26:弾む会話って
この家のムードメーカーの、快彦。
彼は今日から修学旅行である。
朝早くでかけていく彼は家族全員を起こし、一人ずつをぎゅうっぎゅうに抱きしめ。
准一にいたっては広いおでこにキスまでして。
寂しい寂しいと泣き真似付きで連呼しながら家を出て行った。
本当に家族が大好きなヤツだな。
寝ぼけ眼で家族全員がそう思いながら彼を見送った。
今日は日曜日。
まだまだゆっくり寝ていられる双子と准一は部屋に戻り。
昌行と博はちょっと早い朝の仕込みを始めた。
「あー・・・何か静かだな」
「まぁね。一番五月蝿いのが出かけてったからね」
朝からブラック発動の博に軽く恐怖を感じる昌行。
しかし、わかっているのだ。
五月蝿い子が一人でもいなくなると、余計寂しくなることが。
「そういや、剛と健がお泊り会に行った時もこんな感じだったな」
メインの仕込を早々と終わらせ、作業を進める昌行はそう呟いた。
博はボールにラップをかけながらうん、と頷く。
「あの時はよっちゃんも珍しく静かだったしね」
双子がいなくて一番寂しがるのは三男の快彦だった。
いつ帰ってくるの?もうすぐ?と小さな子供のように家族にしつこく聞いて回っていたけれど。
食卓を囲む頃にはしょんぼり項垂れていて。
准一が頭を撫でて慰めていたことが記憶に残っている。
たった、1日泊まってくるだけなのにこの騒ぎである。
今回は5泊6日の長期旅行。
ほぼ1週間快彦が家にいないことになる。
「剛と健の反応が楽しみだねぇ」
にんまりと楽しそうに笑う博。
それを見ながら、昌行はこっそり博の反応も楽しみだと思った。
基本的に皆が皆大好きなのだ、この家族は。
「あれ?」
最初に異変に気づいたのは剛だった。
夕食の用意されたテーブルを見て首を傾げ。
ぱたぱたとキッチンに走っていく。
「昌兄ー」
「なんだ?剛」
小さなお皿に味噌汁を入れて味を見ていた昌行は、剛の声に振り向いた。
剛はテーブルを指差し、気づいたことを口にする。
「お茶碗、6つあるけど」
「・・・・あ」
いつもの癖で出しちゃったな、と気まずそうに昌行が頭を掻き。
それを見た剛はぶはっと吹き出した。
「な、なんだよー」
「昌兄、快兄いなくて寂しいんだろ」
剛の言葉にうっ、と詰まる昌行。
顔が真っ赤に染まっているのを、見逃すはずもなく。
「うっひゃっひゃ、昌兄顔真っ赤!」
「う、うるせー!」
お玉を振り上げくってかかる昌行から逃げるように剛はキッチンから出て行った。
普段の夕食は弱肉強食の場である。
しかし、今日は争いの中心になる快彦がいないため、静かな食卓になっていた。
「・・・静かだねぇ」
ぽつり、と博が呟いた言葉に。
家族が一斉に首を縦に振った。
「一人いないと違うな」
会話が弾まねぇな、という昌行に。
「快兄が普段から五月蝿いからじゃないの?」
と、ご飯を口いっぱいに頬張りながら健が言う。
「いや、剛と健がいない時もこんな感じだったよ」
「「へぇ〜」」
博が言うと、双子はご飯粒の付いた顔を上げた。
「お前ら、口についてんぞ」
ちょんちょん、と口の端に指を当てながら昌行が指摘し。
双子は互いに顔を見合わせた。
「あ、ホントだー剛超付いてる!」
「健だってつきまくりだぜ」
言いながらお互いにご飯粒を取っている風景に、昌行と博は微笑んだ。
その横で。
あまり食の進んでいない准一が目に入る。
はむっとフォークをくわえ、下を向いている。
「准、どうした?」
「・・・・・よしくんいぃへんと、じゅんさみしい・・・」
見る見るうちに大きな瞳に涙が溜まっていく。
博が慌てて抱き上げると、ぎゅむっとしがみついてきた。
「うぇえぇー・・・」
「うんうん。寂しいなぁ、准」
よしよし、と背中を優しくポンポンと叩きながらあやす。
それを見ていた昌行の腰元に、剛と健がしがみついた。
潤んでいる瞳。
准一の素直な気持ちに触発されたらしい。
「快兄、帰ってくる?」
「帰ってくるに決まってるだろ。1週間もすりゃまた五月蝿くなるさ」
昌行の言葉に、双子はホッとした表情でニィっと笑い。
そうだ!といいことを思いついたように、健が声を上げた。
部屋に走り、ペンを持って戻ってきて。
居間にあるカレンダーの日付を、ぐりぐりと大きな丸で囲んだ。
それは、快彦の帰ってくる日で。
「こうすればわかりやすいじゃん!」
「おっ、考えたな健」
にっこりして昌行が言うと、えへへと照れくさそうに健は笑った。
「准、快兄この日に帰ってくるんだから、もう泣くなよ」
「ほんと?ごうくん、ほんと?」
「おう」
頷く剛を見てぱぁっと笑顔になる准一を見て。
家族全員が心から微笑んだのだった。
6日後。
昌行の言ったとおり、快彦が帰ってくると坂本家は元通りになった。
元通りというより、前より五月蝿くなったというべきか。
そんな家族たちにため息をつきつつも。
これがウチなんだよな、と微笑む昌行がいた。
カレンダーの大きな丸を見て、快彦が健をぎゅむーっと抱きしめたのは言うまでもない。
そして、そんな兄に見事なアッパーを食らわせた健がいたことも。
>誰か一人が欠けるだけで、会話が変わるものです。
2006.8.29