28:お迎え
突然、学校で呼び出しをくらった。
何なんだろうとビビリながら職員室へと急ぐ。
そうしたら、家族から連絡が入ったとか何とか言われて、受話器を渡され。
もしもし、と出た瞬間、耳に刺さるような声。
『剛ちゃーーーーんvv』
うわ、快兄。
「・・・・・切っていいか」
『ちょっ、ちょっと待って待って!お兄ちゃんがせっかく電話したのにそんな冷たい態度取らなくてもいいじゃなーい!』
慌てたような、拗ねたような声。
ほんっとどうしてコイツはこんなに元気なんだろう。
ウザいを通り越してある意味尊敬に値する気がするんだけど。
「なんだよ。早く用件を言えよ」
『んもー剛ちゃんってばつれないんだからぁ!昔はよっちゃんよっちゃんって健ちゃんと一緒に俺の後ろついてきて可愛かったのにー!
ってか今も十分可愛いんだけどvそんなツンデレなところが剛ちゃんらしいんだもんvよっちゃん惚れちゃうvv』
「・・・本気で切るぜ」
『わ!切らないで!ホント困ってるんだから!!人の話聞いてよー!!!』
「俺は聞いてんだよ!お前が余計なことばっか言うからだろっ!!」
思わず怒鳴っちゃったもんだから、職員室はしん、と静まり返り、俺の顔は真っ赤に染まる。
快兄の馬鹿・・・!!
『あのねー、今日よっちゃんちょっと・・・あのー・・・・用事!そう用事出来ちゃって。友達に誘われてどうしても断れなくってさぁ』
怒鳴りつけた当の本人はヘラヘラと普段と変わらない態度でそう言った。
ってかコイツの用事なんてどうだっていいんだけど。
「で、俺に何しろってんだよ」
『よくぞ聞いてくれました!!剛ちゃーーん、准のお迎え頼んでいい?』
多分俺行けそうもないんだよねー、という言葉に。
俺はため息をついた。
准の迎えに代わりに行ってくれって言えばすぐに済むのに。
どんだけ余計な話多いんだよ快兄・・・!
「わかった。じゃあな」
『ちょっ、それだけー?よっちゃん剛ちゃんともっと話したいんだけどー!』
「ヤダ。家でしろよ。ばいばい」
快兄の次の言葉が聞こえる前にぶっちんと通信を切った。
「けーーん」
俺は遠くで友達と話している健に声をかけた。
それに気づいてぱたぱたと忙しなく近づいてくる。
「どしたの、剛」
「今日准の迎え行けって」
「えー!俺今日用事あるもん、剛が行ってよ」
「・・・・一人で?」
「道分かるでしょー?スーパーのすぐ近くだし、頼むよー!」
「・・・・わかった」
頷くと、あんがと!と背中を叩かれ、健は友達のところに戻っていった。
一人で幼稚園に迎えに行くのは初めてだ。
っていうか、幼稚園に迎えに行くこと自体が久しぶりかもしれない。
4年前にいた場所ではあるんだけど。
どうも行くのが恥ずかしい。
先生方はみんなそのまま続けてるみたいだし。
入れ替わっててくれるとありがたいんだけど、なんて感じる。
健がいればそれも紛れるかな、なんて思ったりもしたんだけど。
アイツも用事あるみたいだし仕方ないか。
俺は覚悟を決め、ランドセルを背負った。
「懐かしいなー・・・」
俺は幼稚園の門の前に立ってそう呟いた。
ここに通ってた時も快兄に送り迎えしてもらってたっけ。
お前らいい子にしてんだぞ、って言った快兄に先生が君よりはずっといい子たちだから、って突っ込んだことが忘れられない。
・・・誰先生だっけそれ。
確かすっげぇカッコよくてお母さんたちに絶大な人気を持ってた先生だったはずだけど。
あ、そうそう。
ああやって人だかりが出来てて・・・。
あ。
「あれ?剛じゃないか!」
おーい、と人の波の中からぶんぶんと手を振られ。
人の間をかき分けるようにしてこっちに近づいてきた。
ああ、あの人あの人。
確か。
「東山、先生・・・?」
・・・だっけ?
確信がないから恐る恐る口に出すと、ぱぁっと笑顔になった。
うっわ、こうやってじっくり見るとこの人格好いいなぁ。
こんな人が兄貴だったりしたらすっげぇ自慢になるだろうな。
目が細いけど快兄とは大違いだぜ。
「そう!久しぶりだねぇ。元気だったかい?大きくなったなぁ」
「は、はい」
思わず敬語で返事をするとぱすぱす、と頭を叩かれた。
「そんな固くならなくていいよ。今日はどうしたんだい?」
「あ、准の迎えに来たんっすけど」
そう言うと、ああ、と頷かれ。
こっちだよと誘導されて幼稚園の中に入っていく。
「よっちゃんは用事かなんか?」
「はぁ。なんかそんなようなこと言ってました」
「そうかぁ。彼も大変だねー」
「ぜんっぜん。元気すぎてウザいっすよ」
「あっはっは!・・・あ、あそこ。准ちゃーん」
東山先生が手を振った先には、本を読んでいた准がいて。
顔を上げて俺を見つけると、読んでいた本を下に置いて駆け寄ってきた。
「ごうくーーん!」
がばっと勢いよくしがみつかれ、一緒に後ろに倒れる。
「・・・おー」
「きょうはごうくんがむかえにきてくれたん?」
「そうだよ。快兄用事だってさ」
言うと、准は急に目を丸くして頬を膨らまし。
「よしくんなんて、しらへん!」
と言うとそっぽを向いた。
あれ。
「どうしたんだ?」
「しらへん!」
ぷいっと黙秘を続ける准。
その様子を見ていた東山先生は困ったように笑って俺たちの傍にしゃがんだ。
「今日はずっとそんな感じ。どうしたんだろうねぇ」
「うーん・・・」
俺は朝起きた時から記憶を思い返してみる。
低血圧だからそんなにハッキリとは覚えてないんだけど。
確か。
「・・・・快兄が准のプリン食ったから?」
尋ねると、准はこくん、と首を縦に振った。
あー。
「それはダメだな。食べ物の恨みは恐ろしいんだから」
ね、と東山先生は准と俺に同意を求める。
そ、それって博兄と同じじゃんよ。
あーもう。
ここは俺が何とかフォローしてやるか。
後で快兄になんか奢ってもらうとして。
俺は准の顔を覗きこむような体制になった。
「准。快兄のこと許してやろうぜ」
「・・・いやや」
「きっと今日ちゃんと買い直してきてくれると思うよ?」
友達との用事なんて言ってたけど、きっと。
快兄は准のこと大好きだから。
ごめんってたくさん言ってたんだから悪いことしたなって思ってる。
だから本当は幼稚園に気まずくて迎えに行けなかったんだろう。
それを俺に押し付ける辺りが筋違いってもんだけどさ。
「・・・ほんま?」
「おう。だから、許してやろうな」
「・・・おん!」
こっくんと首を縦に振る准を俺はぎゅうっと抱きしめ。
東山先生はにこにこと笑いながら俺たちを見ていた。
そうしたら。
背中から笑い声がして。
振り向いたら東山先生とまた違う先生の姿があった。
「かっちゃんせんせー!」
准がそう呼んで、やっと思い出す。
植草先生だ。
「お前ら、上の兄弟と同じだな」
「上の兄弟?」
「昌行と博と快彦だよ。この図、昔も見たことあるよな?」
植草先生が東山先生に尋ね。
「そういえばそうだなぁ」
と、東山先生も同調した。
「あの時は昌行が快彦のドーナッツを食べちゃったんだっけ?」
「そうそう。それで博が仲取り持ったんだよ」
懐かしむように話し始める二人。
俺と准はどうしたらいいのかわからず、二人を見上げていた。
すると。
「ほんっといい家族だな、剛」
と、植草先生がしみじみと笑顔で言い。
こっくんと頷くと、東山先生が俺と准の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。
准と手を繋いで外に出ると。
よく知っている人影が見えた。
両手に大きな買い物袋を持って、ウロウロしてる。
居心地の悪そうな様子。
「快兄」
俺がそう言うと、准は顔を強張らせた。
快兄は俺の声に気づき、今にも泣き出しそうな顔をしてこっちに走ってきた。
「准ちゃんごめんっ!」
ホントにホントにごめんね、と頭を下げる快兄。
准はそれを見て困ったように俺を見るから。
そっと背中を押してやる。
快兄はハッとし、がっさがさと袋の中に手を突っ込んで。
俺たちの目の前にバッと差し出した。
「あ!ぷりんや!」
嬉しそうに声を上げる准。
ほら、やっぱり。
「ちゃんと探して買ってきたんだよー!」
がっちゃがっちゃと片方の袋を鳴らす快兄。
おい。
ちょっと、それ全部プリンとかいうわけはないよな・・・・!
昌兄に頼まれた買い物であることを祈りたかったんだけど。
袋の隙間からプリンらしきものが見えちゃったから、俺は見なかったことにしようと思った。
「ええのん?これじゅんのん?」
大きなプリンを両手で持って、快兄を見上げて尋ねる准に。
快兄はぶんぶんぶん、と首を縦に激しく振った。
「そうだよーゴメンね准ちゃん・・・」
「ううん。ええの。じゅんもごめんな。よしくん、こうてきてくれてありがと!」
「准ちゃん・・・!!」
もう大好きー!と快兄は買い物袋を下に落とし、思いっきり准を抱きしめた。
苦しそうにしながらも准も嬉しそうで。
それを見て俺も笑ってたら。
不意に、目の前の景色が下に移動した。
「うわ」
「剛ちゃんもありがとーーー!大好きーーー!!」
下に快兄、横に准の顔がそれぞれ見えた。
泣いてやがんの、快兄。
よっぽどショックだったんだろうな。
でも、仲直り出来てよかったな。
「おー」
はにかみながらもそう返事をすると、
「じゅんはーじゅんはー?」
なんて、准が膨れ始めたから。
快兄はもう嬉しいんだか泣いてるんだかわかんない顔で叫んだ。
きっと、嬉しくて仕方ないんだろうけど、さ。
「准ちゃんも剛ちゃんもだーーーーっいすきっvvvv」
その後。
プリンを無駄に買ってきたことと。
昌兄から頼まれてた買い物の中の卵がぐっしゃぐしゃになっていたことで。
快兄が上の二人にこっ酷く叱られたのは言うまでもない。
まぁ毎日の朝食にプリンがつくようになったから、俺と健と准はすっごく嬉しかったんだけどね。
>お迎えのはずが仲直りになっちゃいました(笑)
2006.9.2