「わかってんじゃんv」
にっこりと笑う長野くんから目をそらし、坂本くんは黙々とハンバーグを口に運ぶ。
隣を見ると、口いっぱいにハンバーグを詰め込んでいる剛がいた。
「剛、そんな急いで食わなくてもなくなんないって!」
「・・・・もご・・・っげふげふっ」
むせ始めた剛を見て、坂本くんはすっと水を差し出す。
剛はそれを一気に飲み込んで、ぷはっと息をついた。
「・・・あー・・・・美味ぇ」
ぼそっと呟くように言った一言は本人が言ったのも気づかないほど自然だったらしく。
剛はぼわっと顔を赤く染め。
坂本くんも嬉しそうに目を細めた。
「美味いだろ?坂本くんの飯は全部美味いんだぜ」
笑って言うと、剛はハンバーグを見つめて。
「・・・・アイツにも食わしてやりてぇな」
と、小さく口に出した。
「アイツって?」
「・・・・・俺の友達」
健っていうんだ、と剛は教えてくれた。
「剛の友達は俺の友達でもあるんだから、今度連れて来いよ」
「おい、快彦」
誘おうとすると坂本くんに制される。
「なに?」
「誰でもホイホイ誘いかけるんじゃねぇ」
「いいじゃん。友達は大事にするもんだって言ったの坂本くんでしょー!」
「・・・・・・・・友達、か」
言い合いをしていた俺の横で遠い目をして剛がそう言った。
「そ!友達の友達は友達!」
「わけわかんないよ、よっちゃん」
「招待してもいいが、その分お前の食費からいただくからな」
「ええっ?!勘弁してよー?!」
俺たちのやり取りに、剛は本当におかしそうに笑った。
<M side>
井ノ原くんに泊まるところを聞かれて。
別に野宿でも構わないって言ったんだけど、危ないからとか言われて無理矢理家に泊められた。
まぁ、そっちの方が好都合なんだけどね。
俺は泥棒だから。
剛は俺のとなりな、なんて嬉しそうに言っている彼。
どうやら俺はかなり気に入られたらしい。
嬉しくないと言えばウソになるけど。
どっちみち、もう会えなくなるんだから。
次に会った時はきっと、笑顔でなんていられないんだから。
好かれようと嫌われようと一緒だ。
井ノ原くんはしばらく俺と話してたんだけど、眠くなったのか急に静かになった。
俺も目を閉じて眠ったフリをする。
まだ、二人が起きてる。
彼らが寝静まったところを狙わなくちゃ。
薬代、もうなくなっちゃったから。
失敗は許されない。
寝たふりをしていた俺の耳に、微かに入ってくる、声。
あの二人の会話か。
ふんわりとコーヒーの匂いが漂ってくる。
俺は耳を欹てて聞き取ることに集中した。
「今日は何人?」
「・・・・6・・・いや、8人だ」
「ちょっと多くない?」
「全然。許容範囲だよ」
「・・・ならいいけど」
「今回は少し遅くなるから、お前は泊まってけ」
「わかった。朝起きて坂本くんがいなかったら、よっちゃん町中探しかねないもんね」
「おう。・・・・悪いな」
「いいよ別に。お仕事、でしょ?」
「ああ。頼む」
「はいはい。気をつけてね」
「・・・・そうだ。明日は何がいい?」
「そうだなぁ・・・久々にビーフシチューが食べたいな」
「わかった。用意しとく」
「うん。・・・・・・あ、時間じゃない?」
「そうだな。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
長野くんと呼ばれていた人の声がした途端。
部屋から一人の気配が消える。
音もなくどうやって外に出て行ったんだろう。
しかもこんな時間に「仕事」なんて。
俺と似てるな。
人の来る気配がして、俺は寝返りを打って体制を整えた。
薄目を開けて様子を伺うと、彼は井ノ原くんの布団をそっと直して頭を撫でている。
彼を見る瞳は、とても優しげで。
男の人なのにお母さんみたいだ、なんて思っちゃった。
今度は俺の方にも近づいてきて、俺の布団も直してくれる。
「・・・・子供が二人になった」
俺の頭上で小さくそう言って、微笑んだ気配がした。
彼が布団についてから1時間。
安定した寝息を繰り返す二人を確認して、俺は体を起こした。
キョロキョロと辺りを見回してから、音もなく布団から抜け出る。
そして居間に足を運び、戸棚を開け詮索を始めた。
金のありそうなところは熟知してる。
2,3箇所探りを入れると、案の定ヒットした。
3つの通帳があって、2つは坂本名義、もう一つは井ノ原名義のものだった。
坂本名義の通帳は大した額が振り込まれてはいない。
だけど、井ノ原名義の通帳にはかなりの額が振り込まれていた。
なに、あの人ああ見えてすげぇやり手だったりすんのかよ。
通帳は暗証番号が必要だから、いらない。
俺は現金が欲しいんだ。
がさがさ漁っていると封筒が出てきた。
中身は数万円。
5枚くらいあるかな。
今の俺にはこれくらいで十分だった。
これで薬代もどうにかなるし、アイツにもいいもの食わしてやれる。
それを懐に突っ込んで玄関から出ようとした、その時。
「それ持ってどこ行くの?」
と、背中から声をかけられて全身に鳥肌が立った。
バッと振り向けば、腕を組んで壁にもたれかかっている長野くんがいた。
俺は慌てて構える。
「・・・・いつからいたんだ?」
「君がその戸棚を開けた位からかな」
のほほん、とした口調で言われ、驚いた。
気配はなかった。
音も全然しなかった。
職業上、どんな小さな音や気配も聞き分ける自信があるのに。
「・・・アンタ、一体何者なんだよ」
「俺?俺はフツーの医者だよ」
「ウソだ。気配消して俺に近づけるなんて、普通じゃねぇ」
睨みつけながら言ったんだけど、彼の表情は変わらなかった。
ずっと、笑顔。
でもその奥が笑っていない気がして、ぞくっとする。
「どうして盗んだの」
「・・・・聞いてどうすんだ」
「ただ興味があるだけだよ。情けをかけるつもりはない」
きっぱりとした彼の態度に俺はため息をついた。
多分、言わないでここを出て行くなんて許されないのだろう。
「・・・・薬代が欲しかったんだ」
言うと、長野くんは何も言わずに俺に目を向けた。
「俺もそいつも親がいなくて。小さい頃からずっと一緒で。そいつだけはなくしたくねぇんだ」
たった一人、俺のことをわかってくれるやつ。
アイツだけは信用できる。
ずっと、一緒だった。
悲しみも、苦しみも、喜びも。
そいつが今病気で苦しんでるっていうのに、俺には何も出来なくて。
働こうとしても、年が年だから雇っても貰えず。
どうしようもなくて、盗みをすることを選んだ。
それしかなかったんだ。
悪いことだとは分かってても。
それ以上にアイツの力になりたくて。
苦しみを和らげてやりたくて。
・・・それだけだったんだ。
「・・・・どこにでもありそうな話だね」
冷たい彼の言葉に胸を突かれ、唇をかみ締めて下を向く。
確かに、こんな出来すぎた話なんて誰も信じてくれないと思う。
でも、これは真実で。
泥棒を肯定するわけでもなく。
誰かにわかって欲しいなんて思わないけど。
「ごう」
長野くんとは違う声。
井ノ原くん。
聞かれてたのかと思うと、くん、と鼻の奥が痛くなった。
彼には知られないままでいたかった。
あんだけ俺のことスキだって言ってくれてたから。
その人が今どんな目をして俺を見てるのか。
見たくなくて顔を直視できずにただ俯いていたら。
不意に。
ぎゅうっと抱きしめられた。
「友達の病気、治るのか?」
本当に心配してくれている声色に。
俺の涙腺は緩み。
思いっきり井ノ原くんの服にしがみついた。
「・・・ぅっ・・・わかんね・・・っ・・・でもっ、シュジュツすれば治るって・・・」
でも手術には金が要り様で。
ホケンとかそういうのに入ってない俺たちにとっては莫大な金で。
「いのはらくん・・・・っおれっ・・おれどうしたらいい??」
目の前で友達が苦しそうにしてて。
お金がないとどうしようもなくて。
泥棒したら周りから酷く責め立てられて。
仕事も子供だから出来ない。
親も気づいた時にはいなかった。
二人で生きてたから知り合いもいない。
「どうしようもないって・・・わかってんだよぉ・・・っ」
でも。
アイツがいなくなったら、俺、今以上にどうしようもなくなるから。
俺の話を井ノ原くんは真剣に聞いててくれて。
戸棚をごそごそ漁ると、自分の名前の通帳を取り出した。
「これ、やる」
「・・・ちょっと、よっちゃん!」
険しい顔をして慌てて止める長野くんの手を、井ノ原くんはバッと振り払った。
「番号は0517。・・・今紙に書いてやるからちょっと待っとけ」
ぽんぽん、と肩を叩かれて優しく微笑まれる。
なんで。
「なんで、信じてくれんの・・・?」
長野くんみたいな反応が普通だった。
ああやって言われて。
子供なんだからと手加減されて殴られて。
ボロボロになって健のところに帰るのが普通だったのに。
言ったら、井ノ原くんは一瞬キョトンとした後。
「だって、友達だもん」
と、当たり前のように返してきた。
友達。
小さくその言葉を繰り返してみる。
初めて言われた。
井ノ原くんが初めて俺に言ってくれた言葉。
「それに俺、剛がウソつくヤツだなんて思えないんだよね」
意外と人を見る目はあるんだから、と井ノ原くんは笑って見せて。
俺の手に通帳と、暗証番号を書いた紙を手渡した。
途端。
それを横から長野くんに奪われた。
「ひっくん!なにすんだよー!」
「俺は信用できない。剛がこれを持って戻ってくるとは思えない」
「俺が信じてるからいいの!それにひっくんは死にそうな友達を見殺しに出来んのかよ?!」
「別に見殺しにするなんて言ってないじゃない」
「だって、剛にそれを持たせるつもりないんだろ??」
「そうだよ」
「だったら同じじゃんよ!」
半分泣き出しそうな顔で食って掛かる井ノ原くんを見て。
長野くんは大げさなほどにため息をついた。
「・・・よっちゃん。俺を誰だと思ってるの」
「・・・・・・・・・・・・・・あ」
井ノ原くんはかなりアホっぽい表情で口をあんぐりと大きく開けた。
なんだ?
長野くんは長野くんじゃん。
そう思った俺を見つめ、井ノ原くんはにっこりと笑う。
「剛ちゃん、良い医者紹介するよ」
「え?」
「ひっくん、お医者さんなんだ」
「あ」
そういや、それ俺もさっき聞いた気がする。
思わず長野くんを見上げれば。
「今なら井ノ原プライスでご奉仕したげるよ」
と、満面の笑みで返された。
数ヵ月後。
長野くんの手術を受けた健は無事退院した。
俺は会いたい会いたいと五月蝿い井ノ原くんを連れて、健を迎えにいった。
「けーん」
呼んで手を振ると笑顔で駆け寄ってくる。
「剛!・・・と、この人誰?」
不思議そうな顔をして尋ねてくる健に説明しようと口を開く前に。
「俺、井ノ原快彦!剛の友達だからよろしく!!」
と、井ノ原くんが先に喋りだしてしまった。
「と、ともだち?この細目が??」
「細目ってなんだよぉ!せめて切れ長って言えよぉ!!」
健の毒舌に本気で口を尖らせる。
あの時の面影、全然ないんだけど。
かっこいいとか思っちゃった俺が馬鹿みたいじゃん。
「細目は細目でしょ。ねぇ剛」
「おう」
「剛ちゃんまで・・・!酷いっ剛ちゃんってそんな男だったのねー!!」
両手で顔を覆って泣き真似をする井ノ原くんに。
「どこのオカマだよお前は」
と、健が絶妙なツッコミを入れる。
「健ちゃん、可愛い顔して言うこと酷い・・・」
「だって井ノ原くんが馬鹿みたいな喋り方するからだろー?」
「アナタねー、誰のおかげで病気治ったと思ってんの?」
「もちろん剛でしょ。俺のためにお金集めてくれてたんだから」
ね?と言われてうん、と頷けば。
井ノ原くんはかっくんと大げさなほどにがっかりしたリアクションをした。
「ありがとね、剛」
井ノ原くんを無視して健が俺にそう言う。
おう、と頷いたら、井ノ原くんがまた騒ぎ出した。
「俺は?ねぇ俺はー?」
「わーかったよ。井ノ原くんもありがと!」
あまりのウザさに健が折れた。
お礼の言葉を聞いた瞬間、ぷわぁっと笑顔になる。
「よっしゃー!今日は健ちゃんの退院祝いしようぜ!!」
「どこでするんだよー」
「俺んちに決まってんだろ?」
「あそこ井ノ原くんの家じゃないじゃん」
「いいの!俺が住んでるんだから俺んちなの!」
行こうぜと意気様々に歩き出す井ノ原くん。
その後ろを俺たちは並んで付いていく。
「剛」
「ん?」
「井ノ原くんって、いい人だね」
ちょっとウザいけど、と健が笑ってこっそり俺に言った。
「うん。俺もそう思う」
頷いて、笑い合う。
幸せって、きっとこんな感じなんだろうなって。
思いながら前を見たら、井ノ原くんが急かすように俺たちに向かって手を振っていた。
彼の肩越しに見えた青空は。
今まで見た中で一番透き通っていて、綺麗だった。
END
イノセンス双子話でした。
どっちみち兄弟みたいになってしまうのねという感じですかね。
元々トニセンだけだったんですが、カミっこたちが出ると三男が生き生きするので(笑)
さて、残りは末っ子だ。
どういう形で出すかは決まっているので、頑張って書いていこうと思います。
2006.9.5