06:負けないで
「どうしたんだ、剛?!」
昌行の声が喫茶店中に響いて、ざわり、と店内の雰囲気が変わる。
慌てて口元を押さえ、弟の姿をもう一度見た。
顔中は擦り傷だらけで、両膝からは血が流れている。
「なにかあったのか?」
今度は小さな声で聞くと、剛はふるふると首を横に振った。
「なんでもないから」
そう言って店の奥に入っていった。
昌行は追いかけて怪我の治療をしたかったが、手が離せず。
ちょうど料理を取りに来た博にその役目を頼んだ。
「剛」
おいで、と博が手招くと、素直に近寄ってくる。
博は救急箱を取り出し、中に入っている消毒液や絆創膏を手に取った。
「いってっ!!」
消毒液が傷口に染みたのか、思わず声が出る。
「これくらい我慢しなよ。男の子でしょ?」
「・・・・・うー」
痛がる剛を制して、何箇所もある傷口全部に絆創膏を貼っていく。
傷の原因はだいたい察しがついていた。
剛は口が上手くないから、よく誤解されるのだ。
そこから喧嘩に発展することが多いんだけど、今回もきっとそうなのだろう。
何も言わないでいるところを見ると、理不尽な喧嘩だったのかもしれない。
喧嘩の強い剛にしてみれば、かなり酷い怪我だ。
同情が嫌いで。
心配されるのが嫌いな、意地っ張りな弟。
だから。
「剛」
「・・・・なに?」
「負けるな」
「・・・え」
「自分が正しいと思ってるなら、負けないで戦えよ」
「・・・・・・うん」
そんな彼に俺が出来るのは。
精一杯のエールを送ることなんだ。
>しかしあまりに酷いともれなく博が笑顔で報復しに行きます(笑)
2006.8.12