09:大きな手
幼稚園からの帰り。
准一はいつも快彦と手を繋いで帰る。
一度ふらふらとどこかに行ってしまった前科があるので、しっかりと。
「准ちゃん、幼稚園どうだった?」
「あんな、きょう、ほんよんどったん」
楽しそうにそう話す准一に、快彦は目を見開く。
「・・・昨日も読んでなかったっけ?」
「よんどったよ。でもきょうもよんどったん」
えへへ、と笑う弟。
幼稚園児といえば外で鬼ごっことか、砂遊びとかじゃないのかなぁと思いつつ。
准一は頭いいんだなぁと褒めれば、喜ぶ。
「よしくんは、ほんよまへんの?」
「今は読んでるけど、お前くらいの時は全然読んでなかったなぁ」
「ふーん」
マイペースな准一はぴたり、と会話を切ってしまう。
それにお喋りな快彦は耐えられず、口を開くのだ。
けれど。
たまには准一から話して欲しいなぁとひっそり思い。
快彦は黙って准一が口を開くのを待ってみた。
「・・・・・・・・」
「・・・・なにしてるん?よしくん」
「なにがー?」
「てでくちふさいで・・・・くしゃみするん?」
「違うんだよ。俺どうも喋っちゃうからさ」
「よしくんはそれがええやん」
「・・・・そっか?」
「おん」
「でも俺たまには准ちゃんから話しかけて欲しいなーなんて思ってるんだけど」
いっつも俺ばっか話してるもん、と口を尖らせる快彦を見て。
准一は少し考えて、口を開いた。
「おれも、よしくんみたくなれるかな」
おっきくて、やさしくて、太陽みたいにほかほかしてる人になりたい、と。
言って准一はぽわ、と笑った。
それを見て快彦は、褒められた事と彼のあまりの可愛さに思わず赤面する。
「な、なぁに言ってんだよぉ。照れるじゃん」
「ふふ。・・・あんなぁ」
「うん?」
「おれ、このてすきやねん」
「手?」
「おん。よしくんのてはあったかくておっきくてほかほかしてんねん」
指先はギターを引いている所為で堅くなってるけど。
いっつも繋いでくれるこの手が好きだと、准一は言った。
「・・・・そっか」
「おん」
にっこにこしながら言う准一を見て、快彦は昌行の手を思い出した。
一人になんてしないと、繋いでくれた手。
恥ずかしがり屋の彼はあまり手を繋いでくれないけど。
大きくなった俺は手を繋ぐ機会を失ってしまったけれど。
あのぬくもりは、ずっと忘れない。
「・・・・まぁくんの手もおっきくてあったかいぜ?」
「そうなん?」
「おう。俺、大好きっ」
>お兄ちゃんの手はおっきくてやさしいのです。
2006.8.12